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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第三部
212/227

7 英雄と街道の話

「おお、ダレイオス!息災だったか?」

「前に会ってから一月しか経ってないからな。当然だな」

「性懲りも無く、また来たのですか」

「いや、今日はちゃんと仕事で来たんだ!それにしても辛辣だな、お前ら!」


 ダレイオスとヘリオスからじっとりとした視線を向けられ、アレクサンドロスが慌てて弁解する。

 彼らが今いるのはペルセポリスの王宮の一階広間だ。そこで友好国の王の出迎えを行う中での、この厳しい物言いである。アレクサンドロスもしょんぼりだ。しかし彼の言うことは本当で、今回は以前のようにフラリと遊びに来たのでは無く、ちゃんと公務でやって来たのだ。その証拠に彼の後ろには副官のショウと、彼の率いるアレクサンドロスの近衛師団が控えていた。


「分かってるさ。冗談だ」

「お前はともかく、ヘリオス君の言葉は冗談に聞こえんのだ」

「冗談ですとも」

「そ、そうか……。では、早速案内してくれ」

「分かった。まあ仕事は言え、折角来たんだ。気兼ねなく話せる場所へ移ろう」

「そうだな。それがいい」


 ダレイオスの提案にアレクサンドロスも同意を返し、近衛師団に待機を言いつけるとショウを引き連れてダレイオスの後へ続いた。ダレイオスもまたヘリオスを連れて自室へと向かう。

 この四人は共に行動することが多い、気心の知れた関係だ。こうして公務でやって来た場合でも、この四人だけで話し合う事は多々ある。しかし、それを快く思わない者がいるのも事実である。


「自分から言って何だが、他の者も交えた方が良いか?」

「そうですな。アレクサンドリアでは、高官が愚痴を漏らしているのを時折耳にいたしますが……」


 会談を上りつつダレイオスが問いかけ、ショウがやや言いづらそうに答える。しかし、アレクサンドロスがため息をついて首を横に振った。


「あいつらは自分たちの思うように国政を動かせない事に苛立っているだけだ。放って置いて問題は無い。そういった輩を閉口させるだけの威光が俺に無いというだけかもしれんがな」

「そう謙遜するな。お前は上手くやっている。それにアレクサンドリアはアルケメアとは違い歴史ある国家だ。一新興国の王である私が仲良くやっているのが気に食わんのもあるのだろう」

「お前こそ謙遜するな。アルケメアの英雄にケチをつけようものなら、アルケメアの全国民から怒りを買うぞ」

「英雄、か。未だにその呼び名はくすぐったい。できれば止めて欲しいんだがな」


 ダレイオスは頬を掻きつつ微苦笑する。彼のその呼び名は、アルケメアの建国の経緯に由来するものだ。

 アルケメアはかつて、いくつかの小都市間で利権の取り合いで泥沼の戦が起きていた地域だった。彼はその人柄と卓越した魔術によって都市間の関係を取り持ち、終戦へと持ち込んだ。そうして誕生したのが、このアルケメア王国というわけだ。つまり、ダレイオスは由緒ある血筋の王ではない。

 しかし一方のアレクサンドリア王国は、代々王家の血を引く者が王位を継承している、歴史ある国家だ。当のアレクサンドロスはそれを気にしている様子は無いのだが、国の政を担う高官の中にはその歴史に強い誇りを持ち、歴史を持たないアルケメアを蔑視している者もいる。

 先の彼らの会話はそういった経緯から生まれたものだが、両国の王の関係は極めて良好だ。文句を言う高官たちも、アレクサンドロスという大いなる君主に意見できる立場ではなく、二人の絆の前にはあくまで些細な問題でしか無かった。四人の予定は何も変わること無く、王宮の螺旋階段を上っていく。


 しかし外の景色が見渡せるテラスを歩いているところで、アレクサンドロスの足が止まった。何か気になるものが目に入ったらしい。ダレイオスがその視線の先を辿ると彼は王宮の一画で整列している、とある集団を見下ろしてた。


「ダレイオス、アレはもしや新たに任命された宮廷魔術師か?」

「ああ、そうだな。新人の教育中のようだ」

「ほうほう。どれどれ」


 前回アルケメアに来た時に宮廷魔術師選考についての話をしたため、アレクサンドロスは興味があるようだ。そこに立ち止まってもう少し様子を眺めることにする。特に急ぎでもないので三人もそれに付き合う。


「新人はそこにいるあの五人だな。横並びの」

「ふむ。今年は女性もいるのか。遠目に見ても中々の美人じゃないか?だが、宮廷魔術師の仕事は厳しいらしいじゃないか。彼女にこなせるのか?」

「う、うむ……」


 言葉を濁すダレイオスにアレクサンドロスは首を傾げる。ショウもまた、隣で静かに頷くヘリオスを不思議そうに見つめていた。

 と、そこで彼らの耳に怒声が飛び込んできた。


「ミネー!私はただ、指示に対しては逐一返事をしろと言っているだけだ!宮廷魔術師という組織で行動するためには仲間との協調が不可欠なのだ。なぜ分からない!」

「な、なんだ!?」


 アレクサンドロスが驚いてテラスから身を乗り出すが、ダレイオスは額に手を当てて項垂れていた。そして同じく渋い表情のヘリオスに声をかける。


「ヘリオス、行ってやってくれ。収集がついたら私の部屋へ」

「畏まりました」


 ため息交じりに承知したヘリオスはテラスに足を掛けて飛び降りる。かなりの高さがあるが、風の魔術で落下の衝撃を吸収し、そのまま宮廷魔術師たちの元へと向かっていった。


「何か、問題ありのようだな」

「まあな。それについても部屋で話そう。さあ、来てくれ」


 ダレイオスに促され、アレクサンドロスとショウの二人は宮廷魔術師たちの事が気になりつつも、彼の後ろを追っていった。




「それで、やっぱり仕事の話よりも先にアレの事が気になるか?」

「勿論だ。怒鳴られていたのは女性の新人だろう?」

「ああ、あれが今の王宮の台風の目だ」


 ダレイオスの部屋に到着し、ショウが茶を淹れて三人が席についたところでダレイオスが切り出した。ついさっき見たばかりのトラブルにアレクサンドロスも興味津々であるのが彼の表情からも明らかだったため、ダレイオスは一先ず宮廷魔術師選考試験の事から順を追って語っていくことにした。


「彼女を一言で言えば、鬼才だ。選考試験の際、他の受験者が苦戦していた木偶を一撃で破壊し、ヘリオスの魔力を注いだ木偶を相手にとっても無傷で勝利した」

「そりゃあ凄いな。内の近衛師団でも、ヘリオス君の木偶を相手に勝てるかどうかの確証は無いぞ」

「ですが、それを聞いて何となく話は見えてきましたな。若くして逸脱した実力を持つ者となれば、自尊心も相応に高くなってしまうでしょう」


 ショウの言うことは的を射ていた。ダレイオスはその通りだとばかりにショウを指さした。


「そうなんだよ。そのプライドのせいで、彼女は協調性が致命的に欠けているんだ。ああやって宮廷魔術師団として団体行動を行えば、先輩の魔術師の言うことをまるで聞かない。ああやって叱られても、微笑むだけで何の手応えもない。本当に困ったもんだ」

「それだけ才能があるなら、上手く行けばアルケメアにとって相当有益に働くだろうが……。上手くいかんもんだ」

「一度、私から話をすべきかと考えているところだ。何故宮廷魔術師になろうと思ったのか、最早そこからだな。……今後の選考では試験後に面接も考えておくか」


 ダレイオスが今後の宮廷魔術師団の展望について思考を巡らせている中、アレクサンドロスもまた、何かを考えていた。そして顔を上げるとポンと手を叩く。


「よし、じゃあ仕事の話をしよう。今日はそのために来たのだからな」

「……ん?そ、そうだな、うん。そうだな」


 てっきり自分と一緒にミネーの問題について考えてくれていたのかと思っていたので、ダレイオスは面食らってしまう。だが、彼の言うことも尤もだったので、それに乗ることにした。


「では仕事の話だが、ペルセポリスとアレクサンドリアを繋ぐ街道の話だったな」

「ああ、いよいよ施工だ。今日はその細かい予定の詰めのために来た。ショウ、図面をくれ」

「承知いたしました」


 ショウが書類の束を取り出して机の上に並べる。三人は紅茶を一気に飲み干すと、真面目な話を始めた。

 街道は両国の都間を結ぶもので、この街道が完成すれは都市間の移動の所要時間が大幅に短縮されるとの見込みだ。何より、街道を作ることで人の往来が増え、警備も行き渡るようになれば魔物の出現も抑制される。行き来する人々の安全が確保できるということが、この街道工事の一番の理由であると言える。


「それで、工事に関してはアルケメアの力を借りたい。当然魔術の使用が主になるだろうからな。その分、こちらは力仕事の労働力を提供させて貰おう」

「それは構わないが、ムセイオンの協力は得られないのか?」


 ムセイオンはアレクサンドリアに属する王立魔導研究所だ。優秀な魔術師が揃っているし、その技術力もかなりのものである。街道はかなりの長さになることが予想されるので助力を得られれば大助かりなのだが、アレクサンドロスは首を横に振った。


「残念ながら、断られてしまった。ムセイオンの所持している技術は惜しみなく提供するが、人は出せないとのことだ」

「王の命であってもか?」

「近年のムセイオンは技術の転用によって自ら研究資金を捻出している。国の補助が無くとも十分に回せているため、私のムセイオンへの影響力も弱まってしまった。言わば半独立状態だな。圧力を掛けることもできるが、関係を悪化させたくないのでな。すまん、力になれそうにない」

「いや、構わん。我が国の優秀な人材があれば問題なかろう」


 申し訳なさそうに頭を下げるアレクサンドロスだが、ダレイオスは軽く返した。他国の内情に文句をつけるつもりは毛頭ない。ダレイオスの反応は当然と言えた。

 それでもまだアレクサンドロスは自分に不甲斐なさを感じていた。その埋め合わせのために、彼はとある事を口にする。


「ダレイオス。代わりと言ってはなんだが、お前に一つの策をくれてやろう」

「策?」

「お前の悩みを解決するための策に決まっているだろう」


 ダレイオスの今抱えている悩み。それは勿論——


「私に女が出来ないことについてか」

「いや、そっちじゃない。え、まだダメなのか?いや、そうじゃなくてだな。さっき話したミネーの話だ」


 「ああ、そっちね」とダレイオスは頷く。寧ろ何故そっちだと思ったのか。

 予期せず話の腰を折られてしまったが、アレクサンドロスは改めて話を続ける。


「街道の施工に宮廷魔術師を派遣するだろう?そこにミネーも連れてくるんだ」

「ミネーを?確かに今度の工事は新人の初任務には丁度いいと思っていたが、アイツを連れてくれば現場をかき乱す事間違い無しだぞ?」

「構わん」


 相手の考えが理解できずに口を挟むダレイオスだが、アレクサンドロスは問題ないと断言する。


「つまり、その問題を何とかできる策がある、ということだろうか。本当か?」


 「お前の言う通りにして大丈夫なのか?」という懸念のニュアンスを込めてダレイオスが問い返す。それに対してアレクサンドロスは——


「俺はお前より女の扱いが上手い。一旦黙っていて貰おうか」


 と返すのだった。

 そしてそれに対するダレイオスの返答は


「ぐぅ」


 と一言漏らしただけだった。

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