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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
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57 アンティオキア

 商会の金で万全の準備を整えた一行は、ヴェロニカを先頭に歩き出す。ここはダマスクスから遠く北にある転移魔法陣。ダマスクスから転移してきたところだ。目指すはアンティオキア。ランドルフから聞いた、“死人”が確認されたという街だ。まずはティフォン川へ向かう。そこから川に沿って下っていけばアンティオキアの街にたどり着くのだ。しかし、たどり着いたティフォン川には何にも怪しいところは見られなかった。以前、汚染されていたレイン川のほとりを歩いていたときは魔素で活性化した魔物に何度も襲われたのだが、そういったことも一切無かった。


「これってやっぱりこの川は汚染されてないってことだよね。アンティオキアに行っても収穫あるのかな……」

「まだ“死人”の手が回っていないだけの可能性も十分あるわ。街まで行ってみないことには何とも言えないわね。……でも、“死人”から状況を得るっていうのも中々難しいわよね。尋問はできないでしょうし……」

「そうですね。あいつらとっ捕まえても死んじゃうんですもんね。何か証拠とか残してくれてるといいんですけど」


 メリッサが心底面倒くさそうにため息をついた。近頃は荒事が多いので彼女にも疲れが溜まってきているのだろう。そんな姿を励ますようにヘルマンが声をかける。


「ファーティマの街に何も残っていなかったのは、あのアングイスという男が用心深かったからだ。アンティオキアではまだ何か残っていてもおかしくないぞ」

「別にヘルマンさんに励まして欲しくないです」

「えっ」

「だ、大丈夫だよメリッサさん!きっと何か見つかるって!」

「そうですよね!アレシャちゃんの言う通りです!いやー、励ましてくれてありがとう!」


 メリッサがアレシャに抱きついて愛で始めた。凄まじいまでの待遇格差である。別に構って欲しかったわけではないが、少し傷ついたヘルマンの肩をアステリオスがやさしく叩く。そこで慰めるのはお前じゃなくてヴェロニカさんだろう、とヘルマンは思ったが黙っておくことにした。


 明朝、五人はアンティオキアに到着する。ティフォン川には特に変化はなかったが、アンティオキアの街にはどこか暗い雰囲気が漂っていた。川の水は利用しないように、という通達が商会から出たのだろう。川を生活の一部に組み込んでいる水辺の街にとっては厳しいことなのだ。


「で、これからどうしよっか。やっぱり隠れてたりした方がいいのかな?」

「いいえ。私たちでは“死人”を見分けることができない以上、何もなしに“死人”を探すことは難しいわ。だから、向こうから出てきて貰うことにしましょう」

「出てきてもらう?そんなのどうやって……」

「すぐに分かるわ。まずは商会へ行きましょう」


 首をひねりながら、アレシャは意気揚々と歩くヴェロニカへついていく。アンティオキアは太古の街並みが未だに残る歴史ある街である。その歴史は千八百年近い。ダレイオスは昔を懐かしむように辺りを眺めていた。そうしている内にヴェロニカの目にアンティオキアの商会が見えてきた。あまり大きな街ではないので商会も小規模なものだったが、そのドアをヴェロニカが勢いよく開け放つ。大きな音が響き、商会にいた人たちの視線がその音の主に集中する。


『ずいぶんと荒々しいな。どうかしたのか?』

「わ、わかんない……」


 アレシャが困惑していると、商会の中にいた冒険者たちがざわめき始める。


「おい、あれって『魔劇』のヴェロニカだろ?最近の事件で功績をあげているっていう。……すっげえ美人だな」

「じゃあ、後ろにいるのがそのパーティってわけか。確か、ヘルマンとメリッサっていうBランク冒険者、あとアレシャとペトラって新人がいるんだってよ」

「新人?そんなのがAランクの戦いについていけるのかよ」

「それが噂じゃ、その二人は試験でいきなりCランクに認定された逸材なんだってよ。しかも、アレシャってやつは二月足らずでBランクになったって話だ」

「そりゃすげえ!どれがそいつなんだ?」


 アレシャが耳をすませば、そのような会話があちこちから聞こえてきた。彼女の想像以上にヴェロニカ率いるパーティのことは知れ渡っていたらしい。アレシャの頬がだらしなく緩む。すると、ヴェロニカがアレシャの手を掴み引っ張った。いきなりのことでなんの反応もできないまま、何人かの冒険者がたむろしている場所まで連れて行かれる。他の三人も状況が理解できていないようだが、とりあえずヴェロニカについていくことにした。

 いきなり近寄ってきた美女に冒険者たちは少し狼狽えるが、すぐにキリッとした顔を作り、前髪を気にしたりしてしまってもいた。が、ヴェロニカはそんなことは一切気にしていないようだった。悲しい男の性にダレイオスは顔を覆いたくなるが、できない。そんな彼の思いを知らぬヴェロニカはアレシャの背を押し、冒険者に話しかけた。


「はじめまして、Aランク冒険者の『魔劇』のヴェロニカよ。こっちは私のパーティにいるアレシャ。冒険者としては新人だけど、中々に将来有望な子よ。もしかしたらどこかでお世話になるかもしれないから、ご挨拶だけさせて貰ったわ。ほら、アレシャちゃんも挨拶して」

「ど、どうもアレシャです」


 冒険者たちはそれを聞いて目を丸くした。どうやら、噂の新人がこんな少女だとは思っていなかったのだろう。だが、またすぐにキリッとした顔を作って応えた。


「それはどうもご丁寧に。俺たちも冒険者としてそれなりにやってきている。お役に立てることもあるだろう。よければ、連絡先を……」

「それじゃ、失礼するわ」


 先ほど噂話をしていたときよりも心なしか声が低い男たちの話をスパッと切り上げ、ヴェロニカはアレシャの手を引いて別の冒険者たちの元へ向かった。そうやって、ヴェロニカは次々とアレシャの紹介をしていく。最初は戸惑っていたアレシャも途中からは慣れてきて、自己アピールを付け加えるくらいの余裕はでてきた。

 全員に挨拶を終えて商会を出たところで、ヘルマンがどういう策なのかとヴェロニカに小声で尋ねる。


「策なんて大したものじゃないわよ。“死人”はダレイオスちゃんのことを狙っているんだから、こうやって広めておけば寄ってくるんじゃないかと思って」

「なるほどなー。あれ、それってつまり……」

『囮、だな』


 アレシャの顔から色が抜ける。囮、極めて穏やかじゃない響きである。そこでメリッサがバッと手を挙げた。


「ヴェロニカさん!ちょっとそれは酷ではないでしょうか!アレシャちゃんが怪我をした場合、私はどうしたらいいんでしょうか!」

「知らないわよ……。でも、これが一番手っ取り早い方法だし、知名度を上げるのはアレシャちゃんとしても望んでいるところなんじゃないかしら」

「知名度……有名……おお……」

「でも囮に使っているのは事実だし、事前に言っておくべきだったかもしれないわね。ごめんなさい」

「ううん、わたしにはダレイオスさんがついてるから大丈夫!ね?」


 その問いかけに応じるように、ダレイオスがアレシャと交代して自信満々に小ぶりな胸を叩く。


「私がいれば大丈夫だ。“”死人“なぞに遅れはとらない」

「ありがとう。それじゃ、よろしく頼むわね」

「ああ。これからは私が表に出ていることにしようと思うが、構わないか?」

『うん。それでよろしく』


 アレシャの同意を得て、五人は次の行動を開始した。

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