86 乱戦
ナラシンハは本陣で静かに思考を巡らせる。現在戦場にいる『魔王』の部下は五人、それに壁と上空からの支援攻撃もある。一番厄介なのは届かない場所からの支援攻撃の方だ。壁からの攻撃に関しては、相手の拠点を攻め落とさない限り止める手立てがない以上放置するしかないが、白龍の攻撃には手は打てる。
「ルクソー。どう出るべきだろうか」
「やはり、視線攻撃を止めるべきだ。『白龍』のフェオドラをワタシが止め、その間に本陣へ向けて攻め込む」
「私も同じ考えだ。なら、お前に白龍を頼んでもいいか」
「了解した」
ルクソーは静かに頷く。そうなると後は戦場の武勇たちを何とかしなくてはならない。彼らを食い止めている内に進軍させ、数で一気に拠点攻め落とすのだ。ナラシンハはゆっくりと立ち上がる。
「さあ、出番だな。私は『覇撃』のブケファロスを相手にしよう」
「そうだな、なら俺はアステリオスとかいうヤツと戦うか。コーディ、お前はヤスケだな」
「了解です」
「それで頼む。他の隊長達は進軍を進めさせてくれ。前線にいるキーラと合流し、叩きつぶせ」
ナラシンハに対して力のこもった了解の声が返ってくる。ペトラを相手すると言い出す者がいないあたり、彼女は連合軍に軽んじられているようだ。本人が知ればきっと抗議の声を上げるだろう。
タイタスとコーディは積極的に戦いへの参加を希望したが、戦いたくないからこその積極性だ。怪しまれないよう、ある程度本気で戦う気ではあるが、『アルケーソーン』の面々が殺されてしまうような事態にならないようにするためである。以前商会本部で話したときにランドルフから受けた指示通りだ。タイタスが体裁を保ちつつ、アレシャたちに協力できる案というやつだ。タイタスはこの案について、「それだけ?」と思っていたが。
しかしランドルフはタイタスに、立てている策については一切話をしなかったので、今回も何か別に考えているのだろうと思い、深くは考えないことにした。自分の仕事をしっかりとこなしていれば、きっと上手く転がるのだろう。そう思うことにして腰を上げる。
「それじゃあ、早速出発でいいか?」
「ああ、そうだな。お前達、ここからが本番だ!『魔王』の手の者に我々の正義を知らしめろ!お前達の力を『英雄』へ示して見せろ!」
ナラシンハの号令に、連合軍の隊長達は拳を突き挙げて吠える。そして誰が先かと競かのように、それぞれの隊へ出陣指示を出して戦場へと繰り出した。それを追う形で、ナラシンハ、タイタス、コーディも走る。
「あれは……どうやら本隊が来たみたいね。あれを相手するのは皆でも骨が折れそうね。スヴェート!」
上空から戦場を見守っていたフェオドラ。スヴェートに声をかけ、相棒の白龍は高く鳴いてナラシンハたちを狙い撃とうと照準を合わせる。しかし、フェオドラの背後から低いうなり声が聞こえた。咄嗟の反応でフェオドラが後方へ障壁を張ると同時に、スヴェートへ向かって巨大な何かが突っ込んできた。障壁で多少は衝撃波和らげたが、スヴェートは大きくはね飛ばされてしまう。翼を羽ばたかせて体勢を立て直し、その何かと正対する。
それは、巨大な翼を羽ばたかせている真っ黒な獣だった。脚よりも腕の方がかなり長く太い。全身は黒曜石のように頑強な、鎧とも思える鱗に覆われ、真っ赤な鋭い瞳が敵を睨みつけている。そしてその背には一人の男が跨がっていた。
「ワタシの使役する相棒、ベヘモスだ。名高い冒険者である『白龍』殿に通用するかは分からないが、お手合わせ願おうか」
「あらあらご丁寧に。タイタスの同僚さんでよろしかったかしら」
「そうか、あなたもタイタスの元仲間だったか。だったら彼には悪いが、ワタシはワタシの役割を遂行させて貰おう」
バハムートが身を震わせるような低い声で吠えた。スヴェートも負けじと高くも威圧的な声で咆哮し、エネルギーを口に集めていった。そして得意のブレスをベヘモスへ向けて放つ。しかしベヘモスはそれを避けようとせず、正面から直撃を食らった。しかし煙が晴れたそこで、ベヘモスは悠々と翼を羽ばたかせていた。ベヘモスの身を覆う厚い鱗に、スヴェートの攻撃は通用しなかった。
ベヘモスはそこから再び突進をしかけてくるが、スヴェートはヒラリと躱し、長い尾で相手の背を強く叩き打った。ベヘモスは空中でバランスを崩し、そこにスヴェートの体当たりが直撃する。ルクソーはそれを小さく舌打ちしてフェオドラを睨みつけるが、彼女は冷静に相手を見据える
「つまらない戦いにはならなさそうだけど、私たちのコンビをそう簡単に破れるとは思わないことね」
「『魔王』の配下如きに、ワタシは負けはない!」
白と黒、二つの巨体がぶつかり合う。
その眼下の戦場では、ヤスケがのんびりと散らばる武器を拾っていた。彼に挑みかかってくる兵も大分減り、遠巻きから様子を窺うに留まっている。下手に近づけば武器を奪われて返り討ちにされると学んだようだ。というわけで、ヤスケは足元の武器を片っ端から掌の転移魔法陣で回収することに専念できていた。
「ほう、これは結構な業物だな。また今度親父に見せてやるかな。お、これも中々」
戦利品を物色する余裕すらあった。鼻歌まじりに。
するとそこで、周りの連合軍兵から歓声が上がり始めた。こちらへ迫ってくる足音が聞こえる。
「どうやら増援が来たみたいだな。そろそろ手応えのあるヤツが出てきそうなものだが……」
その手に一振りの剣を出現させ、警戒の色を見せる。明らかに先ほど手に入れたばかりの業物だが、構わず臨戦の姿勢をとる。手に入れたばかりの武器であろうと、そのポテンシャルを遺憾なく発揮できるのが、武器格闘の達人と豪語するヤスケの才である。前髪の隙間からギラついた瞳を覗かせる彼の合間に入れば、あっという間に真っ二つにされるに違いない。
しかし彼にとって、そう上手く事は運ばなかった。ヤスケが気づいたとき、相手は既に彼の目の前にまで接近してきていたのだ。そして相手は、手にしていた槍を大きく横に払った。ヤスケは剣でそれを受け止め、上方へ弾く。ともに武器が上へ跳ね上がった状況だ。そこから攻撃へ転じることもできたが、ヤスケは一度仕切り直すことを選んだ。空いた手に短剣を呼び出し投擲する。敵はそれを難なく弾くが、その間にヤスケは距離をとることができた。
「すげえ、あの男の間合いに一瞬で入っちまうなんて!」
「あれ誰だ?装備を見る限り、アルマスラ帝国軍の人間だろう?」
「第二師団副団長のコーディさんだ!タイタス団長の影に隠れてたけど、あんなに強かったのか……」
「だが、助かったぜ!俺らも加勢するぞ!」
周りの兵士達が息を吹き返し始めた。兵が口にした相手の名前と肩書きを胸に止めておきつつ、ヤスケは相手を見据える。雑兵ならともかく、とても一筋縄でいきそうにない。これに加えて周りの兵も相手にしなければならないのかとウンザリするが、コーディはヤスケにとって有り難い指示を飛ばしてくれる。
「他の兵達は進軍を優先しろ!この男の相手は私が請け負った!これはナラシンハ団長の命令だ!先行した他の隊に続け!」
コーディが先にその実力を見せたからか、ナラシンハの名を出したからかは分からないが、兵達はすぐに指示通りに進軍を始めた。ヤスケは拠点にいる連中に悪いとは思うが、それを止めることなく黙って見送る。
「コーディだったか?中々の槍捌きだった。相手に不足はない」
「私としては、こんな無意味な戦いはしたくないんですけどね。とにかく相手をして貰いましょうか」
「無意味……?」
ヤスケはそう呟き、先ほど周りの兵士が言っていたことをもう一度思い出してみる。そう、この男の肩書きはアルマスラ帝国軍第二師団副団長。ヤスケたちの協力者であるタイタスの直属の部下ということになる。もしや、この男も自分たちの協力者なのだろうか。ヤスケはそう推測を立てる。
「お前、タイタスという男と近い関係なのか?」
「ええ。あの人が今遂行している責務についても私は全て知っていますよ」
「……そうか。だったら確かに無意味かもしれないな。けど、雑魚兵ばかりで俺も退屈してたんだ。悪いが、ちょっと憂さ晴らしに付き合ってくれ」
「悪くない提案ですね」
コーディが槍を大きく振るい、ヤスケは武器を出現させ、右手に剣、左手に長斧、口にナイフをくわえた。殺意満々のフル装備にコーディは若干引きつつも、二人は一歩踏み込んだ。
更に少し離れた戦場では、アステリオスが振り回した大斧を地面に肩に担いで、一人の男と対峙していた。アステリオスと同じくガッチリとして鎧に身を包んだ髭面の大男、タイタス。彼はアステリオスをじっと見つめ、顎に手を当てて何か考えていた。この二人、初対面ではない。“死人”事件の時に一度顔を合わせている。そんな自分を見て、何を考え込むことがあるのだろうかとアステリオスは不思議に思うが言葉に出さず、あくまで敵対している立場として声をかけてみることにする。
「連合軍の将と見えるが、わたしを討ち取りに来たのではないのか?」
「ん、いや。そのつもりだ。これからの戦いの事を考えていた」
「これからの?」
「そうだ。俺は自分の力に自信がある。ただ、それが人間としてどのレベルに達しているのか確かめる機会は意外と無い。それを亜人さん相手に、どう確かめて貰おうかとな」
てっきり身内とどう戦ったものかと悩んでいるのだと思ったら、全く違った。かなりやる気まんまんだった。ならアステリオスも適当に相手をするワケにいかない。彼はフルフェイスの兜を脱ぐ。漆黒に染まった彼の顔が露わになる。連合軍兵の内、アリア教徒である者は「汚らわしい」だの「おぞましい」だの騒いでいるがアステリオスは気に留めない。深く息を吐くと、身体のリミッターを外す。彼の筋肉が膨張し、鎧がミシミシと音を立てて軋む。それを見てタイタスはニヤリと笑う。
「いい感じだ。ちょっと一発殴ってみてもいいか?」
「いいだろう」
アステリオスが指で「来い」と示すが、心の中では「コイツは何を楽しみ始めているんだ」と困惑していた。周りにいる連合軍の内、アルマスラ帝国軍に所属している者が全く不審に思っている様子がないあたり、日頃からこういう人間なのだろう。タイタスには、『魔王』の策を知らないならどうにでもなぁれ!という諦めもあり、それによってこんなよく分からない状況が出来上がっているようだ。一応戦いという形になっているだけマシだが。
タイタスが肩を鳴らし、拳を固める。そして一歩踏み込んだ。その一歩が地面にめり込んだ時、アステリオスの本能がヤバいと警鐘を鳴らす。次の瞬間、タイタスは次の一歩でアステリオスの眼前にまで踏み込んでいた。そして力のこもった拳がアステリオスへ向けて繰り出される。咄嗟に腕を交差してそれを受け止めた。鈍い音がしてアステリオスの巨体が後ろへ少し飛ぶ。手甲の攻撃の当たった箇所を見てみると、手の形にへこんでいた。アステリオスは、最初は防御せずに身体で受け止めるつもりであったのだが、これをノーガードでくらっていたら間違いなく膝をつかされていた。当たり所によれば一撃で戦闘不能になるかもしれない。想像以上の本気ぶりに冷や汗をかく。抗議の声を入れたくなるが、表向き敵同士なのでそれも叶わない。歯がみするアステリオスと対照的にタイタスは機嫌良く笑う。
「いや、大したもんだ。アレを受け止めるとはな。大体のやつは掠っただけでも吹っ飛ぶぞ」
周りの兵が大きく頷いている。きっと既に体験したことのある者もいるのだろう。アステリオスが静かに戦慄していると、タイタスは思い出したように指示を飛ばし始めた。それに従って兵たちは進軍していく。
「さて、やるか。さっきの一発で気絶していれば良かったのに、なんて思うなよ」
「……本当に、身内なんだよな?実は裏切られていたとか無いよな?」
アステリオスの心からの疑問の呟きはタイタスには届かなかった。そうして二つの巨体がぶつかる。
そして戦場で暴れる最後の一人、ブケファロスはリットゥを構え、勢いよく振り下ろした。しかし、対する男は剣を横に薙いでその軌道をいとも簡単に変えてしまった。得物の重さには明らかな差があるにもかかわらず、何度攻撃を打とうとも捌かれてしまう。
「これが『剣帝ハドリアヌス』か。さすがに強いな。そんじょそこらの剣士とはレベルも気迫も何もかも違いすぎる」
「才能溢れる剣士に褒められれば悪い気はしない。相手が『魔王』の使徒でなければ素直に喜べるのだが」
ナラシンハは長剣を片手で持ち、軽く振り回している。それだけのパワーを持ちながら、その技術は択一したものである。ブケファロスの剣の重心を見極めて剣を振るうことで、重量差をひっくり返している。ブケファロスの得意とする剛剣で押し切ることは不可能だ。以前戦った『剣帝』マルクスは太刀筋の重さに全てを込めたが故に対応もしやすかったが、ナラシンハ全ての面においてバランス良く高水準でまとまっていた。何度か切り結んでみたものの、弱点らしきものは一切見えていない。
「正直、勝てる気はしねえな。けど、それでこそやり甲斐があるってもんだ。俺たちの修行の成果を見せる相手としても申し分ない!」
『そうかもしれぬな。どれ、一つやってやるとするか』
ブケファロスはリットゥの柄を握り直し、リットゥは自分の持つ力をブケファロスへ譲渡する。彼の身体が金色の気を纏い始めた。ブケファロスの放つプレッシャーがぐっと増したのをナラシンハは感じ取り、僅かに驚きを見せる。
「あんたの事は剣士の一人として尊敬するよ。けど、ここで簡単にやられてやる気はないぜ」
「……それは連合軍のトップとしては喜ばしくないことだが、お前のその闘気を見て、お前との戦いが楽しみになっている自分もいる。せめて退屈はさせてくれるなよ」
ナラシンハが剣の切っ先を向けて構える。一触即発の雰囲気。緊張の糸が徐々に、徐々に張り詰めていく。どちらが先に動くか。互いに隙を見せず、相手の隙を探す。そして、その糸を断ち切ったのは
「精霊魔術『カゼキリ』!」
一陣の風と共に現れた刃が、ナラシンハの喉元まで迫る。まさに目にも留まらぬ速さ、不意を突いた一撃。
しかし、ナラシンハの剣の反応速度は異常ですらあった。自分のすぐ目の前にまで食らいかかっていた攻撃を、剣を振るった風圧で弾き返したのだ。攻め手は宙返りして地面にトンと着地する。
「何アレ……。剣の速さは先生の方が上かもしれないけど、パワーが段違いじゃない……」
「アレが『剣帝ハドリアヌス』。敵軍の大将だよ。ていうか、ペトラも加勢してくれんのか?」
「不意打ちでサックリ殺る気だったんだけど、これ相手ってあんた一人じゃ無理でしょ?手伝うわよ」
「水を差された気もするが、有り難く手を借りるぜ」
ペトラは姿勢を低く短剣を構えた。ブケファロスは両手でリットゥを力一杯握りしめる。その二人を一瞥して、ナラシンハは剣を振り払い下段に構えた。
「エルフの少女、Cランク冒険者のペトラ。想定以上の実力だな。『剣帝ネルウァ』殿と手合わせした時を思い出す剣技だ。こうなると私もうかうかしていられんな」
ナラシンハが深く息を吐き、彼の発する殺気が増す。ここからが本番。いよいよ死合が始まるのだと、若き冒険者二人の胸が高く脈打つ。世界最高峰の剣士、『剣帝』。剣士としてこの戦いに気を張るなという方が無理であろう。
しかし一方で、同じく『剣帝』を相手にしているにもかかわらず、いたって冷静に切り結ぶ男の姿もあった。
「はあぁっ!」
左胸を狙った突き。肘が下がっている。そこから上へ突き上げる気か。
セイフは攻めに入る相手の手振りから二手先までを予測する。そしてそれに対応するために姿勢を下げた。キーラの突きはセイフの顔へ向かって放たれることになるが、セイフのは相手の剣を下からすくい上げるようにして上へ流す。するりと軌道が変わり、キーラは空を突き刺した。そして胴ががら空きになる。
「貰った!」
「くっ!」
セイフの剣が彼女の右脇腹を捉える、かに見えたが、キーラは踊るような左方向へのステップでセイフの右側面へ回った。今のを避けられるとは思っておらず驚くセイフへ向けて、キーラの突きが襲い来る。セイフは剣を器用に動かしてキーラの攻撃を受け流していくが、彼女は攻撃の間も右へ左へとステップを踏みながら相手を翻弄していった。一転優勢へ持ち込んだとキーラは確信する。ここで決めてやると、剣を後ろへ大きく引いた。しかしその時、セイフが一歩踏み込んだ。剣を腰に構えた抜刀の構え。キーラは後ろに飛びのいて剣を突き出すことで何とかセイフの斬撃を防ぐことができた。細身の剣を軽く振るって構え直す。
「まさか、あの一分の隙を突かれるとは。防戦一方と見せかけて、好機を窺っていたのか」
「防戦に出るしかなかったことに間違いは無いがな。しかし、突きの速さと脚捌きはまさに一級品だな。『剣帝』を語るだけはある」
互いを褒め合いながらも視線は外さない。いつでも切り裂いてやれると得物の切っ先を相手の額へ向けていた。
キーラの持ち味はセイフの分析通り、冴え渡る突きと脚捌きだ。素早い踏み込みは剣にそれだけの重さを生み、左右へのステップは相手を翻弄し相手の隙へ適確に一撃をたたき込める。
一方のセイフの戦術は“待ち”が主だ。柔のある剣技で相手の攻撃を逸らし、受け流し続ける。そして相手が疲弊する、あるいは更なる攻めに転じようとする時に生じる隙にカウンターをお見舞いする。攻めに重点を置いているキーラにとって、戦い難い相手に違いなかった。
「お前を相手に手数で勝負を挑むのは分が悪そうだ。渾身の一突きで相手をしてやろう」
「ただ威力があるだけの剣では、俺には通用せんぞ」
二人の剣士が睨み合う。周りで戦う連合軍の兵たちも、その二人の間に割って入ろうとは思わなかった。しかし攻め込むにしても、謎の壁、分厚い障壁に守られている敵兵相手に攻めあぐね居ていた。戦況は完全に硬直してしまった。
しかしその時、その空気をまるごと打ち壊すような声がその場に響く。
「待たせたな!援軍の登場だ!お前ら、泣いて喜ぶんだな!」
相も変わらぬ軽口。アウザー渓谷の切り立った崖の頂上に立ち戦場を見下ろすのは、ハンター商会会長、『鉄血』のランドルフに他ならなかった。彼の後ろには冒険者と思われる大勢の人間が控えている。援軍の到着に連合軍兵は歓喜し、ランドルフはニヤリと笑って手を振ると断崖から戦場へと飛び降りた。
そしてその場と真逆に位置する、連合軍兵の本陣。ナラシンハを初めとする大勢の兵が出払ってしまい、その場には最低限の兵しか残っていない。のだが、そこで静かに待機していた通信班の兵の元へ一つの通信が届く。すぐさまそれに応答する。
「こちらアウザー渓谷本陣」
『私だ。直に到着する。その前に『魔王』への道を切り開いて置けと、ナラシンハに伝えろ』
一方的に用件を伝え、通信は途切れる。その言葉を受け取った兵士は顔を歓喜で赤く染めつつ早く仕事しなければという焦りで蒼くさせると、戦場へと慌てて飛び込んでいった。
ついに、新たなる『英雄』ルーグが姿を現す。『魔王』を討ち、真なる『英雄』となるために。戦は更に荒れる。




