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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
53/227

52 別れと再会

「もう行くんだ。やっぱり寂しくなるね」

「うん。でも時間がたてばたつほど別れにくくなるしね」


 アレシャたちはガザの街の入り口でペトラの見送りをしていた。 感動の別れのシーンである。にもかかわらず、見送る四人は疲れ切った顔をしていた。お金を失えば心の余裕も失われるのである。さすがにペトラも心配になる。


「だ、大丈夫?なんか凄い別れにくいんだけど」

「大丈夫。昨夜はみんなで作戦会議したから。まずはお金貯めてから出発するよ」

「そっか。あたしも強くなるから頑張ってね」

「うん」

「あたしがいないんだから、色々迷惑かけないようにするのよ」

「うん」

「……メリッサとの、あの、ああいうことするのも、ほどほどにね」

「え!?その誤解まだ続いてたんだ!?」


 アレシャが驚き弁解しようとするが、ペトラは相変わらず耳を塞いで聞こうとしなかった。さすがにらちが明かないのでアレシャは別の話をすることにする。


「ペトラも大丈夫なの?セインツ・シルヴィアまでそれなりにあるけど」

「それなら、他のパーティに同行させてもらうことになってるから心配いらないわ」

「そっか」


 そして、少しの沈黙が流れる。もう何も言わなくても十分なようだった。ペトラは最後に「じゃあね」と呟いて、街の外へと駆けていき、待たせていた同行する冒険者たちと合流した。

 アレシャはただ黙って、その後ろ姿に手を振り続けていた。


 四人はそれからガザの商会へ向かった。もちろん、日々を生きるための資金を稼ぐためだ。様々な依頼が貼られた掲示板の前で、その一つ一つを吟味していく。


「うーん、街がこんな状況だから仕方ないけど、報酬のいい依頼はないわね……。これじゃ、その日暮らしが精一杯だわ」

「なら、この街を離れる方がいいのかもしれないな」

「でも、その旅の食糧すら確保できない状況なワケですけど」

「じゃあ、道中で倒した魔物の肉を食べるとか……」

『それはやめた方がいいな。運が悪いと食事にありつけず弱ったところを魔物に襲われて終わりだ』


 四人はため息をつき、とりあえず何でもいいから依頼をこなそうと掲示板の張り紙に手を伸ばしたそのとき、商会に誰かが入ってきた。ガシャリ、という鎧の音がする。四人がその音のする方に振り向くと、そこに立っていたのは全身を黒い甲冑に包んだ大男だった。思い切り知っている人物だった。その男はアレシャたちを見つけると大きく手を振った。


「おお!ようやく見つけたぞ。久しぶりだな」

「ああ!あー、あ?……あ!あ、あ、アステリオスさん!」

「おい、今完全に忘れてただろう。置き去りにしておいてその扱いはひどくないか?」


 大きな斧をかついで四人の元々にズンズン歩み寄ってくる。アステリオス。少し前までメリッサと組んでいたBランク冒険者だ。ファーティマの事件の際、なんやかんやで仕事を押しつけられてしまった哀れな男だ。だが、置き去りとは聞き捨てならない。アレシャたちはアステリオスが「先に行ってくれて構わない」と言うから、こうやって旅をつづけてきたわけだからだ。アレシャがそのように言うと、アステリオスの動きが止まる。


「そんなふうに言ったのは誰だ?」

「え?それは……」


 全員の視線がメリッサへ注がれ、メリッサは咄嗟に視線をそらした。だが、その頬には汗が伝っていた。大方予想していたアステリオスはメリッサの頭に一発拳骨を落としてからアレシャたちへ向き直る。アレシャも今の一連の出来事は無かったことにしてアステリオスに訪ねる。


「よくここにいるって分かりましたね?」

「ファーティマにランドルフ商会長が来られてな。そのとき、お前たちがセインツ・シルヴィアへ向かっていると教えていただいたのだ」

「ああ、そうなんですか」


 そして、少しの沈黙が流れる。アレシャは何か話さねばと焦るが、なぜかアステリオスも焦っていた。


「も、もしかして歓迎されていないか?やっぱりわたしは嫌われているのか?」

「え?」

「置いて行かれたと知ったときからもしやとは思っていたが……悪いな。邪魔をした」

「え!ちょっと待ってください!」


 悲しみを負った背中で立ち去ろうとするアステリオスをアレシャが引き留めた。そんな哀愁ただよわせて立ち去られて放っておくことはできない。何より、メリッサがそう仕向けたのだとしても置き去りにしたのは事実なのだ。そんな罪悪感からもアレシャはアステリオスをなんとか励まそうとする。それはヴェロニカとヘルマンも同じようだった。三人はアステリオスの背中をさすりながら優しく声をかける。そのかいあって、アステリオスは気を持ち直したようだ。


「いや、少し感傷的になってしまった。すまない。慰めてくれるなんて、やはりいい人たちだな。疑ってすまない」


 アステリオスは無事元気になった。その落ち込む原因を作ったのはアレシャたちなのだが。ひどいマッチポンプである。そこで頭をさすりながらも依然として冷たい態度のメリッサがアステリオスに尋ねた。彼女としては、色々口うるさいアステリオスの存在は鬱陶しいらしい。


「で、結局何のようなんですか?わざわざ追いかけてくるってことは何か用があるってことですよね」

「用というか、普通に同行するつもりだったが。悪いか?」

「ええ!?そんなの……」

「ちょっと待ってメリッサちゃん」


 露骨に嫌そうな顔をしたメリッサをヴェロニカが制す。アステリオスに聞こえないように、四人で円を組んだ。


「どうしたんですか?」

「これはチャンスよ。あの黒い甲冑は金欠の私たちの元に転がり込んだ財布よ」

「言い方ひどくない!?」

「ごめん、間違えたわ。でも、アステリオスさんをパーティに迎え入れるメリットは多いわ。私たちに欠けている頼れる前衛職だし」

「特に断る理由もないしな。メリッサが認めてくれればそれでいいんだが……」


 三人の視線がメリッサへ向く。少しの間黙り込んでいたが、仕方ないと頷いた。というわけで、不思議そうに様子を窺っているアステリオスの肩をアレシャが叩いた。


「よし、採用!よろしく!」

「あ、ああ。またよろしく頼む」

「でも、その前に改めて色々チェックさせて貰うわ。今私たちが置かれてる状況が結構ややこしいのよ」

「そうなのか。じゃあ何でも聞いてくれ」


 了承を得て、ヴェロニカは色々とアステリオスに尋ねる。アステリオスが知らない情報について質問をしたりもしたが、不自然な点は無かった。一応警戒はしたものの、問題はないようだ。あと確かめるべきなのは残り一つだけだ。


「わたしたちアステリオスさんの顔ってまだ見たことないわけよね」

「そういえば私も見たことないです。特に興味もなかったですけど」

「そうね。よければ見せて貰えるかしら?」

「み、見せるのか?それは、見せなければならないのか?」


 それまでつらつらと答えていたアステリオスが初めて抵抗を見せた。怪しい。誰もがそう思った。


「そう抵抗されると、こちらとしては取らざるを得なくなるんだが」

「ぬぐっ、そうだな。信用してもらうには取らなければならないな。……そうだな」


 アステリオスはかなり迷っているようだ。見られたくない、というのにはそれなりにしっかりとした理由があるらしい。考えた結果、アステリオスは決心したようだ。


「分かった、見せよう。わたしもお前達を信じている。お前達なら受け入れてくれる、と。だが、ここでは見せられない。少し場所を移して良いか?」


 真剣にそう述べるアステリオスの提案を四人は了承する。そしてアステリオスは四人を連れて商会を出て、細い路地へと入っていった。他の人の目はない。思ったより深刻そうな告白をしようとしているようなので、アレシャが声をかける。


「あの、そんなに嫌なら無理しなくてもいいんですよ?」

「いや、わたしとしても信用を得たいんだ。それに、共にいくならいずれ話しておくべきことだ」


 アステリオスの決意は固いようだった。ならば水を差す方が無粋というものだろう。アレシャもそれ以上何も言わなかった。

 アステリオスは自分の兜に手をかけ、それを外す。そして兜の下から現れたのは漆黒の肌だった。明らかに人間のものではない黒々とした肌だ。それが何者なのか気づいたのはアレシャだ。


「その肌……もしかして、亜人?」

「そうだったのね。初めて見たわ」

「俺もだ。驚いたな」

「私も初めて知りました」


 アステリオスの姿を見て、それぞれが思い思いの驚きの反応を返す。が、そこに否定的なものはなかった。アステリオスは拒絶されなかったことにホットしたように息を吐いた。ただ、もはや恒例だがダレイオスは状況が理解できなかった。というわけで、いつものようにアレシャが解説を入れる。


「亜人っていうのは、まあ、人間と魔物の中間って感じかな?パッと見は人間だけど、皮膚の色が違ったり、人間には無い器官があったりするんだって。本で読んだ。でも、土地柄とか宗教とかでは人間じゃなくて魔物として扱わることもあるって聞いた」

『ほう、なるほど。だが、別に……気にするところは無いな』

「うん。別に、ね」


 アレシャがけろりとそう言う。それなりに覚悟していたアステリオスに対してその発言もどうかと思うが。しかし、アレシャ以外の三人も「別に」という表情をしていた。


「でも、それなら姿を隠すのも無理ないわね」

「ああ。わたしは特に見た目だけで亜人とバレてしまうからな。こうして甲冑で見えなくしていたのだ。……それでも、もう少し反応があってもいいと思うんだが」

「反応、ですか」

「正直、うちのパーティにはもっと人に言えないようなヤツがいるからな」


 全員がアレシャの方を向く。アレシャもその通りだと頷いていた。

 どういうことか理解できないアステリオスは、『魔王』の口からそのワケを知らされて大きくため息をついたのだった。

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