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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
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37 ゆったり旅情

「しかし、とんでもねえ嬢ちゃんだな。パワーも体術のセンスも一級品だ」

「は、はは……どうも……」

『私が相手したのだから当然だ。まあ、あいつも中々の手練れだったぞ。ちゃんとした武器を持ったあいつを相手にしたら、もう少し違った結果になっただろうな』


 アレシャがヤスケに視線を向けると、彼は暗い顔でうずくまっていた。振り回されて壁に叩きつけられてめり込むという経験は初めてだったようだ。怖かったようだ。ギンジロウはヤスケに勝てずとも見込みがあれば仕事を受けるつもりだったが、それ以上の結果に満足げに笑う。


「まあ、ヤスケはこんなだが、嬢ちゃんになら俺の渾身の一品を作ってやってもかまわねえ。むしろ、俺から仕事を受けさせて欲しいくらいだぜ」

「じゃあ!よ、よろしくお願いします!」


 アレシャが深々と頭を下げた。ペトラもつられて頭を下げた。

 そのあとは詳しい仕事の話になった。大仕事だというからかなり時間がかかるのかと思ったが、半月もあれば仕上がるらしい。アレシャはガントレットを預け、ギンジロウ親子の見送りを受けながら鍛冶屋を後にした。


「ヤスケ、あの嬢ちゃんどう思う?」

「そうだな。俺より強いというのは間違いないだろうが、どこか歪な感じがしたな。体を使いにくそうにしているというか……」

「ほう、そうか。また面白いヤツに出会えたな。これから冒険者として有名になるだろうが、また出会うことがあるかもしれないな……」

「ああ、半月後にまた会うだろうな。完成したガントレットを取りに来たときにな。ほら、さっさと仕事をしようぜ。俺も手伝う」


 ギンジロウは「おう」と返事をし、鍛冶屋の中へ入っていった。


 アレシャとペトラは真っ直ぐ宿に戻り、ヴェロニカたちと合流する。何をしてきたかという問いにアレシャは鍛冶屋での出来事を詳細に伝えた。ヴェロニカは納得していたようだが、ヘルマンは額に手をあててため息をついていた。ペトラに手招きをし、耳打ちする


「おい、あのガントレットはムセイオンの物だぞ?勝手に加工してどうするんだ。お前が一緒にいたならなぜ止めなかった」

「ああ、えっと……まあ色々理由があるのよ」


 「このガントレットは『魔王』のものだから『魔王』が好きにしようが構わないんじゃないの?」とは言えなかった。

何を言っても無駄だろうし、自分はもうムセイオンに所属していないのだから関係ないか、と思うことにしたヘルマンはもう一度ため息をついてペトラに問い詰めるのをやめた。


「じゃあ、ガザには少なくとも半月は滞在することになるんですね。その間何してましょうかね。商会で簡単に片付けられそうな依頼でも受けてみますか?」

「それがいいかもですねー。そういえば、そういう普通の依頼って受けたことなかった気が……。冒険者としてそれはどうなんだ!」


 メリッサの提案にハッとしたアレシャがそう言う。今まで受けた依頼はどれも明らかに新人冒険者が受けるものではなかった。なのでここでそういう普通の新人冒険者を経験しておこうとアレシャは決心した。冒険者になったからには普通の冒険者っぽいこともやっておきたかったのだ。


「よし、じゃあ早速商会へ!」

「でももう結構いい時間だけど、先に夕ご飯食べない?」

「あ、食べます」


 決心に食欲が勝った瞬間だった。一行は宿を出て良さげな食事処を探すことにした。

 夜を迎えたガザの街の大通りには多くの人で賑わっていた。依頼を終えた冒険者や商人がそこらで酒盛りをしているらしい。なので、どの店もすでに満席だった。何を食べようかと色々考えていたアレシャは肩を落とし、近くの露店で肉の串焼きを買って腹を満たすことにした。それを食べながら五人は商会に向かうことにする。その間に道行く人を観察していると、同じような格好をした人が何人もいることにペトラは気づいた。


「アレシャ、あれってなんなのか知ってる?」

「うーん、あの服のマークはどっかで見たことあるんだけど……」

「あれはアルマスラ帝国のマークだ。あいつらはおそらく帝国軍の者たちだろうな」

「帝国軍……それって」

『ベータ王国とやらの警戒をしているのだろうな』


 街に入る際の身分証明といい、街の中の警備といい、警戒の度合いはかなりのものだ。まるで、すでに戦争が始まっているかのようだった。どこか居心地の悪さを感じながら歩いていると商会にたどり着いた。アレシャは早速商会内の掲示板を確認しに行く。魔物の討伐などの複数パーティが受けられる依頼は掲示板にまとめて貼られているのだ。


「何か良さげな依頼はある?」

「うーん……正直、今までの旅がハードすぎてどれがいいのか全然分かんない」


 アレシャの言葉にペトラがつい苦笑いする。すると、同じように掲示板を見ていたメリッサが一つの依頼を手に取った。


「これなんかいいんじゃないですか?レッサードラゴンの群れの討伐依頼」


 レッサードラゴンはBランクの魔物だ。その群れとなるとそれなりの強敵になる。新人が受けるべき依頼ではない。だが、アレシャの感覚はすでに普通の冒険者から外れてしまっていた。「それでいこう!」と力強く親指を立てた。そこに、未だ普通の冒険者であるペトラが異議をとなえる。


「いや、アレシャはともかくあたしCランクなんだけど。Bランクの群れに飛び込むっておかしくないかしら。おかしいわよ」

「そこは大丈夫ですよ。レッサードラゴンなんてBランクの中でも弱っちいやつですし、いざって時は私が守ってあげますから!アレシャちゃんの次に」

「最後の余計じゃない!?」


 ペトラが反抗するが、結局その依頼を受け、明日の朝に出発することになった。結構な報酬だったのでヴェロニカもヘルマンも反対しなかったのだ。むしろ賛成したくらいだ。そしてペトラは強くならねばならぬと誓った。このパーティで生き抜いていくにはそうするしかないのだと誓った。

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