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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
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36 鍛冶屋ギンジロウ

 泊まる宿を決めた後、アレシャは単独行動をする。はずだったが、ペトラが一緒に来ると名乗り出たので二人は揃って鍛冶屋に向かった。ガザに来るまでに立ち寄った町でこまめに情報収集をした結果、かなり腕のいい鍛冶屋がガザにはいるという情報を得たのだ。遠方からはるばる仕事を頼みに来る人もいるほどらしい。その情報収集にはペトラも参加していたのだ。二人で協力して得た成果なので、一緒に来たいと思うのも当然だった。人に道を尋ねながら二人は進んでいくが、どんどん大通りから外れた路地へ入り込んでいった。


「えっと、こっちの方だったっけ。結構街の外れにいくんだなあ……」

「そんなに凄い鍛冶屋さんならもっと大通りの方に店を構えていてもいいのにね。……あ、あれじゃないかしら?」


 ペトラが指さしたのはくたびれた一件の民家だ。とてもそんな人気店には見えないが、扉にかけられた札には話に聞いていた店の名前と同じものが書いてあった。


『『鍛冶ギンジロウ』……間違いないだろう。行くぞ』

「う、うん。そうだね」


 アレシャは少し躊躇いつつもその扉を開く。薄暗い店内には金属を叩く音だけが響いていた。二人は恐る恐る中に入っていく。


「あのー、すみません。鍛冶の仕事をお願いしたいんですけど……」


 アレシャがそう声をかけるが返事はない。もう一度声をかけようとしたとき、突然二人は肩を叩かれた。声をあげそうになったが素早く口を塞がれる。


「悪い、驚かせた。けど静かにしてくれ。親父は仕事を邪魔されるとそれはもう烈火の如く怒るんだよ……」


 その言葉に従って二人は黙ると男が口を塞いでいた手を離す。髪を適当に伸ばしたせいで前髪が鬱陶しそうなその男は余り見かけない格好をしていた。アレシャはそれが以前本で読んだ極東の島国の衣装だったと思い出した。アレシャはうるさくしないように気をつけながら尋ねる。


「えっと、お店の方ですか?」

「ああ。俺はヤスケっていうもんだ。ここで親父のギンジロウの手伝いをしている。あんたら仕事を頼みにきたんだろ?こっちの部屋に来てくれ」


 二人はヤスケと名乗る男に連れられて小綺麗な部屋に座らされる。こっちが仕事の相談をするための場所らしい。


「さて、親父の仕事が一段落するまで俺が話を聞こう。あんたらみたいな女子が注文にくるとは珍しいが、どういった相談なんだ?」

「えっと、これをわたしに合うように作り直して欲しいんですけど……」


 アレシャが荷物からガントレットを取り出す。ヤスケはそれを手にとって見定める。そして驚きに目を見開いた。


「……相当古いものみたいだが、かなりの一品だな。しかも、この金属はもしかしてアダマントか?歴史的価値も金銭的価値も半端じゃないもんだぞ、これは……。こんなのどこで手に入れたんだよ?」

「知人から譲り受けた、みたいなもんですかね。で、仕事は受けて貰えるんですか?」

「親父は気に入った仕事しか受けないが、こいつを見たら親父も張り切るだろうよ。ぜひ受けさせてくれ」


 快い返事にアレシャの顔が輝く。アダマントの加工は難易度が高いことで知られ、受けてもらえるか不安だったのだが、さすがは高名な鍛冶屋だと思った。ヤスケは知識こそあるものの鍛冶はできないらしい。なので、職人であるギンジロウが来るまでお茶を頂きながらしばし待つ。小一時間ほどしたところで部屋の扉が開き、一人の男がのしのしと入ってきた。


「ああー、疲れた疲れた。おいヤスケ、茶を入れてくれ。あとなんか軽く食うもんないか?」

「あいよ。それより仕事の注文が来てんだよ。そこの二人だ。悪くない話だから話を聞いてくれ」


 ギンジロウがアレシャとペトラに視線を向けると、物珍しそうに見つめる。


「ん?おう、こりゃ可愛らしい嬢ちゃんじゃねえか。こんなむさ苦しいとこにようこそ」

「どうも、アレシャといいます。よろしくお願いします」

「ペトラです」


 二人はぺこりと頭を下げて挨拶する。ギンジロウは髭面のがたいのいい初老の男だった。ヤスケと同じように極東の島国の衣装を着ている。職人というのだからもっと頑固そうな人だと想像していたアレシャは、以外に気さくそうな彼の人柄に少し緊張が和らいだ。早速ガントレットを手渡して注文の話をする。ギンジロウもどこか興奮した様子でガントレットを様々な角度から観察している。つかみは上々だ。

 しかし、返ってきた返事は予想外のものだった、


「悪いが、この仕事を受けるのは考えさせて欲しい」

「ええ!なんで!」

「さっきのヤスケって人はぜひ受けさせてくれって言ってたわよ?

「なんだ。お前そんなこと言ったのか?」

「あ、ああ。アダマントに触れることができる機会なんかそうないし、いい話だと思ったんだが……。なんで断るんだ?」


 ギンジロウ以外の全員が理由を教えてくれと詰め寄ると、彼は一つため息をついてから話し始めた。


「ヤスケ、お前はアダマントを使った鍛冶がどういうもんなのか知らねえみてえだな。こいつを打つのはかなりの重労働なんだよ。年食った俺の体じゃあ結構厳しいんだ。たぶん、この仕事を終えたら他の仕事はしばらくキャンセルすることになっちまうだろうな」

「そうなのか……。経営を任されてる身としては厳しいな。その間の収入はなくなるし、客が離れてしまうかもしれない」

『そういや、私があのガントレットを作って貰ったときもかなり無理を言って作って貰ったんだったな……』

「う、厳しい、ですか……」


 アレシャがうなだれ、ペトラがその肩をポンと叩く。諦めるしかなさそうだった。だが、ギンジロウがその落ち込みを遮った。


「おいおい、勝手に話を終わらすんじゃねえ。俺は考えさせて欲しいって言ったんだ。アダマントの加工に挑戦できる機会ってのは俺としても大事にしてえ。……そうだな、嬢ちゃんが俺の全力を注ぐに値する人間だと俺が認めたらこの仕事、受けてもいいぜ」


 その言葉にアレシャが飛びつく。受けて貰える可能性があるなら何でもすると言わんばかりだ。


「ど、どうすれば認めて貰えるんですか!」

「お、おう。嬢ちゃん、見たところ冒険者だろ?ちょいとうちのヤスケと手合わせしてみてくんねえか。もしこいつに勝てたなら、仕事受けてやんよ」


 ギンジロウがニヤリと笑ってそう答える。アレシャは反射的にヤスケへ視線を向けるが、彼は背こそ高いが特に強そうには見えなかった。むしろ長い前髪が暗い印象を与え、インドア派に見えるまであった。そんな思いがにじみ出ていた二人の表情を見たギンジロウが自慢げに語る。


「こいつはこれでも俺の自慢の息子だ。鍛冶の方はてんで駄目だったが、武器格闘術においては達人の域だぜ。勝てると思うなよ?」

「親父……。相手をするのは構わないが、もはや仕事を受ける気ないんじゃないか?こんな子たちが俺に勝てるわけがないだろう」


 その言葉にアレシャら二人は暗い顔をする。勝てないという言葉に落ち込んだわけではない。これから『魔王』と戦うことになるヤスケが不憫になったのだ。ただ仕事は受けて貰わなければならないので、ギンジロウに広い板張りの部屋へ連れられ、アレシャとヤスケはその中央で対峙する。ヤスケが手にしているのは一本の長い木の棒だ。


「ここは客に武器の使用感を試してもらうための場所だ。好きに暴れてもらってかまわんぞ。決着は、そうだな……。先に膝をついた方が負けということでいいだろう」

「はい、それでよろしくお願いします。……ダレイオスさん、あまり怪我させないようにね」

『ああ。だが武器格闘の達人なのだろう?手合わせできる機会などそうないからな。それなりに気合いを入れていかせてもらうぞ』


 そして少女の纏う雰囲気が変わったのをヤスケは敏感に感じ取った。木の棒を握りしめる手に力が入る。


「先攻はあんたに譲ろう。それくらいのハンデはないとフェアじゃない」

「むしろお前にハンデをやりたいくらいだが、有り難く貰っておこう。それじゃあ、いくぞ!」


 ダレイオスが地を蹴り、凄まじい速度でヤスケに迫る。駆けるスピードをのせた拳がヤスケの腹を狙って容赦なく繰り出された。ヤスケは咄嗟に棒でガードをするが、そんなもので防ぐことなどできない。棒は真っ二つにへし折れ、拳はヤスケに直撃する。はずだったが、ヤスケは体を翻してそれをすんでのところでかわした。地面に着地し体勢を立て直そうとするが、その隙をダレイオスが見逃すはずがない。振り抜いた拳をほどいて地面に手をつき、顔めがけて蹴りを放つ。

ヤスケは折れた棒を両手に持ち、左の棒でそれを僅かに逸らした。今度は攻撃を外したダレイオスに隙ができる。ヤスケのもう片手の棒がダレイオスの腹をまっすぐに突いた。ダレイオスは倒立した状態から腕を使って跳び、攻撃をかわす。そのまま相手の上空に位置した。

 だが、ヤスケにはもう片手が控えている。再び、ダレイオスに向けて突きを放った。先ほどのようによけるのは難しい。ならば、とダレイオスはヤスケの鋭い突く棒を掴んだ。掌に痛みが走るが問題ない。互いが一本の棒の両端を持った状態になった。そこでヤスケは棒を握る腕に力を込めた。ダレイオスごと投げ飛ばしてしまおうと考えたのだ。アレシャぐらいの少女の体重ならばそれも可能だと踏んだのだろう。

 しかし相手は少女であるが『魔王』なのだ。そして不幸にもダレイオスもヤスケと同じ事を考えていた。ヤスケが棒を振り抜くと、何故かその体が宙に浮く。足の方向に引っ張られるような力を感じる。あ、これが遠心力なんだな、とヤスケが悟った瞬間、その体は勢いよく放り出され、壁に激突した。

 膝はついていないが、勝負ありだろう。ギンジロウはこの一連の攻防に呆気にとられていた。


「さて、文句はないだろう。仕事、受けて貰えるな?」

「あ、ああ。ああ……」


 ギンジロウはそう言葉を返し、壁に頭から突き刺さる自分の息子に合掌した。

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