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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
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25 ファーティマの街

 一応の仲直りをした少女二人とヘルマンが買い出しを終えて商会へ戻ってくると、商会の中はさっきにも増して慌ただしかった。事態はすでに動き始めたようだ。アレシャはヴェロニカに何が起きたのかを尋ねる。


「さっき調査隊から報告が入ってね。魔物に襲われることは何度もあったけど、何か特別なものを見つけることもなくファーティマの街までたどり着いてしまったらしいわ。で、そのままファーティマの街の商会に向かうと言っていたわ」

「それって、特に問題ないんじゃ……?」


 アレシャが首をかしげるが、メリッサがかぶりを振る。


「問題はこの後だったんですよ。その報告が入って少ししてから彼らへもう一度連絡を入れたんですけど、なぜだか連絡がつかないんです」

「それはつまり、ファーティマの商会で何かあったということか」


 ヘルマンの言葉に商会で待機していた三人が頷いた。

 これで状況は把握できた。となれば、バルバロスから再びファーティマに調査隊を送ることになるわけだが、丁度そのとき受け付けがヴェロニカの名前を呼んだ。アレシャたちの出番である。

 六人が揃って受け付けへ行くと、受付嬢は一度頭を下げてから一枚の書類をヴェロニカへ手渡す。


「先ほどの手伝ってくださるという話なのですが、ハンター商会から正式に依頼が出ました。ファーティマの街へ向かって、先発の調査隊の捜索と川に流れる毒物の調査を行ってほしいのです。お願いできますか?」

「勿論任されたわ。私たち以外に参加する冒険者はいるのかしら?」

「先ほどの調査隊は現在この支部から出せる冒険者の中でもランクの高い方たちでして、言ってしまえば人手不足なんですよ。なので、みなさんだけにお任せすることになってしまうのですが……」

「別にかまわないわ。むしろその方が動きやすくて楽よ」


 ヴェロニカがそう言って依頼の受注手続きをした。旅の準備はすでに完了している。となれば善は急げだ。一行は商会職員の見送りを受けながらバルバロスの街を後にした。


 レイン川に沿って川上へ三日ほど行ったところにファーティマの街はある。先ほどの調査隊は道中では問題がなかったようだが、油断はせずに行く。いつ何があってもいいように、アレシャも戦いはダレイオスに任せることにしていた。しかし、これといった問題も脅威も姿を見せない。バルバロスに向かうときと同じく至って平和な旅だった。

 その様相が変わったのはファーティマまであと一日、レイン川の本流に差し掛かったときだ。川沿いを歩く一行に、川から飛び出した数体の魔物が襲いかかる。


「くっ!あいつは?」

『えっと、えっと、Dランクのブルーファング!電撃が弱点!』

「よし、電撃だな!『フルメン』!」


 ダレイオスがかざした魔法陣から青い稲妻が迸り、魔物は地上に降り立つ前に全て黒焦げになった。しかし、その背後から更に数体のブルーファングが川から飛び出してきた。アステリオスがパーティの前に飛び出すと手にした巨大な斧をなぎ払い、魔物どもを吹き飛ばした。そこに、アステリオスの背に隠れるように立っていたメリッサが弓を構える。彼女の弦を握る手に魔法陣が展開すると、そこから発生した電撃が矢の姿を象った。雷の矢は高速で魔物へ接近し、群れの内の一匹に鋭く突き刺さった。瞬間、激しい電撃が放出し全てのブルーファングを焼き払った。

 無事に敵を殲滅し一息つくと、ヴェロニカが愚痴をこぼす。


「また魔物……。これで何回目よ?」

「これくらいなら手こずることはないが、さすがに鬱陶しいな。次に出てきたら俺が対処する。さっき戦った三人は体を休めていてくれ」


 そう進み出たヘルマンにダレイオスは感謝の意を表し、その厚意を素直に受け取る。すると、メリッサが自分の膝をぺしぺし叩き始めた。


「アレシャちゃん!疲れたら私のここ、空いてますから!」

「いや、気にするな。そこまで疲れていない」


 ダレイオスに丁重にお断りされてメリッサは少し悄げる。本当はお言葉に甘えるのも悪くないと思っていたが、彼はペトラの目を気にしていた。彼なりに誠意を見せているらしい。


『でも、なんでいきなり魔物の数が増えたのかな?何か原因があるとは思うんだけど』

「そうだな。水棲の魔物がわざわざ陸地に上がってくるというのも妙だ。少し心に留めておくべきか……」


 ダレイオスはそこから考察しようとしてみるが、情報が少ない今の状況では答えは出なかった。

 そこからも魔物を蹴散らしながら川を遡っていくと、ようやくファーティマの街をその視界に捕らえた。ファーティマはかつては栄えた街であるが、今は大きな街への移住による住民の減少にともない寂れていった街である。遠くから見ても変わったところがあるかどうかは分からない。


「大きな騒ぎが起きている様子はないわね……」

「ああ。とにかく行ってみなけりゃわからないな」


 ダレイオスの言葉に全員が頷くと、六人は恐る恐るファーティマへ歩みを進め足を踏み入れる。

 一体何が待ち構えているのかと身構えるが、街の中には普段と何も変わらない日常があった。通りには人が行き交い、住民たちが世間話に花を咲かせている。物騒な気配は全く感じられない。


「これは、なんか不気味ね……。どうするの?」

「とりあえず商会へ向かいましょう。何か情報が得られるかもしれないわ」


 ペトラの問いにそう答えたヴェロニカの先導で一行は商会への道を行く。そこでアレシャは一つ思い出したことがあった。


『ダレイオスさん、そういえばメリッサさんはこの前に食べたキノコをファーティマで手に入れたって言ってたけど、なにか知らないのかな?』

「む、そういえば。……聞いてみるか。おい、メリッサ」


 ダレイオスに呼ばれてメリッサは勢いよく振り返った。その反応速度に少し怯みつつもダレイオスがキノコのことについて尋ねると、メリッサはうーんと唸り記憶を掘り返してから話はじめる。


「私がファーティマにいたのはアレシャちゃんたちに会う少し前ですね。といっても、アレクサンドリアに向かう中継地だったので一日も滞在していなかったので商会にすら立ち寄ってないんですよ。だがら川下で事件が起きているなんて知りませんでした。街の人もそんなこと知らない様子でしたし」


 しかし、ダレイオスはメリッサの話に違和感を感じる。


「今回の事件の被害は川下で出ているのだから街の人々がそれに気づけないというのは納得できるが、商会という街の外と連絡を取れる組織があり冒険者が行き来するこの街で、街の住民が外の情報を得ずにいるというのは無理じゃないか?」


 ダレイオスの考えにメリッサもアレシャも確かにそうだと納得する。仮に人為的に街の人への情報が操作されていたとしても、街が完全に閉鎖されてでもいない限り完全な情報統制など不可能だ。

 しかし事実、街の人々は自分たちの街のすぐ隣を流れる川でそんな事件が起こっていることを知っている様子はない。一度街の人に話を聞くべきかとダレイオスは思ったが、それよりも先に六人は商会の建物へたどり着いてしまった。


「ここね。見たところ何も問題はなさそうだけど……入るわよ」


 ヴェロニカがドアに手をかける。その瞬間ダレイオスの背筋に悪寒が走った。彼の魂に刻み込まれた、恐怖の記憶。咄嗟にダレイオスがヴェロニカに制止を呼びかけるが時既に遅く、ヴェロニカはすでにドアを開けてしまっていた。そして、開いた扉から飛び出した黒がダレイオス達へ襲いかかった。

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