33 目指すはガザ
朝。清々しく晴れ渡った朝に、バルバロスの街の入り口にアレシャたちは集合していた。ヴェロニカがパーティの面々を見渡す。
「さて、次に向かうのはガザの街よ。セインツ・シルヴィアの玄関口のような役割をしていて、そこで通行証を発行して貰うわないとセインツ・シルヴィアには入れないのよ」
「へえ、そうなんだ。結構面倒そうな街なのね」
「私もまだ行った事が無いんですよ。楽しみですねー」
当然のようにそこにいるメリッサへ全員の視線が注がれる。
「あの、メリッサさん。これからもパーティに加わるつもりなんですか?」
「え、当たり前じゃないですか」
「だが、アステリオスはどうするんだ?俺はてっきりこの街で待つものだと……」
ヘルマンが確信を突いたが、メリッサはけろりと答える。
「それなら大丈夫ですよ。『先に行ってくれて構わない』って言ってましたし」
「そうなの?なら心配しなくていいのかしら。……それじゃあ、メリッサちゃんがパーティに加わることに異論のある人はいる?」
全員が首を横にふる。先のファーティマへの調査でメリッサの実力の程は分かった。一緒に行ってくれるなら力強い存在である。というわけで、こうしてパーティに五人目のメンバーが加わった。
「よ、よかったわね、アレシャ」
「……?うん、そうだね」
少し頬を染めながらそう言うペトラにアレシャは首をかしげた。
そして一行はバルバロスを出発する。ガザの街はバルバロスから北東へ行ったところにある、海に面した街だ。なので一度北へ向かい海岸に沿って行くことにした。レイン川を流れに沿って下っていく。
『そういえば、このあたりは私の時代ではアレクサンドリア王国の土地であったわけだが、今はなんという国が治めているのだ?』
道中、ダレイオスがふと尋ねる。そういえば今の時代の国については話したことがなかったとアレシャも思い、簡単に語って聞かせることにした。
「アレクサンドリアや、さっきまでいたバルバロスもファーティマも、あとこれから向かうセインツ・シルヴィアも全部アルマスラ帝国が統治してるよ。本で読んだのが本当なら、かつてのアレクサンドリアの領土は全てアルマスラ帝国のものになってるはず。土地だけならより大きい国もあるけど、国力で言うなら世界でもトップだと思うよ」
『ほう、アルマスラ帝国……。他にはどんな国があるんだ?』
「えっと、商会の本部があるラインデルク帝国とか、宗教国家のベータ王国、あとわたしの故郷のロマノフ王国。色々あるよ。説明するのが面倒なくらい」
『おい!……まあいい。必要に応じて教えてくれ』
ダレイオスはそう言いながら、若い頃に旅をしていたときのことを思い出していた。行く先々で初めての経験ばかりで、かなり苦労したな、と苦笑する。そして、これから何が自分を待ち受けているのかという期待に胸を膨らませていた。
そして街を発って翌日、川を見飽き始めていた彼らの前に、ついに海が現れた。どこまでも広がるような大海だ。それを見たアレシャが歓声をあげる。
「おお!海だ!海だー!」
「まあ、アレクサンドリアの海は船や人がごった返してて綺麗じゃなかったものね。こうして何もない海をみるのは私も久しぶりだわ」
目を輝かせたアレシャが一目散に走り始める。ペトラはそれを制止するが、彼女も走り出したそうにうずうずしていた。ヴェロニカがため息をついて頷くと、ペトラもアレシャの後を追って走り始めた。アダルト三人組は歩いてその後を追おうとする、が、メリッサの姿がない。彼女もまた、海に向かって全力で駆けだしていた。ヴェロニカは子どもが一人増えたとため息をつく。ヘルマンはヴェロニカと二人きりになったこの状況に一人ほくそ笑んだ。
アダルト二人組が海岸についた時はすでに子ども三人組はびしょ濡れになっていた。びしょ濡れになって海岸に打ち上げられていた。どうやらはしゃぎすぎたらしい。それを見たヴェロニカは三人を正座させてしかりつける。
「もう!まだ明るいから先に進もうと思っていたのにこんなに服濡らしちゃってどうするのよ!ほら、風邪引いちゃうから早く向こうで乾かしてきなさい。魔術使えばすぐに乾くから。早く!」
ヴェロニカに促されて、三人は茂みの中へ入っていった。完全にお母さんである。少ししてからペトラとメリッサが、次いでアレシャが帰ってきた。ダレイオスの視線を考慮してアレシャだけ少し離れたところまで行っていたようだ。
ヴェロニカが満足そうに頷き、一行はそのまま海岸線に沿って歩きはじめた。海に住む魔物は高ランクの魔物が多いのだが、それは海のド真ん中の話であり、海岸にはむしろ魔物が少なかったりする。森の中を行くよりも安全なのだ。
「ガザまではここからだいたい十日くらいかしらね。まあ、途中に町はいくつかあるからのんびり行きましょう。それでも、あまり勝手なことしちゃ駄目よ」
「「「はーい」」」
子ども三人組はヴェロニカに元気に返事をする。完全にお母さんである。ヴェロニカ自身も、一人でやっていたころと比べて自分の精神年齢が上がっているのを感じていた。本当なら彼女も美しい自然にはしゃぎたいところなのだが、パーティのまとめ役であるという責任がそれを許さない。人間、子を持つとしっかりするというのは本当だった。完全にお母さんである。
海を眺めつつのんびりと旅は進む。最も、そんな中でも多少の事件はあった。途中で立ち寄った町で食事をとろうとしたとき、他の冒険者たちに囲まれてしまったのだ。
「よお、あんたら新聞で見たぜ!『七色の魔物』なんてホントにいたんだなあ、すげえよ。よかったらこっちで話を聞かせてくれねえか?」
「おいおい、先に声をかけたのは俺たちだぜ!ほら、上手い飯もあるぞ?」
いくつかのテーブルからお呼びの声がかかるが、それにペトラはため息をついた。
「新聞の記事にかこつけたナンパみたいね。……ヴェロニカとかメリッサ目当てだろうけど」
その二人の母性の象徴をペトラは忌々しげに見つめる。前ほどの憎しみは向けていないが、それなりに思うところはあるらしい。
「ほら、あんなのに好かれてもしんどいだけだって。あんなのは芋だって。くず芋だって!」
『ぐ、同じ男として少し心苦しく思うぞ……』
アレシャがペトラにフォローを入れ、ダレイオスが小さく呻いた。
しかし、ヴェロニカは悪い気はしていないようで、かけられる声に微笑みを返していく。そしてヴェロニカはその内の一つのパーティを選んで相席することにした。選んだパーティは男二人女二人の四人組で、全員三十半ばを過ぎているぐらいの経験豊富そうな冒険者たちであった。こういった人たちの話はためになることが多いということをヴェロニカは知っていた。別にナンパにほいほいついて行ったわけではなかったのだ。体格のいい、鎧を着た男がヴェロニカに話しかけてきた。
「よう、まさかこんなとこで会えるとは思ってなかったぜ。あんたらの話は新聞以上に聞いてるぜ。そこの嬢ちゃんたちのこともな」
突然、男がアレシャとペトラにも話を振った。二人は自分たちは蚊帳の外だと思っていたので少し驚きつつ、アレシャはその疑問をぶつける。
「あの、わたしたちのことは新聞に載ってなかったと思うんですけど、なんで知ってるんですか?」
「俺たちは実は五人組のパーティなんだよ。ちょっと今は席を外してるんだが、俺たちのリーダーがあんたらのことを知っていてな……お、丁度いいタイミングだ。帰ってきたぜ」
男が首で店の入り口を示すと、腰に二振りの剣を携えた男が大荷物を抱えて店内に入ってくるところだった。
「全く、リーダーに買い出し押しつけやがって。先輩をもう少し敬ってもバチはあたらないんじゃないのか?」
「あ!セ、セイフさん!」
「ん?君はアレシャちゃんじゃないか。ペトラちゃんにヴェロニカも。久しぶりだな」
現れたのは、かつて冒険者登録試験のときに出会ったAランク冒険者、『輝剣』のセイフだった。




