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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
50/227

49 会議は進む

 自分の何気ない呟きに凄まじく食いつかれてペトラは戸惑う。


「な、なななに?どうしたの?」

「一度死んでから読み帰った人間、私たちはよく知ってるじゃない」


 ヴェロニカに言われてペトラも気づいた。“死人(しびと)”。それは『冥界術式』という禁術によって死んだ後再び蘇らせられた人間のことだ。それならば、千九百年の時を越えることができるかもしれない。相変わらず状況を理解できない者には、ヘルマンが代表して“死人”について説明する。


「なるほど、“死人”か。儂もランドルフから少しだけ聞いたが、『冥界術式』に関係のある話はつい最近聞いたな。な?」


 オズワルドがそう問いかけたのはダレイオスだ。ダレイオスはそれに応えるように頷いた。


「ああ。ここにいるヤツには話したが、私の国は『冥界術式』によって滅んだ。つまり、今回の魔物関連の事件の容疑者は、かつて私の国にいた者だということだ。全くよくできた状況だな」


 オズワルドもそれに頷く。“死人”と『七色の魔物』に関連があるのかどうかは以前から気になっていたことだったが、それがついに繋がった。さらに、これはダレイオスの過去の謎を解き明かす手がかりもなり得るかもしれない。ダレイオスは自分でも緊張しているのが分かった。


「ダレイオス。何か心当たりはないか」

「『黄金の魔物』の姿を見た人間は山ほどいる。ヤツはペルセポリスの街に現れたからな。……だが、『七色の魔物』の姿を見た者は限られてくる」


 ランドルフの問いに答えるため、ダレイオスは頭に手を当て記憶を辿る。遥か千九百年前の記憶を。


「あのとき、『七色の魔物』を討伐したのは私とアレクサンドロスの二人だ。いつも二人だけで大森林を探索して……いや、待て。確かあのときは、私たち二人にはお目付役がついてきていたんだ。アレクサンドロスには副官の男が。私にも……一人の男が」


 頭を整理しながら話していたダレイオスの言葉が止まる。彼の頭の中に一人の人間が容疑者として浮上した。誰もが黙って次の言葉を待つ。ダレイオスが再び、口を開いた。


「私のお目付役だった男の名は、ヘリオス。当時、私直属の宮廷魔術師団の団長を務めていた男だ。そして、私の友人でもあった男だ」


 ついに語られた男の名、ヘリオス。これまでの推理から辿れば、その男以外に千九百年前の『七色の魔物』の姿を現代に再現できる者はいなかった。


「宮廷魔術師団の団長、か。それなら魔術の腕は相当なんだろうな。そいつなら、あの魔物どもを作ることも可能だと思うか?」

「ああ。少なくともヴェロニカよりはかなり強かった。もしかしたら、今の私となら互角かもしれない。専門の知識を得ることができれば、それらの魔物を作り出すこともできるだろう」


 ダレイオスと互角かもしれない。その言葉に皆ため息しか出なかった。だが、確定とみてもいいだろう。一連の事件の大本は“死人”によるもの。そして『七色の魔物』と『黄金の魔物』を作り出したのはヘリオスという男。間違いなく大きな進展だった。


「さて、“死人”の話となると丁度いいものがここにある。明日の新聞だ。つい数日前にようやくファーティマの事件の調査が終わってな。それについての報告もしておこう」


 ランドルフが人数分の新聞を取り出し、フェオドラが配っていく。元々“死人”についての話もするつもりだったのだろう。全員がその一面の記事を黙々と読む。

 記事の内容は、犯罪組織が街の地下で魔術の実験を行い、それによって土壌が汚染されたこと。それによってレイン川の水が汚染されていること。また、それに伴いファーティマ周辺への立ち入りが禁じられていること。当然だが“死人”については書かれていていない。


「まあ、表に出せる情報としてはこんな感じだ。今回の一件は商会の失態ってことで色々大変なんだが、それはお前らに関係ないんで置いておこう。ヘルマン、この事件の詳細について教えてくれ」

「分かりました」


 ヘルマンは地下で行われていた『冥界術式』の研究、そこにいた数多くの“死人”とアングイスという男について簡潔に述べた。それから、ファーティマの住民の大量消失についてもだ。話終えてからヘルマンがダレイオスへ尋ねる。


「結局、ファーティマの住民たちは見つかったんですか?」

「……いや、どこにもいねえ。ただあのとき、ファーティマ周辺で大きな魔力反応が観測されている。やはり、『冥界術式』で葬られたと考えるべきだろうな。まだ詳細は調査中なんで世間に情報は出してないんだが、まあ商会への批判さけられないだろうな」


 ランドルフは苦笑してそう言うが、その批判は商会のトップである彼へ向くことになる。自分たちが不甲斐ないばかり迷惑をかけてしまっているとダレイオスは反省する。加えて反省することはもう一つあった。


「そのアングイスにも逃げられてしまった。追い詰めておきながら失態をおかしてしまったのも私の詰めが甘かったせいだ。すまない」


 ダレイオスは頭を下げるが、ランドルフは手を振って頭をあげるように言う。


「仕方ねえよ。常識じゃ捉えられない連中だ。初見で対処できなくてもしょうがない。ただガントレットの持ち主、つまりアレシャのことは向こうのボスには伝わっちまってるだろうな」

「そうね。けど、そのボスの狙いがアレシャちゃんってのは……正直考えにくいわね」

「え!?こんなに可愛いんだから無理からぬことですよ!」

「メリッサ、黙っててもいいわよ」


 ペトラに言われ、メリッサは素直に口を閉ざした。これまでの会議でも特に発言していないので、これといって問題はなかった。


「じゃあ、その子が目的じゃないなら、ガントレットを狙ってるのか?」

「いや、それもないな。アングイスに捕まったとき少しヤツと話をしたんだが、ヤツの目的はガントレットの持ち主を殺すことにあるかのような口ぶりだった。ガントレット自体も高価な物ではあるが、そこまでして探すほどのものでもない」


 ブケファロスの意見をダレイオスが両断する。となると、残された可能性は一つしかなかった。全員の視線がダレイオスへと注がれる。ダレイオスも頷く。


「私、ダレイオスが狙いだということだな」

『ああ、そんな気がしてたけど……なんてこった』


 アレシャが人知れずうなだれる。ランドルフは大きくため息をつき、頭がガシガシとかきむしった。


「ってなるともう色々つながるんじゃねえか。『七色の魔物』も『黄金の魔物』もダレイオスを襲わせるためのものだったってワケだ」

「単純に考えるとそうなるか……。ピンポイトで事件にまきこまれすぎてるからな」


 セイフも同意を返すが、オズワルドがそこに異議を唱える。


「“死人”たちがダレイオスを狙っていることには同意だが、命を狙うものではないだろう。アングイスはわざわざ『冥界術式』で殺そうとしたんだ。つまり、普通に殺してしまっては意味が無いのだろう。第一、魔物を送り込めるということはダレイオスの居場所を把握しているということだ。アングイスが『ガントレットの持ち主を探している』という発言をしたこととかみ合わない」

「ふむ、そうだな……その通りだ。となると、あの魔物どもには別の理由があるってことか」

「あれ、じゃああたしたちが事件に巻き込まれてたのは……偶然?」


 ペトラがそう呟くと、誰もがため息をこぼしてしまった。偶然ならば運が悪いとかいうレベルではない。しかし、偶然ダレイオスが魔物の出現に居合わせたことで、被害を最小限に抑えられている。運がいいのか悪いのか。

 他に“死人”につながるような情報はないかとランドルフが尋ねると、そこでアレシャが思い出した。


『そういえば、アングイスがボスの名前を言ってなかったっけ。えっと、確か……』

「そうだ、アポロンだ。“死人”の組織のボスの名前だ。私が意識を失っている間にアレシャが聞いていたらしい。何かわからないか?」

「おいおい、そりゃビッグな情報じゃねえか。しかし、アポロンか。アポロン……」


 ランドルフが腕を組んで記憶を辿る。他全員も心当たりがないかと頭をひねる。しかし、誰も思い当たるものはなかったようだ。


「アングイスも自分の名前は偽名だと言っていた。アポロンもおそらく本名ではないだろう。手がかりにはなり得ないか……」

「そうね……。ランドルフさん、他にファーティマの調査から得られた情報は無いのかしら?」

「残念だが、お前らが調べた以上のことは何も出てこなかったぜ。施設内の色んなところから隠し部屋が見つかったが、そのどこの資料も全部綺麗に処分されていた。燃やした跡を見つけたから間違いない。全く用心深いこった」


 アングイスはダレイオスの脱走が判明した後も、すぐに接触してはこなかった。おそらくそのときに情報は全て消し去ってしまったのだろう。


「用心深い、ですか……むむ」


 しかし、そこでメリッサが珍しく難しい顔をしていた。

 ペトラが、どうかしたのかと尋ねた。発言の許可がおりたのでメリッサが感じた疑問を口にする。


「いや、単純な話なんですけど、そんな用心深い人が川の汚染まで考えつかないものなんですかね。あれがなかったら私たちはファーティマの事件にはきづかなかったと思いますけど」

「……言われてみればそうだな。今から思えば、聖地アルバンダートに現れたヨーゼフという“死人”も変だな。あいつは明らかに末端の人間だった。頭もあまり良いとは言えない。しかし、『冥界術式』を発動するための札を与えられていた。あんな男に力を持たせるなんて正常な判断ではないと思うが」


 ヘルマンがそう疑問をつなげる。皆が納得のいく解釈を探して頭を捻る。しかし、結局何も思いつかなかった。ただ、ヨーゼフはともかく、アングイスの件は確かに妙だった。川に魔素を流すことに別に目的があったと考える方が筋が通る。しかし、川に魔素を流すことによって起きることは魔物の活性化と人間への中毒症状。アングイスがこれを目的にしていたとはとうてい思えない。やはり情報が足りていなかった。

 一通り頭を捻りきったところでダレイオスが手を叩いて注目を集める。


「分からないのはしょうがねえ。となると、全部これからの調査次第だな。幸い、“死人”を見分ける方法ならある。信用のおけるエルフには“死人”を見かけたら連絡をよこすように伝えておく。実は、もうそれらしき報告が何件か入ってるんだ。そいつらを捕まえて少しでも情報を得る、ってのができればいいがな」

「末端に情報を与えないという方針である以上、難しいだろうな。だが、情報は幾らあっても問題ない。ここにいる全員、何かあれば逐一報告をいれるってことでいいな?」


 オズワルドの提案に全員が頷いた。話し合う材料もつきたということで、ランドルフが再び大きく手を叩いた。


「さて、今回はこんなとことだな!思ったより充実した会議になった。礼を言う。アルマスラ帝国には『黄金の魔物』の情報を渡さにゃならんのだが、“死人”のことは伏せたまま良い感じにまとめておいてくれ。頼んだぞ、フェオドラ」

「わかりました。それでは、これで解散ということでいいですね?」

「おう。今日はご苦労だった!」


 会議の終了が告げられ、誰からともなく席を立つ。セイフとブケファロスにはランドルフから通信用の魔法陣が刻まれたカードが手渡された。アレシャが持っているものと同じカードだ。そしてブケファロスはそれを受け取るや否や、会議室から逃げるように出て行った。しかしその肩が誰かの手で掴まれ、引き留められる。その手の持ち主はダレイオスだ。


「そう逃げるな。少しばかり話がある」

「……はぁ。話ってのはこれについてだろ?」


 ブケファロスが肩に背負っていた、赤い刀身の大剣を引き抜く。それをゆっくりと眺めて、ダレイオスは頷き肯定を示した。アレシャはその剣をいい業物だとは思うが、ダレイオスが興味を持った理由が分からなかった。首をかしげるアレシャに、ダレイオスが驚きの事実を告げる。


「この剣の名はリットゥ。お前にわかるように言えば、『英雄』の宝剣だ」

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