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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
22/227

21 ランドルフおじさん

 アレシャたちはメイリスの街の商会支部への道を歩いていた。アレシャたちとは言ったが、アレシャは最後尾をとぼとぼと歩いていた。行きたくないのだ。


『だいたい、商会のトップに知り合いがいるというのに、バレる可能性は考えてなかったのか?』

「いや、なんか色々ありすぎて色々頭が回ってなかったというか……。これからはもう少し考えて行動します……。まあ、ランドルフさんなら理解してくれる気がしなくもないけど、でも、不安だなあ……」


 ぶつぶつと呟きながら足取り重く進む。しかし、人間歩みを止めなければいつかはたどり着くものである。それほどかからずに商会へ到着した。ヴェロニカが受け付けに支部長に取り次ぐように話をすると、討伐隊からすでに話は伝わっているようで、すぐに奥の部屋へと案内してくれた。入るのを嫌がるアレシャはペトラが引きずって連れて行った。

 案内されたのは支部長の執務室だ。調度品の類いはほとんど置かれていない味気のない部屋だったが、そこが冒険者っぽいとアレシャは思った。偏見である。


「やあ、来てくれたか」


 低く響く声をかけてきたのは、部屋の奥に置かれたデスクに座っていた体格のいい冒険者然とした男だった。確かな実力と威厳を感じさせる居姿である。ヴェロニカがアレシャにそっと耳打ちする。


「……あの人が、ランドルフさん?さすがSランク冒険者って感じね」

「いや、違いますよ。あの人は多分、支部長さんじゃないですか?ランドルフさんはあれです」


 アレシャが指さしたのは、デスクの正面に置かれたソファにふんぞり返って座っている男だった。服をだらしなく着崩し、ボサボサの髪をがしがしとかいている男だった。覇気のない目をした、どこか気だるげな男だった。どうしても冒険者には見えない男だった。告げられた真実にヴェロニカもヘルマンもペトラも呆気にとられてしまう。

 ランドルフはソファにもたれかかりながらアレシャの方へ振り向いた。


「よう、アレシャ。久しぶりだな。四年ぶりぐらいか?」

「は、はい。お久しぶりです、ランドルフさん」

「そうかしこまるなよ。昔みたいにランドルフ“おじちゃん”って呼んでくれていいんだぜ?」

「あ、いえ、そんな恐れ多い」


 そんな会話の最中も、アレシャは全くランドルフと目を合わせようとしなかった。すると、ランドルフはソファから立ち上がり、アレシャに詰め寄って彼女の頭をわしっと掴んだ。そして無理矢理自分の方を向かせる。アレシャの喉の奥から「ひぃぃ」という情けない声が漏れ出た。


「アイオン支部長、こいつ少し借りていってもいいか?久しぶりに会った親友の娘だ。色々と積もる話もあるんでな」

「え、ええ。俺は構いませんが。事件の報告はそこの三人がいれば問題ないでしょうから」

「そうか。よし、いくぞアレシャ」

「え、そんないきなり!?ちょっと待ってえぇぇぇぇぇ……」


 ランドルフに首根っこを掴まれ、そのまま引きずられてアレシャは部屋から退場していった。ランドルフの突然の行動に反応できず、その部屋にいる誰もが間抜けな顔をしていた。


 アレシャが連れて行かれたのは支部の片隅にある倉庫のような部屋だ。人が来ることはほぼない。人に聞かれたくない話をするのに最適な場所だった。ランドルフは適当な箱の上に腰掛ける。


「あ、あの、まだ報告も何もしてないんですけど……その、なんのご用でしょうか?」


 混乱したままアレシャが尋ねると、ランドルフはかぶりを振った。


「報告なんていらねえ。お前が試験で一暴れしたとき、俺はアレクサンドリア支部の査察に来ていたんだよ。お前がわけのわからんことになっているのも全部聞いている」


 こちらから誤魔化したりする隙も無い言葉にアレシャは黙ってしまう。報告するまでもなく、今のやたらと強くなった自分のことを知られているとは思っていなかったのだ。

 汗腺という汗腺から汗が噴き出すアレシャにランドルフはできる限り落ち着いた声で尋ねる。


「さて、聞かせてくれるよな。お前に何があった」

「…………」


 アレシャは答えない。ランドルフは信用できる人物だ。子どものことから彼のことを知っているアレシャはそう思っている。しかし、ダレイオスが自分のことを知られたくないと思っているのなら彼女の一存で話すわけにもいかないと考えていた。それをダレイオスは察したのか、アレシャへ語りかける。


『アレシャ、私は別に話しても構わない。どのみち、ここまで知られていて話さないというのは無理だ。むしろ、話せばお前が言ったとおり力になってくれるかもしれないんだろう?お前が信用している人物なら話せば良い』

「……そうだね、わかった。話すよ」


 ダレイオスの後押しでアレシャは意を決した。

 そして、ランドルフにムセイオンでの出来事からの全てを話した。

 不法侵入したところはなんとか誤魔化そうとしたが、ランドルフに一瞬で見抜かれてしまったので、それはもう洗いざらいだ。おおよそのことを語り終えたところで、ランドルフは大きくため息をついた。その顔は驚きと言うよりもはや呆れの表情だった。


「おいおい、『魔王』とかマジかよ……。思っていたよりもずいぶんと大物じゃねえか……」

「なんか、すいません……」

「謝られてもどうしようもねえだろ。ったく……。で?その『魔王』様は今どうしてるんだ?」

「一応交代しようと思えばいつでも交代できるよ、多分。視覚と聴覚は共有しているから今までの話も全部聞いてるはずだけど、交代してみる?」

「ああ」


 アレシャがダレイオスに合図すると、ダレイオスはアレシャと人格を交代した。少女の纏う雰囲気が変わったのをランドルフは感じ取る。


「初めましてだな。私が『魔王』ダレイオスだ。魔術の一つでも使えば信じてもらえるか?」

「いや、いい。今更疑ったりしねえよ。しかし、なんだ。アレシャの顔で格好つけられても気味が悪いな。あ、いや、そんなに睨むなって」

「まあいい。で、お前はこれからどうするつもりだ?この世界にとっての悪の象徴たる私が目の前にいるわけだが」


 ランドルフという人間のことをよく知らないダレイオスはあえて強気に話すが、ランドルフはそんなことも気にせず、自分のペースで会話を続ける。


「別にどうもしねえよ。アレシャ本人がお前のことを信用するって言ってんだ。部外者の俺がとやかく言うことじゃねえ。それに、こいつはバカだが人を見る目はある。だから俺もお前を信用してやるよ」

『今バカって言った!バカって!』

「ふっ、そうか。商会の会長様からの信頼、有り難く受け取っておくとしよう」


 ランドルフはダレイオスの事をすんなり受け入れてくれた。アレシャの心配は杞憂だったようだ。ダレイオスとアレシャはどちらかれともなく握手を交わす。ハンター商会長ランドルフ。アレシャとダレイオスにとっての初めての理解者であり、協力者であった。報告も無事終えたところで話はこれからのことに移る。

 アレシャはランドルフと出会ったことで一つ思うことがあった。


「あのさ。やっぱり、ダレイオスさんのことはこれからも黙っていた方がいいのかな?」


 ランドルフは顎に生えっぱなしの髭をさすりながらその問いを吟味する。


「そうだな……。『英雄』の信奉者ってのは結構いるからな。それが賢明だろうよ。ま、お前の信頼している人間になら教えてもいいんじゃねえか?」

「信頼……そっか。じゃあ、そうしてみる」


 アレシャの頭に浮かんだのは一つ年下のエルフの少女の顔だった。話をするならば、一番最初は彼女にしようとアレシャは心に決めた。


「まあそれはいいんだが、お前、あまり目立たないようにしろよ?過ぎた力ってのはいつも利用されるもんだからな。わざわざお前の情報が広がらないように俺が配慮してやったんだぜ?」

「配慮?」


 アレシャが首をかしげると、ランドルフは「おう」と頷く。


「言っただろ?試験があったとき俺はアレクサンドリアにいたってよ。試験に現れた『七色の魔物』についての情報操作をしたのは俺だ」

「ああ、なるほど」


 アレシャは納得してぽんと手を叩く。つまり、『七色の魔物』をアレシャが討伐したという事実は隠されることになるとセイフが言っていたが、ランドルフがその判断をとったということだ。冒険者試験に『七色の魔物』が現れたという話があまり広がっていないのもランドルフが情報を操作したからのようだ。実際、ランドルフの言う通りだ。右も左も分からない新人冒険者がいいようにこき使われるとうのはよく聞く話である。アレシャにはヴェロニカとヘルマンが同行しているのでその心配はないが、ペトラと二人だけだったららどうなっていたか分からない。


「じゃあ、今回の『七色の魔物』についても同じようにするの?」

「まあ、ヴェロニカとそのパーティが聖地に現れた魔物を討伐したという情報は出すつもりだ。お前の名前も噂にはなるだろうよ。ほんとは『七色の魔物』についての情報は出したくないんだが、あんな大々的に討伐隊を派遣したんだ。隠すわけにもいかねえよ。あー、そういや聖地でなんか他に色々あったんだって?折角だからここで話しちまえよ」

「あ、そうだね。えっと……」


 ランドルフの提案にのり、アレシャは“死人”に関する一通りの報告をした。それを聞いたランドルフの顔は険しい。アレシャは今の話に何か心当たりはないか尋ねる。しかし、ダレイオスは首を横に振った。


「残念だが、さっぱりだ。だが、禁術に関わっている組織なんて時点でろくなもんじゃないのは間違いねえな。放っておくってわけにはいかねえ。あまり広く情報を出すこともできねえし、そいつらの調査は俺が主導で行うことにしよう」

「わたしたちも何か手伝おうか?」


 一度関わってしまったのだから、何かできることがあれば協力したいとアレシャは思った。しかし、ランドルフはそれを断った。


「お前らは何か情報を得たら教えてくれるぐらいでいい。折角冒険者になったんだから、まずは旅を楽しめ。余計なこと考えるのはそれからでいい」

『私も同意見だな。私たちだけで集められる情報などたかが知れている。ひとまず“死人”のことは任せるべきだ』


 二人の言うことはもっともだった。アレシャは申し訳なく思いつつもランドルフの厚意を有り難く受けとることにして、ぺこりと頭を下げる。


「ありがとう、ランドルフさん」

「その“さん”づけも他人行儀でなんか嫌だな……。おじちゃんでいいんだぞ?」

「おじちゃん、は、ちょっと厳しいかな……。じゃあ、ランドルフおじさんで」

「まあ、それでいいか。……ほんと、ちょっと見ない間にデカくなったな」

「うん。成長期だからね」


 アレシャが二カッと笑うと、ランドルフはアレシャの頭にぽんと手を置く。そして、アレシャが幼い頃から親しんでいた優しい笑顔を浮かべた。


 それから二人は支部長室へと戻った。丁度ヴェロニカたちも支部長へ報告を終えたところのようだ。なのでランドルフは先ほどアレシャにしたように”死人”の調査は自分が行うとその場にいた全員へ伝えた。ヴェロニカらもそれに素直に応じる。あれが何者なのか気になりはするが、正直なところ身に余る厄介ごとというのはできる限り抱えておきたくはないものだ。

 それだけ伝えるとランドルフは再びソファに腰掛け沈み込む。


「さて、仕事の話はこんなもんでいいだろ。お前らはこれから何処へ行く予定なんだ?」

「いえ、特に決めていませんが……。アレシャちゃんはどこへ行きたい?」

「ええ、そうだな……」


 腕を組んでどこがいいかと悩むアレシャにランドルフが一つ提案した。


「お前、調べてることがあるんだったな。それについて詳しいヤツを知ってるが会ってみるか?紹介状なら書いてやるぞ」

『調べてること……?もしかして千九百年前のことか!』

「あ、それはいいかも!じゃあ、会ってみようかな」

「よしきた」


 ランドルフは自分の手荷物から適当な紙を引っ張り出すと、何やら走り書きをする。それを封筒に入れてアレシャに手渡した。


「ほれ、紹介状だ。ここから北にセインツ・シルヴィアっていう街がある。そこにオズワルドっていう歴史学者が住んでんだ。俺が知ってる中で最高の歴史学者だ。ちょっと入るのが面倒な街だが、まあ何とかなるだろう」

「あたし知ってるわよ!セインツ・シルヴィアってものすごい大きな街でしょ?観光にいくだけでも十分楽しめそうじゃない?」


 ランドルフの話を聞いたペトラが興奮した様子でそう言う。先日見た聖地の光景でペトラに旅の楽しみというものを覚えたようだ。次はどんなものが待っているのかと顔を輝かせる。対してヘルマンは少々面倒だという風にため息をつく。


「宗教的にややこしい土地だから転移魔法陣が置かれてないがな。自分の足でいくしかないか……」

「それも冒険者の醍醐味でしょ?誰も文句がないなら問題ないわね」


 ヴェロニカの言葉にアレシャは頷く。

 次の目的地は、セインツ・シルヴィア。何か過去の真実に近づけるかもしれない、とダレイオスは胸を躍らせていた。

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