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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
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43 『黄金の魔物』第2ラウンド

 『黄金の魔物』の魔物は凄まじい攻撃の応酬に歩みを止められていた。なんとかセイフたちの到着まで持ちこたえてくれていたようだ。だが、それ相応の被害も出ていた。

 セインツ・シルヴィア前のいたる所に巨大なクレーターができており、『黄金の魔物』の攻撃の恐ろしさを物語っている。そこかしこには戦闘不能に陥った人たちが倒れていた。もしかしたら死人もでているかもしれない。その現状を見たセイフは一度立て直しを図るべきだと判断した。そのためには魔物の注意を自分たちへ引きつけなければならない。


「あいつの意識をこちらへ向ける。メリッサ、行けるか!」

「はい、大丈夫です!行きます!」


 セイフからとんだ指示に従い、馬にまたがったままメリッサが弓を構える。魔力を込めていき形成されたのは前にも見た槍ほどの多さのだ。雷の如く矢が放たれ、『黄金の魔物』の頭に突き刺さり、電撃が走る。死角からの一撃に魔物は雄叫びを上げてもがき、ゆっくりと振り返った。すでにアレシャと交代していたダレイオスが叫ぶ。


「セイフ、ヤツの正面に立つな!常に横に回り込むんだ!」

「おう、了解!二手に分かれて左右から攻めるぞ!ブケファロス、もう半分の指揮を頼む!」

「分かりました!」


 セイフとブケファロスを先頭にして二つの隊は魔物の側方へまわりこむ。そのとき、魔物が頭を下から突き上げるように振り抜いた。衝撃波が真っ直ぐに大地を割り、地面をえぐり取る。


「うおっ!これはまたとんでもない威力だな……。よし、全員準備は良できてるか?いいか、あいつの攻撃は絶対に食らうんじゃ無いぞ。かかれ!」


 武器を持った冒険者が馬から飛び下り、勇敢に魔物へと向かっていく。魔術を操る者は、馬に乗ったまま少し離れたとことからへ陣取り、攻撃や防御を行う。セイフも馬から下り、腰に差した二振りの剣を引き抜いた。そこに、一人の男が駆けよってきた。ここまで防衛の指揮をしていた人物だ。


「応援か、助かった!アルマスラ帝国軍の助力でなんとか食い止められていたが、もう限界というところだったんだ」

「ん?剣帝がいると聞いていたがどうしたんだ。彼がいたならそれほど大きな被害にはならないと商会長も言っていたんだが」

「それが……ネルウァさんは今不在でな……」


 その言葉にセイフがあんぐりと口を開ける。一緒に聞いていたダレイオスたちも「は?」と口をついて出てしまう。


「ネルウァさんは遺跡調査なんかに時々出かけているんだが、偶然そのタイミングと被ってしまったようなんだ」

「不在……本当か……。なら仕方ない、俺たちでなんとかするしかないな。お前ら、二人一組で足下から切り崩せ!」


 セイフの指示に従い、冒険者たちは『黄金の魔物』の脚の腱を断ち切ろうとする。これだけ巨大ならば闇雲に攻撃してもダメージは与えられない。ならば渾身の有効打を与えるために動きを止めることを第一にしたのだ。

 セイフとダレイオスも魔物へ向かって勢いよく駆け出す。


「セイフ、私があいつの動きを鈍らせる。その隙を上手く狙ってくれ!」

「分かった!おい、右前脚注意しろ!攻撃来るぞ!伏せろ!」


 魔物が脚を薙いで邪魔な人間を叩き潰そうとするが、そこにセイフが飛び出す。力のこもった双剣で切り上げ、軌道を僅かに上にそらした。咄嗟に伏せた冒険者たちの頭上を魔物の脚が通り過ぎる。


「さすがだな。俺もAランクとして仕事をしないと、な!」


 ブケファロスが背負っている大剣を抜き、跳躍する。燃えるような赤い刀身が閃き、『黄金の魔物』の体を切りつけた。すると、その強靱な筋肉が綺麗な切り口で四角く切り出された。血が噴き出し、魔物へ確かなダメージを与える。


『うわ!すご!ブケファロスさんってだいぶ強いんじゃない?』

「……ああ、そうだな。おかげで隙ができた!」


 ダレイオスは魔物の意識が足下に向いている内に、魔物の背に飛び乗る。そこから更に跳躍して魔物の頭上に位置し、掌から放った風魔術を推進力として踵落としをその頭にたたき込む。重い衝撃が魔物の脳が揺らし、『黄金の魔物』の体がふらつく。


「いいわね、ダレイオスちゃん!私も本気出すわよ!」

「本気ですか!よっ、待ってました!」


 ヘルマンの視線を釘付けにしながら、ヴェロニカは深紅のローブを脱ぎ捨てた。例の肌色の多い服があらわになる。本気モードだ。だが今回はそれだけではなかった。ヴェロニカの肌に赤く輝く文様が浮かび上がったのだ。


「ふう、やっぱり美しいわ……。美しい肉体と美しい魔法陣が一体となるこの感覚、癖になりそう……」


 ヴェロニカは恍惚とした表情を浮かべながら、その手に火球を生成する。それはこれまで彼女が作り出してきたどの魔術よりも激しい熱を帯びていた。


「さあ、この間の雪辱、晴らさせて貰うわよ!燃やし尽くせっ!」


 ヴェロニカが手にした火球を魔物へ向けて放った。そして轟音と共に炸裂し、魔物の横っ腹に火柱が上がる。苦しそうな雄叫びがし、肉が焼けるような音がする。ヴェロニカはさらに幾つもの火球を作り出し、次々と魔物めがけて打ち込んでいく。


「うっわ、凄い威力……。ヴェロニカ、それは?」


 近くで怪我人の手当を手伝いながらそう尋ねたペトラにヴェロニカは笑ってVサインを返す。


「私特性の魔力強化の魔法陣よ。私の体にびっしり刻み込んであるわ。この服の露出が多いのはその魔法陣を効率よく用いるためのものでもあるのよ」

「へぇ……ただの痴女っぽい服じゃなかったんだ……」


 ペトラが実に失礼な感心の仕方をするが、ヴェロニカはそれを聞き流して次の攻撃に移る。だが、『黄金の魔物』はすでに体勢を立て直そうとしていた。そして目標をヴェロニカの方に定め、突進してこようとする。


「今だ!一斉にかかれ!」


 セイフの号令がかかり、冒険者達が魔物の右前足に斬りかかる。一人一人では大したダメージを与えられていないが一点に集中すればあるいは、と考えたのだ。だが、傷は入るものの魔物を止めるには遠く及ばない。魔物の足に力がこもる。まさに突進する寸前だ。その瞬間、輝く二筋の斬撃が足を切りつけた。そのセイフの一撃によって、少しずつ与えた傷が深くえぐられる。そしてついに足の腱が半ばまで断たれた。それによって魔物は力を入れて踏み込むことができなくなるが、なおも突進の姿勢を解かない。そして、残りの三本の足で力強く地面を蹴った。凄まじい質量の物体が凄まじい速度でヴェロニカの方へ迫ろうとする。

 そこに立ちふさがったのはブケファロスだ。腰を落とし、剣を構える。高速で魔物の身体が接近する。その巨体がブケファロスに直撃するというその瞬間、魔物は彼を飛び越え、つんのめるように頭から地面に倒れ込んだ。ブケファロスがすれ違い様、左前足の腱を切り取ったのだ。両前足の腱が断たれ、立ち上がるのが厳しくなった『黄金の魔物』は地に伏す。


「す、少し焦ったわ……。でも、これなら遠慮しなくてもよさそうねっ!」


 ヴェロニカが軽く汗をぬぐい、再びの火球を打ち始める。魔物の額に直撃し、再び火柱が上がった。


「いいぞ、ヴェロニカ!あとは任せろ!」


 すかさず飛び込んだのはダレイオスだ。頭を振って火を消そうとする魔物の下顎を勢いよく蹴り上げた。魔物が天を見上げるような姿勢になり、喉があらわになる。


「ブケファロス!今だ、行け!」


 ダレイオスが呼びかけるが、返事はない。慌てて周りを見渡すと、少し離れたところに腕をかかえて倒れているのを見つけた。どうやら先ほど魔物をいなしたとき、突進の衝撃波にさらされて傷を負ってしまったようだ。魔物の体を切り取るほどの威力を誇るブケファロスの剣術ならば、魔物の喉を露出させてしまえばそこを切り飛ばせるとダレイオスは考えたのだが、どうやら厳しいらしい。大きくのけぞっていた魔物が頭をゆっくりと頭を下ろし、ダレイオスがせっかく作った隙も失われてしまおうとしている。 

 そのとき、一陣の風が吹き抜けた。それを感じるが早いか、『黄金の魔物』の首から血が噴き出した。もがく魔物の周りに更に風が巻き起こると、その体の至る処に裂傷が刻まれていく。そして風が止むと同時に魔物がその場に崩れ落ちた。ぽかんとそれを見ていたダレイオスの隣に一人の男が降り立つ。


「はぁ、すまんかったな。儂が留守の間にこんなことになっているとは……。これはまたランドルフに怒られてしまうかもしれんな」


 短剣を両手に構えた男。『黄金の魔物』すら翻弄する剣技を持つ男。こいつこそ『剣帝ネルウァ』に間違いない。ダレイオスはそう確信した。

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