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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
56/227

55 人間だもの

「はぁぁぁ……!」

『そうだ。そのまま魔力をこめて、安定させて……いや、待て!』

「え?」


 ダレイオスが静止した次の瞬間、アレシャの手にあった魔法陣が爆発した。咄嗟に飛び退いたおかげで怪我はなかったが、また失敗だとアレシャは肩を落とす。

 今、アレシャは魔術を制御する練習の真っ最中である。これまでは魔術の発動すらさっぱりできなかったが、ダレイオスのおかげで魔法陣の展開から発動までは行えるようになった。しかし、その発動に全ての問題が集約していたのだ。発動は魔法陣に魔力を流し込むことで行うのが一般的だが、アレシャは持ち前の魔力量が多すぎてその加減を中々掴むことができなかった。その結果、発動する魔術は極端にショボいものか、魔力を無駄に使いまくったバカ火力のものしか出すことができなかった。とても戦いの中でまともに使えるものではない。というわけで旅の途中で少しずつ練習しているわけだ。一向に上達しないようだが。


「はあ、はあ、駄目だ……。ちょっとでも魔力を注いだら全部流れていっちゃう……」

『だが、逆に考えれば問題はそれだけだ。ハッキリしていてお前向きだろう?』

「まあ、それはそうだけど、道は険しい……や……」


 アレシャはそのまま気を失った。というより寝た。魔力切れの疲労によるものだ。わざわざ起こすこともないと思ったダレイオスは、メリッサにお姫様抱っこされて今日の野営地へと戻っていった。


 苦労しつつも自信を鍛えながら一行は順調に北上していき、明日にはダマスクスへ到着するという日の夜。ヴェロニカが作った薄味のスープを夕食に食べながら、アレシャがアステリオスに一つ質問をぶつけた。何やら気になっていたことがあるらしい。


「アステリオスさんは亜人なわけだけど、亜人にも色々いるでしょ?アステリオスさんの種族について聞いてもいい?」

『ほう、それは確かに気になるな。何か特殊な能力があるなら、これからの戦いの参考になることもあるだろう』


 アステリオスも「そうだな」と同意をしめした。兜を外し、以前にも見せた漆黒の肌が露わになる。アレシャはその顔をじっくり観察してみるが、やはり肌の色が違うだけで見た目は人間と変わらなかった。


「聞いておいてなんだけど、何か人間と違うところあるの?」


 アレシャが思ったことを率直に訪ねると、アステリオスは大声で笑った。


「そんな風に言うのはアレシャちゃんくらいだ。大抵の人間はわたしを人間と同じに扱ったりしないものだよ。で、わたしの種族についてだったな。わたしたちは特に自分たちの種族名を意識したことはないが、世間では“シャッル”と呼ばれているな。蔑称らしいが」

「シャッル……もしかしたらって思ったけどやっぱりそうなんだ。それって、亜人の中でも、その、結構厳しい扱いを受けてる人たちだよね……」

「そうだ。だから甲冑で姿を隠していたのだ」

『分からんな。なぜ見た目が違うだけで忌み嫌われるんだ?』


 ダレイオスが純粋な疑問を持ったが、アレシャはそれに答えなかった。どうしたのか、と他の四人が聞くのでアレシャがダレイオスの疑問を伝えるが、やはり誰も答えなかった。知らないというよりも言いづらいという風だ。となると、その役割はアレシャに回ってくる。


「その、『英雄』の伝承だと『魔王』って魔物を統べてるみたいな話だったでしょ?だから『英雄』を崇拝する人、特にアリア教徒からは亜人の人たちは『魔王』の配下の末裔だって言われて嫌われてるの。で、その中でもアステリオスさんの種族であるシャッルは、伝承の中の『魔王』と同じ漆黒の皮膚をしているからかなり厳しい扱いを受けているのというわけで……」


 一気に言い切った。話を聞いたダレイオスはため息をついて萎んでしまった。彼に責任は全くないとはいえ、落ち込んでしまったようだ。アレシャはダレイオスに大丈夫かと声をかけたが、気にせず話を進めてくれと言われたのでアステリオスに話の続きを促す。アステリオスは少し申し訳なさそうにしながらも、それに応えることにした。


「シャッルの名前は広く知られているが、わたしたちの種族的な特徴はあまり知られていない。外見的な特徴は見ての通りの皮膚の色だが、体内には魔力管という器官がある」

「魔力管……?それは何だ」


 ヘルマンが食いついた。魔力管などという器官は人間には存在しないのだ。魔術に関係がありそうなものに興味をもつあたり、やはり彼は研究者なのだろう。アステリオスはその問いに答えるために自分の首筋を指し示した。そこに一本の管が通っているのが確認できる。


「これが魔力管だ。その名の通り、この中には魔力が絶えず流れている」

「へぇ……それにはどんな役割があるのかしら?」

「わたしは魔術には詳しくないのだが、身体強化というものは魔力を体内で循環させて行うのだろう?それと同じ効果がこれにはある。つまり、普通の人間よりも身体機能がかなり優れているということだ。だが、わたしの持つ魔力の全てが身体強化に使われるため、普通の魔術を扱うことができないのだがな」


 アステリオスがそう言って笑う。それにズバリ言い放ったのはメリッサだ。


「つまり、ちょっと元気な人間ってことですよね。それってもはやただの人間ですよね」


 それは彼女のいつものアステリオスへの遠慮の無い言葉だったが、アステリオスにはとても優しい言葉に感じられた。彼は「人間」と呼ばれたことは今まで一度もなかったのだから。他の三人も同じように「人間だ」と言って笑った。ダレイオスはそれをほほえましく見ていたが、自分の存在によってアステリオスのような不遇な人々がいることに責任を感じずにはいられなかった。


 一行は荒野を歩く。ダマスクスに近づくにつれて、景色はどんどん文明から離れていった。もう三日も人の姿を見ていない。照りつける日差しがじわじわと体力を奪っていく。


「ああもうしんどい……。わたしたち以外に人に会わないって、本当に道あってるの?」

「ダマスクスに向かう人のほとんどは直通の転移魔法陣を利用するのよ。ただ、私たちはお金がないから歩くしかないの」

「……ごめんなさい」


 アレシャはまた少し落ち込んでしまった。それをメリッサが慰めるいつもの光景だ。なので誰も特に気にせずに真っ直ぐ歩いて行くと、ついにヴェロニカが陽炎の向こうに見える何かを指さして叫んだ。


「見えたわ!あれがダマスクスよ!」

「おお!あれがダマスクスの街……街?」


 アレシャが首をひねる。ヴェロニカが指さしたのはただの岩山だったからだ。間違いなく街には見えない。


「ダマスクスは鉱山丸々一つが街になってるんだ。ここからじゃ見えにくいが山の斜面にそって建物が建っている」


 ヘルマンの解説にアレシャは「なるほど」と頷きを返す。

 目的地が見えたことでまた元気が沸いてきた一行はダマスクスへ向かう。

遅れてすまないと思っております。

さらに、所用により次回更新は6月26日の日曜日になるかと思います。

それ以降はまた隔日更新に戻るのでよろしくお願いします。

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