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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
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38 襲来

 一行が向かうのはガザから北へ少しいったところだ。目的のレッサードラゴンは岩場に生息しているということで、ずんずん歩いてそこへ向かう。途中、ヘルマンがよってきてアレシャに話しかけてきた。


「前から考えていたんだが、お前の古代魔術を俺に教えてくれないか。ヴェロニカさんも興味を持っているようだし、折角だから一緒に」

「……それって、ヴェロニカさんと一緒にいるための口実を作れって事ですか?」

「いや、違う。そうじゃない。純粋に教えて欲しいだけだ」


 とりあえずヘルマンを信じることにしたアレシャはダレイオスの返事を待つ。


『教えるのは別にかまわんが、扱えないと思うぞ』

「……教えるのは別にかまわんが、扱えないと思うぞ。というわけですけど」

「扱えなくても構わん。理論を知ることができれば十分だ。その代わり、俺はお前に普通の魔術を教えよう。使えないんだろ?」


 ヘルマンの提案にダレイオスは興味深げに呟き、それならぜひよろしく頼むと答える。


「じゃあ、そんな感じでよろしくお願いします」

「相変わらず人ごとのような感じだな……。じゃあ、また時間が空いたときにでもよろしく頼む。ヴェロニカさんには俺から直接伝えておこう」


 ヘルマンはそう言い、早速ヴェロニカに伝えに行く。そのとき、メリッサが何かに反応して立ち止まった。


「あれ、どうしたの?メリッサさん」

「見つけました。レッサードラゴンですね。数は……10匹くらいですか」

「そうなの?何も見えないけど……」


 ペトラが首をかしげる。他の三人も特に何も感じていないようだったが、メリッサは得意げに鼻を鳴らした。


「私、感知魔術には自身があるんですよ。それと長距離からの弓を組み合わせこそ私の真骨頂ですから!」

「ふうん、そうなんだ」

「へえ、すごいわね」


 あまりに素っ気ない反応にメリッサは悄げてしゃがみ込む。アレシャがそれを励ましメリッサに抱きつかれるという一連の流れをヘルマンが遮った。


「それで、レッサードラゴンどもはどれくらいの距離にいるんだ。お前の真骨頂とやらで殺れるのか?」

「当然、任せてもらいましょうか!見ててくださいよ!」


 そう言ってメリッサは近くの大きな岩の上に飛び乗る。アレシャも一緒に岩の上に登り、レッサードラゴンが本当にいるのか目をこらして観察してみると、もはや生き物かどうかの判別も難しいほどの大きさの魔物の群れを見つけた。


「うわっ、あんなのよく見えますね」

「見えるっていうより感じ取るって感じですけどね。さて、いきますよ」


 メリッサが弓を構え、弦を引く。引いた手に緑の魔法陣が現れ、風の魔術を用いた矢が形作られた。そのままギリギリと引き絞り、メリッサの動きが完全に静止する。そして手が離れ、矢が放たれた。音の速さでレッサードラゴンであるらしい黒い点に迫る。迫ったところまでは見えた。


「……当たったの?」

「当たりましたよ。当然ですとも」


 そう言ってメリッサは次の矢をつがえ、レッサードラゴンを正確に打ち抜いていく。メリッサ以外には見えないが、打ち抜いているのだろう。いくつかの矢を打ち終えたところでメリッサは一息つき、岩の上から下りてきた。仕事をやり終えた顔をしている。


「……終わったのか?」

「勿論ですよ!全部討ち取りました。さて、仕事も終わりましたし街に戻りましょうか」


 ヘルマンの問いに力強く答えて回れ右したメリッサの肩をペトラが掴んで止めた。


「討伐して終わりなわけないでしょ。討伐の証明とか色々回収しないとでしょうが。そもそも倒したかどうか分からないし」

「あっ、そうでしたね……」

「……これでBランク冒険者としてやってきたのか。アステリオスにどれだけ負担がかかっていたんだ」


 ヘルマンがため息をつき、五人はレッサードラゴンの方へ歩く。ただ適当に素材になるような部位を引っぺがせばいいだけだと思っていたが、レッサードラゴンは半分ほど生きていた。さすがにあの距離では撃ち漏らしがあったようだ。それでも半分仕留めたのはかなりのものであるが。手負いの魔物どもをヴェロニカが魔術で一掃し、今度こそ討伐は完了した。


「……あれ、結局わたし何にもしてないんだけど。普通の冒険者……あれ?」

「今更普通とか言っても全く説得力ないわよ。『魔王』なんて異常の代名詞なんだから」

『私が悪いみたいな言い方はやめてくれ』


 軽口を叩きながらレッサードラゴンの鱗をひっぺがして革袋にしまっていく。一通り作業を終えたところで死骸を焼き払い、今度こそ街へ戻ることにした。ここからガザまでは半日ほどだ。帰りついたときはもう日が暮れている頃だろう。

夕食は何にしようか、今日こそはどこかの店に入って食べたい、などと他愛もない話をしながら歩いて行った。


 今にも沈もうとしている夕日が空を茜色に染めていた。日の色はオレンジというよりも赤色に近い。空一面が赤色だった。西日の中に街の影が見えてきたその時、メリッサが再び何かに反応した。


「ん、どうしたんですか?またレッサードラゴンでもいた?」

「いや、違います。特に感知魔術を使ってもいなかったのに感じ取れるほどのもの凄い何かが……。たぶん、ガザの街の方です!」


 メリッサが駆けだした。何が起きているのかよく分からないまま、アレシャたちもその後に続き、街の中まで走り込んだ。息を切らしながら「どうしたのか」とアレシャは尋ねるが、メリッサはなおも走り続ける。


「どうしたっていうのよ。特に街に変なところはないじゃない」

「いや、気配は街の中じゃないです。もっと奥の方……あれ?」


 感じた気配の方向を指さしたメリッサが首をひねる。その方向には海があるだけだからだ。


「海に何かあるって事かしら?メリッサちゃんの感知魔術は確かなものだっていうのはさっき証明されたし、気になるわね。いってみましょう」


 ヴェロニカに頷きを返した四人はメリッサの指さす方へ駆け出す。が、その必要はなかった。突如、海面から巨大な水柱が上がった。街にいた誰もがそれに視線を奪われる中、それは姿を現した。夕焼けの赤を受けて怪しく輝く黄金の体。全てを貫かんとする鋭い角。何よりもその圧倒的な巨大さ。凄まじい威圧感を持ったそれが海中から出現した。

 

『こいつは……!』


 驚愕の声を漏らしたダレイオスにアレシャが知っているのかと尋ねれば、ダレイオスは当然だと答える。


『忘れもしない。かつて私の治めていた都、ペルセポリスを襲った魔物だ。この時代で言う『黄金の魔物』に間違いない』


 アレシャは少し目眩を覚えた。

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