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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
59/227

58 接触

 “死人“を誘い出すには、街に『魔劇』のヴェロニカが滞在しているという噂が広まるのを待たねばならない。ということでアレシャたちは時間を潰すことにした。

 自分たちで“死人”について調べようとも思ったが、そのさなかに“死人”と遭遇する可能性も大いにあるので控えることにした。“死人”とは接触したいが、こちらが“死人”の調査にきたと向こうに知られるのは本意ではない。結局、普段通り過ごすことになった。

 宿で拠点とする部屋をとり、そこらの店で食事をとる。当然、それらの請求書は商会宛てである。皿にたんまりと盛った肉料理を口に運びながら、ダレイオスは店内の様子を観察する。客はヴェロニカやアレシャの方を見ながら、小声で話をしているようだった。ヴェロニカの思惑通り、噂は広まっていっているらしい。


「しかし、私に誘われて“死人”がやってきたとしてもどうやって“死人”かどうか判断するんだ?」


 口に付いたソースをメリッサにふいてもらいながらダレイオスが尋ねる。当然の疑問だが、ヴェロニカにはそれができる“自信“があった。彼女はその“自信“を懐から取り出してテーブルに置く。それは紫に輝く一つのアクセサリーだった。


「ダマスクスの街で見つけたの。スギライトのペンダントよ」

「スギライト……?確か、怪我人の治療の際に用いられるものだな。ですよね?」


 ヘルマンの確認にヴェロニカが頷きを返す。正しくは、対象が治療すべき怪我人かどうかを判断するためのものだ。対象の生命エネルギーを感知し、それが少ないほど大きく振動するという代物である。メリッサはそのペンダントを手にとって観察してみる。


「へえ、綺麗なペンダントですね。でも、なんでそんなものを買ったんですか?」

「ペトラちゃんが前に言ってたことを思い出したのよ。精霊は生命エネルギーに反応して集まるけれど、“死人”は精霊がよりつかない。それは“死人”は一度死んだ存在故に生命エネルギーを持っていないから」


 ヴェロニカがそこまで話したところで、アステリオスが納得がいったというように手を叩いた。


「なるほど、そのペンダントが激しく反応した生命エネルギーの少ない人間、それが“死人”というわけだ」

「そう。すぐ近くにいる人にしか反応しないから、道行く人から“死人”を見つけるのは難しいけれど、私たちに接触してきた人物が“死人”かどうかの判断はできるってわけよ」


 ヴェロニカが得意げに鼻を鳴らし、他の四人は素直に感心する。このパーティのリーダーがヴェロニカであることはもはや疑いようがなかった。明確な方針が定まったところで、五人は食事を終えて店を出た。この後は街をぶらぶらする予定だ。言い方が悪い。警戒を怠らず、“死人”が接触してくるのを待つ予定だ。

 あくまでも普段通り過ごしている中、何人もの人間がヴェロニカたちに話しかけてきた。話題の冒険者と話したいという人、自分たちのパーティに加わるよう頼んでくる人、ヴェロニカに握手を求める人、ヴェロニカにサインを求める人、ヴェロニカにこっそり触ろうとしてヘルマンに絞められる人、色々だった。

 その中で一番多かったのは、川の水が使えなくて困っているから魔術で水を出して欲しいという人だ。その切実な頼みを断ることなどできず、ヴェロニカとヘルマンが水を提供することになった。最終的には街の至る処から人が集まり、水を求める列ができてしまうほどだ。少し話が大きくなりすぎてしまったが、水を貰ったどの人もお礼を言って笑顔で帰って行くのを見て、五人も自然と笑顔がこぼれる。

 しかし、ヴェロニカはその間もペンダントの確認を怠らなかったが、“死人”の接触はなかった。これだけ人の注目が集まっている中で接触してくるということもないであろうが。

 人の列が消えた時にはすでに日が落ちかけていた。いつもならそろそろ宿に帰ろうかという時刻だが、まだ街をうろつくことにした。“死人”が接触してくるなら、人だかりが消えた今こそが絶好のチャンスなのだから。

 そしてその想定通り、出発しようとした一行を呼び止める男の声が聞こえた。


「はぁ、はぁ、すいません!Aランク冒険者の『魔劇』のヴェロニカさんでしょうか!水を提供して頂けるとお聞きしたんですけど……」

「っ!ええ、大丈夫よ。でも、水を入れるものがないみたいだけれど」

「あっ!すいません、話を聞いて急いで飛び出してきたもので……。申し訳ないのですが俺の家まで来て頂けますでしょうか?あ、その分の代金もお支払いしますので!」

「いえ、あなただけからお金をとるなんてできないわよ。勿論タダで構わないわ。じゃあ、とりあえずあなたの家まで案内して貰えるかしら?」

「はい、ありがとうございます!では、俺に着いてきてください」


 男はそう言って来た道を引き返していく。男が背を向けたとき、ヴェロニカが目配せをした。その眼差しは鋭い。それで四人も察する。この男は“死人”なのだと。相手の様子を見る限り、五人が“死人”を探りにきたことには気づいていないようだ。ならば誘いに乗って敵の懐に潜り込むのが得策だ。五人は男の案内に黙ってついて行く。十分ほど歩き、一つの建物の前で男は立ち止まった。そのドアを開き、五人を招き入れる。


「ここが俺の家です。少し散らかってますけど気にしないでください。すぐに樽を用意してきますので、ここで少しお待ち頂けますか?」

「わかったわ」


 ヴェロニカが頷き、男は奥の部屋へと消えていった。警戒心を解く者は誰もいない。空気が張り詰めた部屋に静寂が訪れる。不自然なまでの静寂。誰のか知れない息をのむ音が聞こえた。

 その次の瞬間、ダレイオスらは光に包まれ、ドーム状の壁に覆われた。結界だ、と誰もが気づいた。それも見覚えのあるものだ。以前、聖地アルバンダートでヨーゼフという“死人”も用いた、内部の魔力反応を遮断する結界である。

 初見ならばそれなりに焦る代物だが、ダレイオスにとっては二番煎じもいいところ。脅威には到底なり得ないものだった。五人はいたって冷静だった。ここまでは想定通りの展開だからだ。後は敵の戦力をある程度見定めた頃合いに攻勢に転じ、一気に殲滅する。それからこの建物内を調査するという段取りになっている。

 もしこのまま『冥界術式』が発動して殺されそうになったとしても、ダレイオスはすばやく対処できるように準備をしている。すでにその手には白く輝くガントレットが装備され、魔力を集中し始めていた。ダレイオスがいつでも結界を解くことができるようにそっと手を触れる。だが、そこでダレイオスはその結界に違和感を覚える。見た目は普通の結界だ。しかし、ダレイオスにはそれが結界の形をした別の何かに感じられた。

 そして次の瞬間、更なる想定外の出来事が五人を襲う。

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