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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
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35 ガザの街

 ガザの街へはあと四日もすればたどり着くといったところというある夜の野営中、アレシャはヘルマンを呼び出した。メリッサの目が光るが気にしない。ヘルマンもどこかソワソワしていた。


「それで、二人っきりで話とはなんだ?」

『同じ男として、こいつのことが少し哀れになってきたな』

「何のこと……?まあいいや。えっと、話ってのはヘルマンさんのことなんだけど、そろそろ本当の目的を話して貰えないかなって思って」


 その言葉にヘルマンはほっとしたように息を吐く。何を言われてもいいように色々と返事を考えていたらしい。変なところで真面目な男である。ヘルマンは気を入れ直して、アレシャに向き直る。


「俺の目的、か……。お前の強さの理由を知るためってのは信じてないんだな。まあ、当然か」

「わたし、ヘルマンさんのことを信じたいんです。何か事情があるなら話してほしいんです。何か協力できることがあるかもしれないし……」


 おそるおそるという風にアレシャは話すが、ヘルマンは特に悩むでもなくそれを了承した。


「実は、俺も話そうと思っていたんだ。前はお前を警戒していたんで適当に誤魔化したが、お前を見ていると警戒する方が馬鹿らしくなった。むしろ、お前の協力が必要になる話だ」

「なんかちょっとひっかかるけど……でも、話してくれるんですね!」

「ああ。俺がお前に興味を持ったのが、あのムセイオンの夜ってのは間違いない。あの大蛇を覚えているか?」


 アレシャが頷く。あんな化け物、忘れられるわけがなかった。


「そいつには元々強力な封印がされていたんだが、あの夜に突然それが解けてしまったんだ。その原因を考えていたとき、同じように封印の魔術で閉じられていた扉が開いていたと聞いた。更にその中からガントレットが盗まれたとも聞いた。それで、ガントレットをしていたお前のことを思い出したんだ。お前があの封印を破ったんだとそう思った」

『だが、研究者だからってその理由を突きとめるためにわざわざ私についてくるのか?理由が弱い気がするが』


 ダレイオスのその疑問をアレシャがヘルマンに伝えると、ヘルマンは眉間にしわを寄せて苦しそうな表情を浮かべた。


「……俺の妹は、魔術によって封印され眠り続けている。それも、『深淵術式』という禁術によってだ。俺はそれを解く方法を見つけるためにムセイオンに所属したんだ。そこに高位の封印をたやすく解いたお前が現れた。こいつなら妹の封印を解くことができるかもしれない、そう思ったんだ」


 静かに語られたそれがヘルマンの目的だった。自分のためではなく妹のために同行していたという事実にアレシャは驚いた。同時に、申し訳なくもなった。


「あの、ヘルマンさん。その封印を解いたのはたぶんわたしじゃないと思う……。その内詳しく話すつもりだけど、わたしには封印なんて解けないよ。だから、ごめん」

「そう、なのか?だったら、少し残念だな。だが、お前の対禁術の魔術は素晴らしい完成度を誇っていた。少なくとも、俺のものよりは遥かに優れている。元々俺の研究は行き詰まっていたからな。たとえお前が封印を解いたのではなかったとしても、お前についてきて正解だったと思っている。何よりこうしてヴェロニカさんといつも一緒に行動できる」

「ははは……」


 アレシャは苦笑いを返すが、少し気が楽になった。ヘルマンなりに和ませようとしたのかもしれない。いや、ただ本音が漏れただけだろう。そんな中、ヘルマンの話を聞いたダレイオスは何か考えこんでいた。アレシャは何を考えているのかこっそり尋ねる。


「どうしたの?」

『お前は封印を解けないと言ったが、私はそうではないと思う。ガントレットに封じられた私を解放できたのはお前だけだったからだ。ただ触れただけだったが、何かしらの力をお前は持っているのかもしれない』

「え、そう、なのかな?そんなことはないと思うけど……。でもそうだったらかっこいいな……」

『呑気なやつだな……。まあ、私の思い過ごしかもしれんし、適当に覚えておいてくれ』


 アレシャが頷く。ヘルマンが不思議そうな顔をして見つめていたので適当に誤魔化し、二人は野営場所まで戻っていった。ニヤニヤして二人を見つめるヴェロニカにヘルマンが何やら弁解していたが、アレシャにはやっぱり何のことか分からなかった。


 左頬に潮風を浴びながら進むアレシャたちの辿ってきた海岸線が左に曲がり始め、海の向こうに微かに街の影が見える。ガザの街に違いなかった。目的地が見えたことで自然と進む足も速まる。それから半日もしない内に、一行はガザの街にたどり着いた。


「ついたー!疲れたー!」

「疲れたなら私のここが空いてるっていつも言ってるのに……」

「はいはい。とにかく街に入る申請をしなくちゃね」


 これまで訪れたどの街にもなかった厳重なチェックがガザの街に入るのには必要だった。ヴェロニカが門の隣の人の列へ向かい、全員がそれについて行く。


「街に入るのに一々申請が必要なの?面倒ね……」


 ペトラが愚痴をこぼすが、ヘルマンがそれを諫める。


「仕方ないだろう。重要な土地である上に、セイフさんが言っていたことが本当なら、かなりピリピリした状況だろうからな」

「そういうもんなんですねー。あれ、わたしたちはちゃんと入れるんですか?」

「冒険者の登録証があれば入れるはずよ。たまに止められることもあるらしいけど、私の名前があれば問題ないわ。Aランク冒険者の力ってのはこういうときこそ発揮されるのよ」

「一種の権力ってやつね……」


 ペトラがため息をつく。列は順調に短くなっていき、やがてアレシャたちの順番が回ってきた。


「身分証明書の提示をお願いします」

「はい、これでいいかしら?」


 ヴェロニカが少し得意気に登録証を見せる。しかし、受付係は首を横に振った。


「申し訳ありませんが、現在冒険者登録証では立ち入りを許可できません。あなた方の身分を確実に証明できるものはございませんか?」


 笑顔で固まるヴェロニカの頬を一筋の汗が流れる。他には何も無いらしい。


「あー、俺は少し前までムセイオンの研究員をやってたんだが、そのときの研究員の登録カードじゃ駄目か?」

「確認してみないことには分かりませんが、それでも一人の身分証明しかできませんので、全員の立ち入りを許可することはできません」


 ヘルマンが肩を落とす。しかし困ったことだ。これでは街に入ることができない。ここまで来てのこの仕打ちに心がくじけそうになるが、ダレイオスがそこであるものの存在を思い出す。


『おい、ランドルフから貰ったカードはどうなんだ?あの男がこの事態を予想していなかったとは思えんのだが』

「ああ!それだ!ちょっと待ってね……」


 アレシャが荷物からカードを取り出し、受付に提示した。少しの驚きを見せた後、しっかりとそれを検分する。それで問題なく許可が下りたらしく、立ち入りの許可証を全員に手渡してくれた。


「それはなくさないようにお願いします。あなた方が正当な手続きを終えたことの証明ですから」

「はい、ありがとうございます。……で、前から気になってたんですけど、このカードって具体的にどういうものなんですか?よく知らずに貰ったんですけど……」

「え、ご存じなかったんですか?これは商会本部の認可を得たパーティの証明書ですよ。商会本部からの要請に応じる義務がありますが、様々な特権が得られるというものです。ただ、このカードはその義務を行わなくても特権だけ得られるという商会長直々に認可を与えられたパーティだけが貰えるものなんですよ」

「へー、そんなにすごいものだったんですか……」


 アレシャは素直に驚いた。ヴェロニカやヘルマンも驚いていたので知らなかったらしい。このカードこそがまさに権力と呼べるものだった。割と重要な情報を得た五人は街の門をくぐった。


「さて、ちょっと手間取ったけどここがガザの街よ!」

「へえー……。なんか、普通の街ですね」


 アレシャが拍子抜けしたように言う。実際その通りだ。何の変哲も無い大きいだけの街である。その素直な感想にヴェロニカも苦笑いを返すしかなかった。


「でも、注意した方がいいですよね。さっきの立ち入り許可が厳しかったのも例のベータ王国がここを狙っているっていうことからですよね」


 メリッサの指摘にヘルマンが頷く。余計なことに巻き込まれず目的を達しなければならない。もっとも、何もしなければ問題に巻き込まれることもないのだが。予定を立てるのは後回しにして一先ずこの街で宿をとることなったが、そこで

アレシャが手を挙げる。


「わたし、実はこの街で用事があるんですけどちょっと行ってきていいですか?」

「用事?何かしら」

「鍛冶屋ですよ。わたしのガントレットを打ち直して貰うんですよ!」

『私のだがな』

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