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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第二部
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82 『魔王』一派に関する調査報告

「ふむ……。中々順調だな。さすがワタシの部下達だ」


 部下が持ってきた報告書を手にしながら、アルマスラ帝国軍第二師団長ルクソーは満足そうに微笑み、右目のモノクルを指で弄ぶ。機嫌が良いときの彼の癖だった。弄んだ結果指紋がついて拭かなければならなくなるところまでがワンセットである。

 彼の指揮する第二師団は、兵としての相応の実力は持ち合わせているものの、どちらかというと頭脳労働を得意とする者が多い。なので、第二師団は此度の連合軍にも戦力ではなく情報収集を行うための人員として参加しており、ルクソーの指示の元、『アルケーソーン』のメンバーの身辺調査を徹底して行っていた。成果の程は、彼が上機嫌であることから見ても分かるとおり、上々である。


「どれくらい集まったんだ?」

「アルケーソーンに所属している冒険者は全部で十一人。その内八人の素性までは探ることができた」

「ほう、それは中々。さすがは第二師団だ」


 成果報告を聞いて、タイタスは感心した様子で頷く。内心気が気ではないのだが、その思いを微塵も表に出さない。タイタス、中々の演技派であった。


「で、具体的には?」

「Cランク冒険者ペトラ、Bランク冒険者メリッサ、Aランク冒険者『輝剣』のセイフ、『覇撃』のブケファロス、『魔劇』のヴェロニカ。このあたりの者に特筆するところはない。出生、育ち共に平凡だ。故郷に家族がいる者もいるが、『魔王』が身を隠す場所にはなりえないな」

「他のヤツは?」

「急かすな。順番に話す」


 ルクソーは報告書を並べ直し、残りの一人一人に対しての説明を加えていく。

 まずはBランク冒険者、ヤスケ。彼は高名な鍛冶師ギンジロウの一人息子として名が知られている。また、ギンジロウはアルカディー二世の戴冠式に伴って開かれた品評会の場において、『魔導姫』に対して好意的に接しているところを大勢の者が見ていた。ギンジロウの元が潜伏場所として可能性が高いと思われたが、当のギンジロウは『魔王』の存在が明らかになると、ぐるりと掌を返したそうだ。日頃から『魔王』と息子に対する不平不満を周囲に漏らしているとのこと。『魔王』を庇っていることへの偽装工作かとも思われたが、調べを入れたところ本当に彼の元に『魔王』の痕跡はなかった。

 次にBランク冒険者アステリオス。彼の素性を調べるのは難航したが、ようやく得られた証言から、彼が亜人、それもアリア教徒を中心に強い迫害を受けている種族、“シャッル”であると判明したのだ。『魔王』に組みする理由としては十分すぎる。しかし、シャッルの集落などは現在存在していない。『魔王』の潜伏場所としての当てにはなりそうもなかった。

 そしてAランク冒険者、『黒蛇』のクリームヒルデ。彼女は幼い頃は商人の娘であったが、家を夜盗に襲われて両親を失い、それから盗賊どもの元で地獄のような生活を強いられてきたようだ。それを商会長ランドルフが救い、冒険者となって現在に至る。この情報はランドルフから直接得たものと、第二師団の調査で発覚したものを総合して得られた情報であるが、信憑性は高いとルクソーは見ていた。その盗賊の元が隠れ家となり得ないかとも思ったが、当然ながらランドルフによって全滅しているらしく、当てにはなりえなかった。


「となると、残りの三人か。団長の『魔導姫』のアレシャと……誰だ?」

「Cランク冒険者ライラ、Bランク冒険者ヘルマンだ」


 本当は知っているのだが、タイタスが知らない振りをしてみせるとルクソーが答えてくれた。ルクソーは未だその三人の身辺調査を完全に終えることができていない。だが、それには理由があるのだと彼は言う。


「ある程度の情報は掴めるのだが、それ以上のことになると途端に分からなくなる。まるで何者かが意図的に隠蔽しているかのように」

「隠蔽、か……。面白い話だな」


 内心やべえと思いつつ、タイタスが持たれていた椅子から身を起こし、タイタスが興味を持ったのだと思ったルクソーは詳細な話を始める。


「『魔導姫』に関しては、冒険者になる以前のことが分からない。各地で目撃情報はあったが、どこかに身を置いていたというわけでもないようだ。出生も判明していない。ヘルマンはムセイオンに籍を置いていた時のことは分かるのだが、『魔導姫』と同じくそれ以前のことが分からない。ライラは冒険者認定試験を担当した試験官の話以外に情報がなかった。どこかの領家のメイドのような格好をしているらしいが、こいつは冒険者の仕事をしている形跡も全くなくてな。情報量が極めて少ない」

「はあ、そりゃあ困ったな……」


 タイタスとルクソーは揃って息を吐く。タイタスのものはストレスによるものではなく安堵の息であったが。

 アレシャに関してはランドルフ、あるいは姿を隠しているフェオドラあたりが手を回しているのだろうとタイタスは当たりをつける。ヘルマンとライラに関しては、アレシャらの居場所を知らないタイタスには予想のしようもなかったが。

 実際のところは、ヘルマンとライラの情報を隠しているのはアルノーの仕業である。ヘルマンやライラの過去が判明すれば、アレシャたちの居場所はあっという間に察知されてしまうが故、当然の措置である。


「しかし、そういうことなら俺たちはどうすればいいんだ?打つ手なしか?」


 喜色を悟られないような声音でタイタスが問いかけるが、ルクソーは首を横に振る。


「寧ろ、これだけ露骨に隠されれば分かりやすくていい。この三人に絞って更に深く探りを入れる。多少隠蔽したところで、人の口に戸は立てられない。必ず情報の糸口は手に入る」

「根拠は?」

「ワタシの経験則だ。だが、これは間違いなく当たる」


 ルクソーは自信満々にそう言ってのけた。この男は根拠のない見栄でこのようなことを口にする人間ではないとタイタスはこれまでの付き合いで知っている。経験則が根拠だとルクソーは言ったが、恐らく既に僅かな手がかりは掴みつつあるのだろうとタイタスは思う。

 そしてその考えが正しいと証明するかのように、ノックの音が。ルクソーが入室を許可すると、部屋の扉が開かれて一人の男が入って来た。タイタスはその男に見覚えがあった。確か第二師団の団員だったと思い出す。彼はタイタスに軽く会釈すると、ルクソーの座る机まで歩いて行って手にした書類を手渡した。軽く目を通したルクソーが「ご苦労」と返すと、その男は一礼して部屋を出て行く。


「えらくしつけられてるな。うちの団員とは大違いだ」

「第三師団の荒くれ供に礼節など邪魔なだけだろう。それより、これを見てみろ」


 ルクソーがタイタスに手渡したのは、先ほど話題に挙がったライラの調査報告だった。タイタスはそれを読んで目を丸くする。


「ライラの冒険者認定試験を間近で見ていた受験者の証言だ。ライラは試験中常に単独行動をしていたらしいが、その受験者は彼女にパーティを組まないかと声をかけた。彼女はそれを断り、何かに気づいた様子でその場から走り去っていったそうだ。しかし、その時の彼女の目が異常であったと、その受験者は語った」

「右目が真っ黒に染まり、左目が水晶のようになっていた、か。それぞれ『ワクト』と『ナザル』の特徴だな。……ということは何か?こいつは二種の亜人の血が流れてるってことか?」

「そういうことだな。そして、情報収集中にこんな面白い話も入って来ていてな」


 胡散臭そうな表情のタイタスに別の書類が手渡され、彼はそれにも目を通す。


「ラインデルク帝国の郊外領地に住んでいた亜人親子の話?」

「アステリオスの調査で亜人の集落が無いかを探していたときに入って来た情報だ」

「両親ともに別種の亜人。そして娘は双方の血と能力を継いでいた。それが原因で幼少期からいじめに遭っていた。しかし、現在でその領地を治める領家に仕えている。……ん?」

「さっきワタシが言ったことを覚えているか?ライラは二種の亜人の血が流れていると思われる。そして彼女はメイドのような格好をしているらしい。こんな分かりやすい符号もないだろう」


 ルクソーがニヤリと笑みを浮かべる。タイタスもそれに同意して大きく頷いた。それと同時にルクソーは立ち上がる。


「ワタシはこれを部下に伝えてくる。お前は商会長殿にこのことを伝えてきてくれないか。商会の情報網の協力も少なからず借りているからな」

「……ああ、分かった」

「どうした?」

「いや、お前の言った通りになって少し驚いている」


 ルクソーは「だから言っただろう?」と少し得意げに言葉を残すと、軽い足取りで部屋を出て行った。

 誰の足音も気配も感じなくなってから、タイタスは息を吐く。今度はストレス性のため息である。


「コーディ、いるか?」

「はい」


 タイタスに呼ばれてコーディがすぐさま部屋の中へ入ってくる。ずっと外で待機していたらしい。彼を呼びつけてからタイタスは腰を上げる。


「とりあえず言われた通りランドルフのとこへ行くが、お前も話は聞いてたか?」

「一通りは」

「どう思う?」

「そうですね……。俺から言えるとすれば……」


 顎に手をあてて少し溜めるコーディ。タイタスも椅子の手すりに手をついて、つい身を乗り出してしまう。そして、コーディは答える。


「師団長は何もしなくていいんじゃないでしょうか」


 タイタスが椅子からずり落ちた。期待していたのと違う返答にずっこけかけてしまう。模範的なリアクションに苦笑しつつ、コーディは言葉の意味を説明する。


「師団長が何もしなくても、多分事は進みます。寧ろ、余計なことをしない方がいいくらいじゃないかと。こんな簡単に尻尾をつかませるわけがないんでしょうし、多分上手く別の場所に上手く隠れてるんですよ」

「だが、もしかしてということも。俺に何かできることは……」

「その時はランドルフさんから何か話があるはずでしょう。師団長は先日の打ち合わせ通りに動けば問題ないですって」


 コーディが諭すようにタイタスに話す。タイタスは俯いて少し頭の中を整理すると、細く長く息を吐き出した。そしてコーディへ向き直る。


「……そうだな。ランドルフも、連合軍程度なら何てことはないと言っていたしな。今更それを疑う理由もないか。どうやら俺も冷静じゃないらしい。助かった」

「いえいえ」


 コーディに手を引っ張って貰い、タイタスは立ち上がる。

 すると丁度その時、タイタスはこっちへ向かってくる何者かの気配を察知した。敵意はないようだ。おそらく身内の何者かだろうと思っていると実にその通りで、扉がバン!と開け放たれて一人の男が入ってくる。つい先ほども見た、ルクソーの部下の男だった。折角礼儀のなっているヤツだと感心していたというのに、ノックの一つもなしだった。しかし血相を変えて慌てふためく彼の姿を見て、そんな思いも消える。


「どうした。ルクソーならさっき出て行ったぞ」

「そ、そうでしたか。では行き違いに……」

「まあ、落ち着け。何があったんだ?ついでだし、俺にも教えてくれよ」

「は、はい。実は……」


 胸に手を当てて少し溜めるルクソーの部下。タイタスもコーディもつい前のめりになってしまう。そして、彼は答える。


「先ほど、ラインデルク帝国北方に調査へ向かっていた者から連絡があり、ま、『魔王』が我々に対して宣戦布告をして来たと!」


 タイタスは今度こそずっこけた。「ついに見つかってしまったかも、どうしよう!」と心配していた自分に対してずっこけた。

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