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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
24/227

23 二人の冒険者

 突如現れたその巨体は四人に向かって一直線に突進して、こなかった。明らかにコントロールを失った状態でゴロゴロと転がっていた。それはそのまま近くの岩に激突し動かなくなる。アレシャが恐る恐る近づきそれが何なのか確認してみると、それは黒い甲冑を着込んだ人間だった。兜から大きな角がはえているが、人間だった。

 アレシャが慌てて大丈夫かと声をかけようとしたとき、それはいきなり立ち上がり、叫ぶ。


「何をする、メリッサ!わたしを転がして魔物を倒そうとするなど、何を考えてるんだ!」

「うるさいですよ。あなたはデカいだけしか能が無いんですから、そういう使い方が一番役に立つでしょう。手っ取り早くゴブリンどもを蹴散らすには一番効率がいい方法です」

「だからって蹴飛ばすやつがあるか!お前に人の心は無いのか!」

「ああ、うるさいですって。あなたの無骨な外見は私の趣味じゃないんですよ」


 甲冑が転がってきたのと同じ方向から一人の人間が姿を現した。黒い長髪を後ろで一つに束ね、弓を携えた背の高い女性だ。そこから甲冑と女性は言い合いを始めるが、それを聞く限り彼らは二人組の冒険者のようだった。

 アレシャたちが呆然とそれを見ていると、黒髪の女性が四人に気づいた。


「あれ、冒険者の方ですか?すいません、騒がしくて」

「いや、お前が原因だろう!」


 甲冑の男がそう抗議するが、黒髪の女は右から左に受け流していた。この二人に任せていては話が進みそうになかったので、ヘルマンが代表して自己紹介することにする。


「俺はヘルマンという者だ。こっちの美しい女性は『魔劇』のヴェロニカさんで、俺たち四人のパーティのリーダーを務めてくれている」


 自分たちの紹介がないことにアレシャとペトラは不服そうな顔を浮かべた。それに気づくことなく甲冑の男が名乗る。


「どうもご丁寧に。わたしはアステリオスという。Bランクの冒険者だ」

「私はメリッサです。同じくBランクですよ。えっと、ヴェロニカさんにヘルマンさんに……お?」


 四人に順番に視線を送っていたメリッサの視線がアレシャで止まる。そしてツカツカと近づき、アレシャの目の前で立ち止まった。背の高いメリッサに見下ろされてアレシャはたじろぐ。


「あ、えっと、なんでしょうか……?」

「あなた、いいですね……」


 にっこりと笑ったメリッサがアレシャへ手を伸ばす。アレシャは反射的に目をぎゅっと瞑るが、その手は頭の上にぽすっとのせられた。そして、わさわさと撫でられる。


「ん、え、なんですか?」

「ああ〜、いいなあ!こう、なんか小生意気な感じのする顔とか、白髪も綺麗でいいなあ!この青のカチューシャも可愛いなあ!」


 この女が何を言っているのか理解できずアレシャは戸惑う。最初は優しく撫でられていたが、それはだんだんと激しさを増していった。揉みくちゃにされていく少女の姿を見て、アステリオスがため息をついた。


「すまん。こいつは見た目に似合わず可愛いものが好きでな……。君はどうやらメリッサのお眼鏡にかなってしまったらしい。いつもよりも中々激しいが」

「なんでアレシャだけ!?あたしは!?」


 ペトラが納得いかんというように叫ぶと、メリッサはアレシャの頬をいじりながら答える。


「んー、あなたはまだ子どもすぎる。こう、手を出してはいけないタブーな存在な気がする。この子ぐらいの年頃の方が色々捗るんですよ。あなた、名前は?」

「あ、あ、アレシャでふ。……捗る?」

「何よそれ!あたしは十五歳よ!アレシャとはひとつしか変わらないんだから!」

「ん、そうなんですか?けど、私の何かが『ノータッチ!』と叫んでいるんで、すみませんね」


 そう言ってメリッサが頭を下げる。ペトラはメリッサに揉みくちゃにされたいわけではないが、必要以上に子ども扱いされたのがペトラは悔しかった。少し涙目でアレシャを睨み、アレシャは仲直りがまた遠のいたと白目をむいた。

 一通りなで回された後メリッサに後ろから抱っこされつつ、アレシャはアステリオスに質問する。


「それで、二人はどこへ向かう予定なんですか?わたしたちはバルバロスに向かおうと思っているんですけど……」

「ああ、わたしたちはアレクサ……」

「奇遇ですね。私たちもバルバロスへ行くところですよ」


 メリッサがアステリオスの言葉を遮る。すると、アステリオスがメリッサへ詰め寄った。


「いきなり目的地を変えるな!おまえ、まさかその子と一緒に行きたいからとかそんな理由じゃないだろうな」

「その通りですけど、何か問題が?」

「お前、可愛いからって拾ってきた犬を構い過ぎたあげくノイローゼにさせたの忘れたのか!ストレスで毛が抜けてしまった犬のなんと哀れなことか……」

「あれはちょっと間違えただけです!お願い、今度はちゃんと面倒見るから!」

「だめだ!元のところに返してきなさい!」


 アレシャは犬ではない。誰もが「なんだこれ」という思いでそのやりとりを見ていた。その口論はしばし続き、結局アステリオスが折れて終わった。というわけで、なし崩しで二人の冒険者も一時的にパーティに加わることになったのだ。


 六人に増えた一行は山道を進む。ヴェロニカはリーダーとして二人の新入りの戦い方を確認していた。

 アステリオスは斧を武器として戦うパワーファイターだ。防御力にもかなりの自信があるようで、「盾役ならぜひ任せてくれ」とのことだ。

 メリッサは弓を使った後衛アタッカーだ。連射と速射はできないが、命中精度と攻撃力はかなりのものらしい。前衛と後衛がしっかり別れていたので、二人でも上手くやってこれたのだろう。

 その話をしている間もメリッサはアレシャを手放さなかったが、アレシャは構われすぎて明らかに疲労が溜まっていた。彼女が円形脱毛症にならないか心配である。


『アレシャ、そんなにしんどいなら私と代わってもいいんだぞ?』

「昨日ペトラにバッサリ嫌われた後でよくもそんな下心を……。でもしんどいから代わって」

『別に下心ではないんだがなあ……。まあそう言うなら代わろうか』


 ダレイオスは表に出てくると、抱きついているメリッサを振り払った。自分の手を離れた少女に「おいで!」とメリッサは言うが、ダレイオスは丁重に断る。

 メリッサは残念そうな顔でうなだれ、とぼとぼと歩き始めた。メリッサが前傾姿勢になったことで、ダレイオスの視線はついその胸元へ注がれてしまう。中々に豊かなその胸に、少しくらいなら抱っこされてもよかったかもしれないとダレイオスは思うのだった。

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