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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
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3 古国の王は少女に宿る

 少女はゆっくりと意識を取り戻した。

 頭が上手く回らない。視界もまだぼんやりしている。

 少女は目をこすろうとするが腕が思い通りに動かない。むしろ自分の意志に反して勝手に動いているような感覚がしていた。

 何が起こっているのか分からず混乱していると、ようやく視界が回復してきた。

 そして、靄が晴れた視界に真っ先に飛び込んできたのは、大蛇だった。


『みぃぎゃあああああああああ!』


 少女らしからぬ叫び声が頭の中(・・・)に響いた。

 大蛇というよりも龍のような大きさのそれが自分に向かって喰らいつこうとしているのだ。少女はもう助からないと目を瞑る。が、瞑れない。瞼すら自分の思う通りに動かなかった。

 しかし、そんな必要もなかった。少女の体は人間とは思えないほどの跳躍をし、大蛇の一撃を避けたのだ。


「起きて早々に騒がしいな。あまり叫ばないでくれ。頭に響くんだ」

『うえっ!?何?なんかわたしが勝手に喋ってるんだけど!』

「混乱するのも無理ないが、今はそれどころではないんでな。質問はあとにしてくれっ!」


 そういって少女の体は再び跳躍する。

 さっきまで少女がいたところには勢いよく壁に減り込む大蛇の頭があった。間一髪だったようだ。

 少女は頭の中で、ぜひとも尋ねたい質問をリストアップしてみると相当な数になったが、明らかにピンチのこの場面で言うことでは当然ない。ここは空気を読んで黙っていることにした。

 なので、とりあえず自分で現状の把握を試みることにする。周りの景色から自分が戦っている場所はムセイオンのようだった。ムセイオンを象徴する二つの巨大な塔。少女の体はその外壁に器用にしがみつき、大蛇は反対側の塔に巻きついて少女を睨みつけている。どうやら、二つの塔の間を飛び交いながら少女の体は大蛇と戦っているようだった。

 もはや訳がわからなかった。

 少女はムセイオンの地下に忍び込んだところまでは覚えているのだが、そこからの記憶がはっきりとしていなかった。

 現在はっきりとしているのは、少女が今まで体験したことのないレベルの危機に瀕しているということだけだった。目眩いがする。頭に手を当てたかったが彼女の腕は大蛇へきつめのパンチを繰り出している最中だったのでそれもできなかった。

 しかし、そうやって攻撃を当て続けているにも関わらず、大蛇にはダメージが見えなかった。少女の身体は大蛇の攻撃を上手く避け続けるしかないという状況にあるようだ。少女は一つ不思議に思い、もう一人の自分と思しき何かに尋ねてみる。


『あの、相手の攻撃は上手く避けられるみたいだし、逃げられると思うんですけど、なんでそうしないんですか?』

「逃げたらこの大蛇はどうするんだ。こいつを対処できる者など私以外にはそういないぞ?放っておけばそこらの街に被害が及ぶのは間違いない」


 街を守るため。

 少女はその答えに一瞬納得しかけたが、慌てて全力で否定する。


『いやいや!こんなのどうにかできる訳ないでしょ!向こうの攻撃は当たらないかもしれないけど、こっちの攻撃もきいてないし!いつか体力尽きてパクッといかれて!ああ……』

「ほお、以外と状況を理解しているんだな。たしかにこいつの鱗に私の拳は通らないみたいだ。大方、魔力を使って強度を上げているんだろう」

『いや、そういう冷静な分析じゃなくて!』

「わかっている。ふふふ、不安要素があるのでできれば使いたくなかったのだが仕方ない。私の復活祝いだ!派手に行こう!」

『えっ、一人で話進めないでよ!てか復活ってなにさ!ああ、質問がまた増えた!』


 頭を抱えたいが抱えられない少女を置いてきぼりにして、少女の体は跳ぶ。

 人間離れした跳躍力によって大蛇へ向かって真っ直ぐに近づき、大蛇の頭上に位置した少女の手から淡い緑の光がほとばしる。それは風を操る魔術だった。


 『あれ!?魔術なんてわたし使えないのに!なんで!?』


 うるさい方の少女の声は無視し、渦巻く風を足場として跳び、大蛇に一気に接近する。突然の行動に大蛇の反応が一瞬遅れる。その隙を逃さず、少女はぐるっと体を回転させ、大蛇の眉間に強烈な踵を叩き込んだ。その衝撃に耐えられず、大蛇は塔の外壁から地面へと撃ち落される。しかし、その攻撃も鱗に阻まれダメージはない。少女も塔から飛び、地面へと降り立つ。


「地上なら建物にもそれほど被害は出ないだろう。思いっきりやらせてもらうぞ!」


 そう宣言し、少女は瞑目して両手を突き出した。さきほどとは違う白く激しい光がその手から溢れ、身の丈ほどもある魔法陣が展開し始める。

 それを見た大蛇は、この戦いの仲で初めて怯えた表情をみせた。だが、その瞳にはすぐに闘志が戻る。大蛇は頭を高く掲げ自らを鼓舞するように吠えると、少女へ覆いかぶさるように食らいつかんとする。

 少女はまたしても頭の中で叫び声を上げるが、もう一人の少女は焦ることなく魔法陣の展開に集中する。

 そして大蛇の頭が目の前に迫ったその時、その目を見開いた。


「風よ!聖なる光を纏いて邪なる火を払え!『ニルヴァーナ』!」


 その声とともに魔法陣から白い光を纏う竜巻が直線状に放たれた。それはまるで天を穿つ槍の如く大蛇を貫き、えぐり、吹き飛ばす。大蛇の強固な鱗すらその風の前にはなすすべもなく消し飛んだ。

 竜巻が天まで伸びると、それは凄まじい衝撃波を残して消滅し、後には体の半分が消え失せた大蛇の死骸だけが残った。

 常軌を逸したとてつもない魔術に少女は声も出せないで居ると、少女の身体はその場にガクリと膝をついた。


『なに、これ……。何かもうわけわかんない……。ていうかなんか疲れてるみたいだけど大丈夫?』


 自分の身体だと言うのにまるで人ごとのように話しかけると、少女は苦笑しながら答える。


「魔力切れ、だな。これが不安要素だったんだが、まあ持った方か。コツを取り戻せればもっと持つだろうが。元の肉体ならこの程度じゃ息切れもしなかったのだけれどな……」

『あ、そうなんだ。元の肉体とか言ってるけど、なんかもう一々疑問に思うのも馬鹿らしくなってきたよ。……あれ、なんか聞こえるんだけど』


 そこで少女が聞いたのは、たくさんの人の声と足音だった。焦るように指示を出す怒鳴り声が嫌でも耳に届く。それらは次第に少女の方へ向かって近づいてきているようだった。


「よし、逃げるぞ!」

『え、逃げるの?』

「当然だ。周りを見てみろ。絶対に面倒臭いことしか起きんぞ」


 そう言うが少女の意思では首を動かせなかったりする。しかし見回すまでもなく周囲の状況は面倒臭いことになっていた。

 崩れた地下研究施設。大蛇の攻撃で損傷したムセイオンの外壁。竜巻の衝撃波で吹き飛んだ敷地内の林。半分だけ残った大蛇の残骸。

 捕まれば数日は事情聴取なりで数日間は拘束されるだろう。

 下手をすれば罪を問われて投獄されるなんて事もありうる。もっとも不法侵入という罪は犯しているのだが。少女もそんなことは御免被りたい。


『よし、逃げよう!』

「ああ。行くぞ!」


 少女は残った力で駆けだし、少し空が白んできた街へ逃げるように去った。いや、逃げ去った。


 事件現場からいくらか離れたところで少女はもう大丈夫だろうと立ち止まる。ムセイオンはすでに大騒ぎになっているようだが、少女は見なかった事にした。

 ようやく一息つけたので、少女はもう一人の自分だと思っていたがどうやら違う何かに質問をぶつけてみることにした。

 何を聞こうか迷った末、最も基本的で何よりも知りたい事を尋ねる。


『で、わたしはアレシャっていうんだけど……あなたは一体なんなの?』

「私か?私の名はダレイオス。『魔王』と呼ばれていた男だ!ふはははは!」


 またしても、少女らしからぬ絶叫が頭の中に轟いた。

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