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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
31/227

30 決戦!アングイス

 ペトラたちが捕まっていた実験用生命体保管所。そこの通路の壁を突き破った先は、広い空間になっていた。何もない場所、だがどこか異様な雰囲気が漂っている。

 しかし、ダレイオスの意識はそれではなく、目の前の男に注がれていた。


「しかし、丈夫なものだな」

「お前、手枷を……糞が」


 アングイスの裸になった上半身の腹にはダレイオスの一撃の重さを物語る傷跡が残っていおり、彼は少しうめいて吐血した。治療魔術で応急処置はしてあるようだが、ダメージは内臓まで及んでいるようだ。


『ダレイオスさん、ヘルマンさん、は……?』

「ヘルマンは……あの炎じゃ助から……」

「勝手に殺すな」


 ダレイオスの後ろから体を引きずりながらヘルマンが現れた。多少やけどの跡が残っているが、問題なく生きていた。


『ヘルマンさん!よかった……。もう駄目かと思った……』

「氷魔術で熱を緩和した。後は治療魔術でひどい傷だけ治した。おかげで魔力はすっからかんだがな」


 ヘルマンがそう言うが、ダレイオスは炎に飲み込まれる瞬間、ヘルマンが氷魔術を放ったのを察知していた。彼が躊躇なくアングイスへ向かって行けたのはヘルマンのことは心配ないからだと知っていたからだった。それでも絶対に無事だという保証はなかったので、ダレイオスは内心ほっとしていた。

 ただ、そんな悠長に話し込むダレイオスの隙をアングイスが見逃したりはしない。冥界術式の黒い触手が迫る。だが、アングイスは知らない。自分が相手にしているのが『魔王』であるということを。

 ダレイオスが片手をかざすと、そこに白く輝く魔法陣が現れる。ヘルマンのものよりも更に強い光を放つそれによって、黒い触手は跡形もなく消え去った。


「な、んだと!お前のその魔術、古代魔術か!ボスと同じ……」

「なかなか気になることを言うじゃないか。詳しく聞かせて貰わないとな!」


 ダレイオスが駆け出した。アングイスはまたしても『冥界術式』で応戦するがダレイオスの左手の白い魔法陣に消しとばされる。そして、左手の魔法陣が赤い色に切り替わり、火炎が放射される。アングイスは『冥界術式』で黒い壁を作り出して防御を行う。今度は成功した。だが、一方向だけの防御など『魔王』の前には無意味だ。回し蹴りがその背にたたき込まれる。前に倒れることで衝撃を和らげようとするがダメージは十分だった。ダレイオスが追撃の踵落としを繰り出し、アングイスは間一髪それをよける。ダレイオスの足が地面にめり込んだ隙を狙い、アングイスはこりもせず触手をけしかけるが、ダレイオスが左手に白の魔法陣を展開してかき消す。ダレイオスが攻撃に転じる前にアングイスは後ろに跳んで一度距離をとった。なぜかその顔には笑みが浮かんでいた。


「なにがおかしい」

「いや、別に?」


 そう言いながらもアングイスは両手を構えて幾つもの魔法陣を展開し、魔法を連射する。火炎や氷弾が入り交じって飛来するが、ダレイオスは左手を突き出し障壁を張って防御する。その瞬間、ダレイオスの右方向に黒い魔法陣が出現した。再び『冥界術式』による黒い触手が襲いかかるが、ダレイオスは白の魔法陣を使わずに転がってそれを回避した。アングイスはその結果に満足してニヤリと笑う。


「やはりな。どうやらお前、右手が使えないらしいな。肩の傷が原因だろう。そうと分かれば、こっちのものだ」


 アングイスは先ほどと同じようにダレイオスの正面から魔術を乱射する。ダレイオスがそれを防御する隙に再び、右方向から攻撃を仕掛けた。右手が上がらないダレイオスはかわすしかない。


「さあ、さっきまでの勢いはどうした?防戦一方じゃあないか!」


 ダレイオスはアングイスの煽りを気にとめず、冷静に攻撃をかわし続ける。


「確かに、こうも攻めたてられちゃ防御に回るしかないな。だが、攻め手をゆるめてやればいい」

「何を……!」


 ダレイオスが片足を高く振り上げる。そして、地面を蹴り砕いた。その衝撃波が部屋の床全体に広がると亀裂が走り、地面が隆起する。地面に立っていられなくなったアングイスがバランスを崩し、攻撃の標準がずれた。

 ダレイオスを狙っていた魔術のいくつかは的外れな方向に飛んでいき、防御する必要もない。右方向から黒い触手が伸びるが、それは左手で展開した白い魔法陣で消し去る。アングイスの攻め手の全てを捌ききったダレイオスが地を蹴り、駆ける。両者の距離が一瞬で縮まった。千載一遇の好機。この一撃で決める。

 ダレイオスはアングイスの顎を蹴り上げ、空中に打ち上げた。


「がふっ、」

「『クララアルマ』!」


 ダレイオスが幾本もの光の剣を出現させ、その全てをアングイスへ掃射した。黒い触手を防御のために引き戻すのは間に合わない。障壁を展開するのも間に合わない。光の斬撃の雨に晒されたアングイスは体中に傷を負い、その右手と右足が切り飛ばされた。それによって『冥界術式』の発動に用いていた珠もその手から離れて地面に転がり、アングイスもまた鈍い音をたてて、地面に転がった。もはや、アングイスに戦いの続行は不可能である。


『か、勝った?はあああああ……。見てるだけでもヒヤヒヤしたよ……』


 アレシャがあからさまに安堵するが、ダレイオスは当然の結果であるというふうに鼻をならす。そして、血に染まって地面に倒れるアングイスへ近づき呼びかける。


「おい、意識はあるよな?聞きたいことが山ほどある。正直に話すなら、止血くらいはしてやるが」


 ダレイオスが提案するが、アングイスはそれを鼻で笑い飛ばした。


「残念だが、お前らに捕まる気はない。ガントレットの持ち主の情報をボスにお伝えせねばならないんだよ」

「逃げられると思っているのか?」


 ダレイオスがアングイスの髪を掴み、正面から睨み付ける。しかし、アングイスの顔に張り付いた笑みは消えていない。


「この部屋が何か知っているか……?この施設のメイン実験場だよ。『冥界術式』の発動はいつでも行えるようになっているのさ」


 アングイスが血に染まった手で取り出したのは、生命エネルギーをためこんだ珠だ。それが鈍く光ると、アングイスの体から黒が立ち上る。『冥界術式』が発動したのだ。


「アレシャ、離れろ!巻き込まれるぞ!」


 ヘルマンの声でダレイオスはアングイス掴んだ手を離して急いで距離をとり、白い魔法陣を展開して『冥界術式』を打ち消そうとするが、すでに遅かった。黒はアングイスの全身を包み込み、消え去る。そこにアングイスの姿はなかった。ヘルマンが舌打ちして苛立ちを表す。


「くそっ。まさか、口を割ることなく自死を選ぶとは……」

「いや、違うな。まんまと逃げられたんだ」


 ヘルマンの言をダレイオスが否定する。どういうことかと聞くヘルマンにダレイオスは説明を加える。


「あいつは『冥界術式』で死んだんだ。そして、あいつはボスにそれなりに近い存在のようだ。そのボスがヤツを蘇らせようとする可能性は高い。そうなれば、結局は逃げられたのと同じだ」

『なるほど……。逃げるために一度死ぬなんて、頭がおかしいとしか思えないよ』


 ヘルマンもダレイオスの言葉に納得したようだ。そして顔をゆがめると、呻き声を残して地面に倒れる。うつぶせで地面に伏すヘルマンをダレイオスが慌てて抱え起こした。


「おい、大丈夫か!」

「死にはしないが、悪い、少し気を失う……」


 ヘルマンはそのまま目を閉じた。ダレイオスが急いで治療魔術を施す。蓄積されたダメージは癒えなかったが、火傷などの外傷は上手く治療できた。ヘルマンの息も落ちついており、ダレイオスは胸をなで下ろす。


『ふふっ』

「ん、どうした」

『いや、なんか、信用できないとか何とか言っておきながら、ダレイオスさんって結局ヘルマンさんのこと仲間だと思ってるんだなって』

「それはお前も同じだろう。さ、少し休憩したら合流するぞ。あいつらのことも心配だ」

『わかった!じゃあダレイオスさんも休んでよ。一回交代しよう』


 その提案に乗っかり、ダレイオスはアレシャが入れ替わるが、アレシャは「うぐぅ」と呻いてその場に寝転がる。アレシャが思っていたより肩の傷が痛むのだ。自分の傷より先にヘルマンを治療したことからも、ダレイオスがヘルマンを大切に思っていることがうかがえるものだが、アレシャとしては自分のことも大切にしてほしかった。肩の傷はかなり痛かった。

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