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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
32/227

31 調査

「邪魔なのよ、どきなさい!」

「ぐああああああっ!」


 ヴェロニカが放った火炎が“死人”たちを焼き払う。彼女らは、捕まったときに取られた装備を取り返すために施設内を駆け回っていた。迫ってくる敵を観察していたペトラが呟く。


「けど、さっきから出てくる人たち全員“死人”なんだけど……。こいつらの組織って“死人”だけで構成されている可能性もあるわよ、これ」

「でも“死人”だけにするメリットってあるんですかね」

「さあな。こいつらは下っ端すぎてろくな情報を持っていないようだからな」


 メリッサの問いにアステリオスがため息をついて答える。

 これまでの間に既にいくらかの“死人”を捕まえて情報を得ようとしたのだが、彼らはそもそもほとんど何も知らされていなかったのだ。アングイスは部下の“死人”たちには最小限の情報しか与えず、手駒として使っていたらしい。ただ、装備品の在処は聞き出すことができたので、今はそこへ向かっている最中だ。次第に向かってくる“死人”の数が少なくなってきた。どうやら戦闘員はあらかた片付けてしまったらしい。

 ならばさっさと用を済ませようと、走る速度を上げると、程なくして彼女らは一つの倉庫にたどり着いた。施錠された扉をアステリオスがぶち破り、部屋の中をあされば目的のものはすぐに見つかった。部屋の隅にまとめて置いてあるアステリオスの巨大な斧が目印になったのだ。各々が自分の荷物を手にし、装備を整える。


「さて、早くアレシャちゃんのところに戻らなきゃ」

「いや、その必要は無いぞ」


 全員がその声の方を向くと、話題の白髪の少女、まさにその人が部屋の入り口に立っていた。背中にはヘルマンを背負っている。


「アレシャちゃん、無事だったのね!さあ、私の胸に飛び込んできていいのよ!」

「やめろ。アレシャちゃん、よくこの場所が分かったな」


 メリッサを制してアステリオスが尋ねると、ダレイオスは懐から見取り図を取り出した。先ほど別の倉庫で手に入れたものだ。アステリオスはそれを受け取り納得する。あと当然気になるのはアングイスとの戦いの行方だ。アステリオスが続けてそう尋ねるが、ダレイオスは浮かない顔だ。


「アングイスは、片手片足をもぎ取ってやったんだが、逃げられてしまった」

「逃げられた……?」


 ヴェロニカが怪訝な顔をする。手足が欠けた状態で逃げられるわけがないとそう思ったのだ。ダレイオスが詳しいことを説明しようとしたとき、背負っていたヘルマンがモソモソと何かしゃべった。


「とりあえず、下ろしてくれ。年端もいかない少女に背負われているという状況は少しいたたまれないというか、いやしかし、少女に合法的に密着しているというのも中々レアな……」

『ダレイオスさん、そこらへんに落としといて』

「おう」


 べしゃりとヘルマンが地面に落ちたところでダレイオスは改めて話し始める。アングイスが行っていた実験の内容、戦いの顚末、などだ。それを聞いたヴェロニカたちは重要な情報源が逃げてしまったことを残念に思うが、ダレイオスとヘルマンが無事で会ったことを素直に喜んだ。そして、話題はこれからのことに移る。


「私はこの施設をもっと詳しく探索するべきだと思っている。“死人”の組織について詳しく知ることができるかもしれない」

「あたしは一度バルバロスの商会に報告に戻るべきだと思うけれど……」


 ペトラはそう言うが、ヴェロニカはそれに反対意見を示した。


「バルバロスの街を往復すると一週間近くかかってしまうわ。その間も川下では被害が出ているだろうし、できるだけ早く原因を突きとめるべきだと思うわ」

「被害……?ああ、そういや川上で何か問題が起きてないかの調査に来ていたんだったな。色々あってすっかり忘れていた」


 ダレイオスが間の抜けた発言をし、その場にいた誰もがため息をついた。気を取り直してヘルマンが自分の意見を述べる。彼もここを調べることに賛成のようだ。ヴェロニカによって敵が殲滅された今ならそれほど手間もかからないだろうとの判断だ。それに対してメリッサもアステリオスも何も言わない。一度戻るという意見を出したペトラもそっちの案の方が良いと判断したらしい。異論は出なかった。ということで施設の見取り図を見ながら施設の調査を始める。

 当然向かうのはダレイオスとアングイスが戦った場所、この施設の実験場だ。そこならアングイスの実験資料なりが手に入るだろうと踏んだのだ。ダレイオスの道案内でそこまで戻ると、ヴェロニカたちは無残に破壊された部屋に「うわぁ」と反射的に呟く。


「これは、また派手にやったわね」

「この遠慮がない感じはさすがね」

「ここは地下なのだが、崩れたりしないのか?」

「すでに一度崩した経験があるぞ」

「さすがアレシャちゃん!可愛くて強いとか最高じゃないですか!」

「ふふん、まあ当然だな」


 皆が思い思いの感想を述べる中、ダレイオスが得意げに鼻をならす。メリッサはともかく、他の誰も褒めてはいないのだが。その時、何かを呼ぶ声が彼らの耳に届いた。すぐさま警戒態勢に入る。その声の元を辿ると、どうやらペトラたちが捕まっていたのと同じような部屋から聞こえていた。必死に助けを呼ぶ声だ


「おい、誰かいるんだろう!さっきから馬鹿でかい音がしてるが何が起きてるんだ!」

「敵じゃないなら助けてくれ!ここから出してくれ!」

「こいつは……敵じゃなさそうだな」


 ダレイオスが声の聞こえる部屋のドアを蹴破ると、その中にいたのは七人の男達だった。格好からして冒険者のようだ。彼らの姿を見たペトラが尋ねる。


「あなたたち、もしかしてバルバロスから来た調査隊の人?」

「ああ、そうだ。あんたらは敵じゃなさそうだが……」


 ペトラが今の状況を掻い摘まんで伝えると、調査隊の男達はみるみる青ざめていった。自分たちが生け贄のために捕まっていたとは知らなかったようだ。不憫に思ったダレイオスはとりあえず彼らの拘束を解く。


「お前らはこれからバルバロスに戻るだろ?今伝えたことを商会に報告しておいてくれ。私たちはこれから詳しい原因を調べてみる」

「そ、そうか。分かった。よろしく頼む」


 ダレイオスの頼みを快く引き受けた彼らは、教えて貰った出口に向かって一目散に駆けていった。今はとにかくこの場所から逃げ出したかった。その思いがよく理解できるアレシャは同情を禁じ得なかった。


「思いがけず連絡役が手に入ったな」

「そうね、先の調査隊のことなんて正直忘れていたわ」


 プロにあるまじき発言を漏らしつつ、六人はぶち破られた壁から冥界術式の実験場へ入る。見取り図によれば、その大きな部屋の隅に研究室があるようだ。まずはそこへ行き実験資料などを漁ろうということになった。棚という棚を、引き出しという引き出しをひっくり返すが、手に入ったのは既に知っている情報が書かれたものばかりだった。つまり、たいした情報は無かったのだ。書類をペラペラとめくりながらメリッサが首をかしげる。


「おかしいですね。ここ以外に資料があるような場所はなかったと思うんですが……」

「大方アングイスが隠したか処分したか、といったところだろうな。全く、苛立たせてくれるやつだ」


 ヘルマンが舌打ちをする。アングイスは自分以外の誰も信用していないような人間だった。重要な書類は人の目に触れないようにしているのだろう。もし隠したのなら念入りに探せば見つかるかもしれない。しかし、この広い施設を隅々まで探すのは六人だけでは不可能だ。しかも、アングイスが隠したのではなく処分していたのだとしたら目も当てられない。

 全員の心は決まった。ここの調査は商会に任せよう、と。


「じゃあ、そろそろ地上に出るか。それがいい」


 ダレイオスの言葉に誰も文句を言わず、一行は見取り図に従って出口へと向かった。

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