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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第二部
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81 三国連合軍とハンター商会

 人が行き交うヴォルムスの街。商会本部前で起きていた反『魔王』の集まりも下火になりつつあった。どれだけ声を上げてもランドルフからの返事が無いため、彼らも甲斐なくなったのだ。褒められた対応ではないが、ランドルフとしては、厄介ごとはこれ以上抱えたくなかったのだ。これから更に大きな厄介ごとがやってくるのだから。


「道を空けろ!悪いが、急いでくれ!」


 がちゃがちゃと鎧を鳴らしながら慌ただしく駆けてきた兵士が、通りを行く人々に呼びかける。人並みが割れ、そこにゆっくりと歩んできたのは獅子の紋章を掲げた一団。ナラシンハ率いる『魔王』討伐三国連合軍だ。『魔王』の件について商会への不満が溜まっていた市民は、彼らを歓声で迎える。


「待ってたぜ!早く『魔王』を倒してくれー!」

「先頭にいるのがもしかしてナラシンハ団長?勇ましくて、素敵だわ」

「こりゃ、どいつもこいつも精鋭じゃないか?これに『英雄』もいるってんだから、『魔王』も終わったな」


 連合軍の兵士たちは歓迎ムードにニヤつき手でも振りたくなるが、団長のナラシンハが真っ直ぐに前を見て動じずにいるというのに浮ついたことができるわけもなく、彼らは結果として真剣な顔で仕事に当たるエリート集団らしい光景が出来上がった。人々はその凜々しい姿を見て更に歓声を上げる。


「歓声がこんなに気に食わないのは初めての経験だ。もう帰りたくなってきた」

「師団長、周りに聞こえますよ」


 険しい顔で滅多なことを口にするのは、アルマスラ帝国第三師団長、『剛健』のタイタスだ。遠目でも目立つ大柄な体躯と、野性味溢れる短髪髭面が彼のトレードマークである。そんな師団長殿を諌めるのは、彼が尤も信頼を置いている片腕と呼べる男、第三師団の副団長である。名前はコーディだ。彼の下がり気味の眉は、好き勝手に動くタイタスに苦労させられた結果である。

 第三師団はアルマスラ帝国軍の中でも戦闘能力が秀でた者達が多く集まっている。頭を使ったりするのには向いていないが、前線で戦わせれば素晴らしい成果を発揮する連中だ。そのトップにいるのが、このタイタス。実力は帝国軍の中でもトップクラスであり、此度の連合軍にも当然のように抜擢された。

 しかし、彼はその命令を不服に思っている。なぜなら、今回の討伐対象である『魔王』が彼の身内だからだ。それどころか彼は現在、『魔王』に協力する身ですらある。突然ランドルフから要請が来て、連合軍の内部情報を横流しするように頼まれたのだ。彼としてはアレシャに協力するのに異論は一切ないので快諾したのだが、いざ連合軍に所属してみると、その内情に辟易としてしまった。それは当然であることなのだが、連合軍の誰もがアレシャやギルドのメンバーに対しての罵詈雑言を吐き出していたのだ。自分の身内への暴言を四六時中聞かされ続ければ、誰だって精神的に参ってしまうだろう。

 故に、彼はもう帰りたくなっていた。スパイとしての役割を遂行しなければとは思っていたが、その先にあるのは身内との殺し合いである。勿論彼にそんな気は無いが、師団長としての体裁を保ちつつ相手を殺さない立ち回りや演技が必要だ。それがだんだんと面倒くさくなってきていた。


「でも、その皆さんも師団長の情報を頼りにしているんですから、もう一頑張りですよ」

「ああ、分かっている。やるさ、やるとも」


 コーディに励まされ、タイタスはこくこくと頷く。コーディも、タイタスが『魔王』と繋がっていることを知っている。なので何とかその仕事に対するモチベーションを保ってもらおうと彼はタイタスの背中を支えていた。何だかんだと言いつつも、その時になれば責任は果たしてくれる人なのだとコーディは分かっているのだが、それでもタイタスが仕事をやりやすいようにするのが自分の仕事だとばかりに、彼は甲斐甲斐しく世話をしていた。それは多分副師団長の仕事ではないのだが、彼が満足しているのだから誰も何も言わない。


「……で、ヴォルムスについて以降の予定はどうだったか」

「ラインデルクの皇帝に謁見に行くようですが、それはナラシンハ殿がやってくれるみたいです。我々は『魔王』の居場所に関する情報収集をしつつ、しばし待機と。あと、商会に協力を取り付けるという話ですけど……」

「確かナラシンハ団長がランドルフに会いに行くと言っていたな。俺も付いていけるならそうしたいところだ。アルマスラ帝国軍(ウチ)の連中はルクソーに任せるか」

「ルクソー第二師団長ですか。あの人ならば問題ないでしょう。後で小言くらい言われそうですけど」

「構わない。俺にとってはランドルフと話す方が先決だ。周りに悟られないよう、場を整えんとな……」


 周囲の人間に聞こえないよう気を配りながら二人は話し合う。そうしていると次第に目的地が見えてきた。ヴォルムス中心街から少し外れた場所にある巨大な屋敷だ。ラインデルク帝国が来賓に貸すために用意しているものである。連合軍はここをラインデルク帝国での拠点とするようだ。

 連合軍は現在二つに分かれている。今ヴォルムスにいるのが、ナラシンハ率いる実働隊。主要な戦力はこちらに組み込まれている。そしてもう半分は現在デカン帝国の王都で待機し、ルーグの指揮下にある。連合軍全体とも鳴ると相当な人数になり、その全てが一緒に動くとフットワークが重くなってしまう。なので実働隊が『魔王』の居場所をつきとめ、デカン帝国から追加戦力を順次送り込んでいくという方針となっていた。

 なので連合軍とは言ってもヴォルムスに居る彼らはせいぜい大隊程度の人数だ。タイタスも師団長などと呼ばれているが、師団ほどの人数はいないので現状は一隊員でしかなかったりする。それでも、その人数だからこそ、この屋敷を拠点とすることができるわけだ。大隊以上の規模になると、さすがに国が抱える屋敷と言えど収まりきらないので。


 そして彼らは屋敷に到着した。生真面目そうな男が指示を出し、次々と荷物が下ろされて運び込まれていく。彼がアルマスラ帝国第二師団長のルクソーであった。自分の馬を留めたタイタスが彼の元へやってくる。


「ルクソー、さすが仕事が早いな。頭脳派第二師団を率いるだけはある」

「タイタス。ワタシはお前を評価しているが、適当な世辞で機嫌を取ろうとするとことは好きじゃない」

「手厳しいな。俺はお前のそういうところは嫌いじゃない。じゃあさっさと本題を言うが、ウチの兵士の管理はお前に任せていいか。少し用事がある」

「用事?」

「ナラシンハさんが商会へ行くって話だからな。俺もついていこうと思ってよ。俺が居た方が話し合いも円滑に進むだろうしな」

「そういや、お前と商会長は冒険者時代の旧友だったか。だが、もう長いこと会っていないんじゃなかったか」

「そうだな。まあ、あいつが懐かしさから俺たちに積極的に協力してくれたりするかもしれないし、俺が行く意味はあるかもしれないだろう?」


 周囲では、タイタスはランドルフとはあまり会っていないということになっている。それを踏まえた上でタイタスはさらりと嘘を吐く。意外にもしたたかな男である。だからこそ、ランドルフもスパイとしての役割を彼に任せたのだろう。ルクソーも彼の言葉を疑っておらず、そういうことならとタイタスの頼みを快諾した。


 そして次の日の朝。タイタスはコーディを連れてナラシンハの後ろについて歩いていた。向かうのはハンター商会本部である。昨夜、ナラシンハがラインデルク皇帝との謁見を終えた後、タイタスはルクソーに話したのと同じ理由を述べて同行の許可を求めた。ナラシンハも彼の存在が何か有利に働く可能性があるかもしれないと思い、渋ることもなく同行を許可した。

 そんな三人が道行く人から好奇心の眼差しを向けられつつ通りを行くと、それはすぐに姿を現した。


「アレが商会本部の建物か。立派なものだ」

「俺が来るのも久しぶりだ。ああ、敬語使った方がいいですか?」

「気にしなくていい。我々は、今は同じ目的の下に動いているが、元々は別の国に仕える者だ。上下関係などありはしない」


 同じ目的の下で動いていないんだよなあ、とタイタスは思いつつ、ナラシンハの言葉に甘えることにして、いつもの調子で話す。


「ランドルフは、まあ結構適当な性格をしたヤツだ。あまり気負う必要も無い。『勇勝』のアレクセイの相棒だっただけあって、いっぱしの正義感もある。多分協力してくれるだろう」

「そのランドルフ殿が『魔王』と通じているという話もあるが」

「それがホントかどうかは俺にも分からん。ただ、俺の知っている『鉄血』のランドルフは、そういうことはしない男だった。とにかく、実際に会って話してみれば分かる」


 そう言って話を切ると、タイタスは商会本部の大きな扉を開け放つ。広々としたロビーに足を踏み入れると、そこは依頼を持ち込みに来た住民と、その依頼を受けに来た冒険者たちで意外も賑わいを見せていた。


「最近魔物の動きが活発になってきているらしい。『魔王』の復活のせいだと巷では言われているな」

「そうか。それはまた、難儀なことだな」


 ナラシンハの説明にタイタスは相槌を打つが、頭の中では馬鹿らしいと呆れていた。タイタスには魔物が活発になっている素振りなど全く感じられない。確かに『魔王』は復活しているのだが、魔物の動きがそれに影響されることも有り得ない。『魔王』がいるという不安、『魔王』によって魔物が活発化するという先入観、人々はそれに縛られているようだ。タイタスはそのように分析しつつ、丁度空いたばかりの受付へと向かう。受付嬢は三人の姿を見て、すぐに何者か理解したようだ。大慌てで上の階へと駆けていった。

 少ししてからその受付嬢が戻ってくると、三人は大会談から上の階へ上って最上階の一つの部屋へ通される。そこはランドルフの執務室であった。ナラシンハは進み出て礼儀正しく頭を下げる。


「デカン帝国皇帝近衛師団長にして『魔王』討伐三国連合軍の指揮官を務めるナラシンハだ。ハンター商会長、『鉄血』のランドルフ殿だろうか」

「ああ、そうだ。良く来てくれた。掛けてくれ」


 ランドルフは立ち上がりそう答えたところで、彼は後ろに控えていたタイタスに視線が行った。そして目を丸くさせる。


「お前、もしかしてタイタスか?」

「もしかしなくてもタイタスだよ。久しぶりだな、ランドルフ」

「ああ。お前、今はアルマスラ帝国軍にいるんだったよな。連合軍に参加してるのか?」

「そんなところだ。で、今はウチの指揮官殿の付き添いというわけだ。久々にお前に会ってみるのもいいかと思ってな」

「そうだったか。まあ、座ってくれ」


 こんな会話を白々しくしているが、打ち合わせ通りの台本通りである。できる限りタイタスとランドルフの関係を臭わせないための工作だ。

 三人は向かい合ってソファに座る。コーディはナラシンハやタイタスと同列に座るわけにはいかないと一人立ったままだ。


「それでは単刀直入に用件を伝えさせて貰うが、ハンター商会には我々と協力して『魔王』の討伐にあたってもらいたいと思っている。協力の対価も支払える。国から商会への正式な依頼だと思ってもらって構わない。断られるというなら、何か理由を教えて頂きたい。如何だろうか」


 ナラシンハが断られる可能性を提示しているのは、『魔王』と商会が繋がっているという噂が巷で広まっているからだ。その真偽の程も確かめておきたかった。どう出るかとナラシンハが構えていると、ランドルフは口を開く。


「そういうことなら、喜んで受けさせて頂く。俺が『魔王』と繋がっているという報道がされてから商会も参っているんだ。その汚名を濯ぐ良い機会だ。ぜひ、協力させてくれ」

「では、あの新聞記事は偽りであると?」


 ランドルフが自分から噂について触れたので、ナラシンハも素直に問い返す。すると、ランドルフは当然だとばかりに大きく頷いた。


「『魔王』を助けたのがウチの秘書だということになっているが、まあ、それは多分間違いないのかもしれない。だが、それは俺の指示じゃない。丁度報道がなされる頃くらいからフェオドラの姿を見ていないんだ。あいつは『魔王』と繋がっていたのかも知れないが、あいつが勝手にやったこと。商会とは無関係だ」


 ランドルフが真面目な顔で告げる。商会を悪にすることなく、この騒ぎを治めるためにランドルフが取った手は、フェオドラを切り捨てることだった。『魔王』に協力する姿が目撃されているのは彼女だけである。なので、彼女の独断だといって商会と切り離してしまえば商会が責められるいわれはなくなる。この手はフェオドラの同意を得て、というよりもフェオドラが考えたものだ。当の本人は既に商会本部地下の隠し転移魔法陣から脱出済み。今は身を隠しながらアレシャたちとの合流を計っていることだろう。

 こんな真っ赤な嘘をつく間も、ランドルフは一切の動揺を見せない。毅然とした態度で話す。誰の目にもその姿が嘘つきのものには見えない。ナラシンハもまた、彼の話を信じた。信じないにしても、追求する手立てもない。ここは一旦信用して、話を進めることが重要であると彼も判断したようだ。

 なので、三人の話の内容は具体的な協力についてだ。


「各地の支部を通じた商会の情報収集能力は、我々も高く評価している。世界の情報を一番持っているのはランドルフ会長、あなたかもしれないくらいだ。なので、その情報網を用いて『魔王』の潜伏場所を突きとめて欲しい。我々は今、『アルケーソーン』に所属している者たちの身辺から探っている。できればそこに助力いただきたいのだが」

「……分かった。後で支部に通達しておこう」

「有り難い。後は当然、戦力の支援だ」

「連合軍の戦力はたかが人間数人を相手にするには十分すぎるくらいだと思うが、まだ必要なのか?」

「相手は『魔王』だ。多いに越したことはない。それに、軍の大多数の人員はデカン帝国に待機している。『魔王』の居場所が判明してから呼び寄せたところで、到着にはしばし時間がかかってしまう。それまでの維持戦力として、商会の冒険者たちに協力して欲しいと思っている」


 ランドルフはそれを聞いて考える素振りを見せる。既に協力することは決まっているのだが、どこまで協力してよいものかと思っていた。アレシャたちにも反撃の手が用意されているのだが、あまりの戦力差の前にカウンターを決める間もなく踏みつぶされてしまっては困る。だが、ここで渋ることを正当化できる理由も見当たらない。なのでランドルフは素直に頷くしかできなかった。


 それからの取り決めは書面で行われる。契約内容を記した書類を用意し、互いに署名する通常の商会への依頼として受理された。


「確かに。それではランドルフ殿、これからよろしく頼む」

「ああ。商会の手を借りたいときは一度こちらに連絡してくれ。それから支部に手を回して人員を割く。『魔王』討伐は勿論大事だが、商会としての業務も疎かにできねえからな。魔物が活発になっている今は特にな」

「分かってるさ。それじゃあ、これからまた少しの間、仲間になるわけだな。久々によろしく頼むぜ」

「おう。あんまり俺の足を引っ張るんじゃねえぞ」

「そっちこそな」


 ランドルフが軽口を叩き、タイタスもそれに乗っかる。久々に再会した旧友同士でつい会話に花が咲き始めていた。コーディが咳払いをしてそれを止める。


「お二人とも、その話は後になさって下さい。今は仕事の場ですから」

「ん、ああ。そうだな」

「悪い。つい舌がのってな」


 ランドルフとタイタスが面目ないと頭をかき、コーディがやれやれとため息をつく。

 ここまで概ね台本通りである。そうなると、ナラシンハが取る行動は大体予測できる。


「別に話していても構わんぞ。契約も終えたし、私は先に軍の元へ戻らせて貰うが、お前はここに残るといい。折角久方ぶりの友との再会なのだ。それくらいの暇は許される」

「悪いな、ナラシンハ殿。それじゃあお言葉に甘えることにするか」


 タイタスが軽く頭を下げ、ナラシンハは気にするなと手で制してから部屋を出て行った。それからタイタスとランドルフはしばし会話に興じる。そして——


「……もういいか」

「だい、大丈夫だと思います。ランドルフさん」


 部屋の戸を開けて入って来たのは、押しても絶対に倒れないであろう大男。セインツ・シルヴィア商会支部の長、シバである。話す声が小さめなのは、忍んでいるからでは無く、単純に声を張るのが苦手なだけだ。

 彼が手に魔法陣を展開してそこから波動が放たれると、部屋全てが薄い膜で覆われた。シバ特製、遮音の結界である。


「助かる。お前は入り口の見張りを頼む。何か察知したらすぐに知らせてくれ」

「わ、わかりました」


 シバはそう言って部屋を出て扉の前で待機し始めた。一通りの流れを見ていたタイタスは感心した様子で唸る。


「いや、便利なもんだな。ウチの第三師団には、ああいう器用なことができるヤツがまるでいなくてな」

「残念ながら貸し出し不可だ。それよりさっさと本題に入ろう。時間を掛けすぎるのも良くない。連合軍の情報をくれ」


 ダレイオスが尋ねると、タイタスは自分の持っている除法を一通り話す。コーディも補足を加えたことで、連合軍の動きや内情についてはかなり正確で詳しい情報となった。ランドルフはメモも取らずに、その情報を頭へ叩き込む。


「大体は分かった。いくらか吟味してアレシャに渡すか……」

「アレシャちゃんは今無事で居るんだよな?場所は教えなくていいが、それだけ教えてくれ」

「勿論だ。あいつは俺たちにとって無くてはならないもんだ」

「……それは、娘のようなものという意味でか?それとも別の意味か?」

「お前は?」

「俺は勿論前者だ。当たり前だろう」

「よかった。後者だと言ったら、お前の顔面が半分無くなっていた」


 ランドルフは笑いながらそう言うが、目は笑っていなかった。多分無くなることはなくとも一発ぶち込まれていただろう。ランドルフはタイタスやダリラと比べてアレシャと過ごした時間が一際長く、その分思い入れも強い。こいつならアレシャの安全は全力で保証しにかかってくれると思い、タイタスはランドルフに任せることにした。


「で、ズバリ聞いておきたいんだが、お前はアレシャちゃんたちに勝ち目はあると思うか?俺はアレシャちゃんの立てている計画を聞いていないから、判断がつかない」

「俺の見立てでは、連合軍程度どうとでもなると思うぞ。問題はその裏の奴らだな」

「裏というと、ルーグとかそこらへんのやつらか。……確かルフィナちゃんが敵なんだってな」

「ああ。あんな小っこかったのにな。人生、ホントに何が起こるかわかんねえもんだ」


 ランドルフが天上を見上げて息を吐く。ルフィナは幼い頃、父や母とともに旅をしたことがある。それには当然、二人の仲間であったランドルフやタイタスも同行していた。ルフィナの事はそれこそ生まれた時から知っている。二人の間にやり切れない思いが渦巻く。


「で、話を戻すんだが、連合軍程度と言ったか?いくらアレシャちゃんの仲間が手練れ揃いだと言ってもそう簡単にいくのか?」

「ああ。それについて少し打ち合わせをしておきたい。お前の立ち位置についてだ。お前はどうせ本気で戦う気はないんだろ?」

「勿論だ。できれば戦いたくもない」

「だろ?だから俺が体裁を保ちつつ戦える場を用意してやる」



 ランドルフはそうしてタイタスに簡単に自分の考えを話す。それはアレシャの立てている策を知っていること前提の話であったためタイタスはいまいち納得できていなかったが、とにかく自分がどう動けばいいのかは納得できたようだ。タイタスはその理解を深めるためにも、ランドルフにアレシャの策について簡単に教えて貰えないかと尋ねてみるが、ランドルフはこう返した。


「ここで策を知ったら、お前はまた余計な演技をしなけりゃいけなくなるぞ?知らなかったら純粋に策にはまったリアクションがとれる。その方が楽だぞ?」

「楽か。そうか。ならそうしよう」

「師団長。即決は辞めて下さい。展開としては正しいのかもしれないですが、楽という言葉に釣られないでください」


 コーディがため息交じりにそう言うが、精神的に疲労しつつあるタイタスとしては、必要なこと以外は楽に流れていきたかった。コーディの言葉を「うるさい」と一蹴すると、タイタスは立ち上がる。


「話し合いはこんなもんかな。いつの間にか結構時間が経っちまった。まあ文句は言われないだろうが、あんまり長居しすぎるのも良くない」

「そうだな。念のためにもう戻ったほうがいいだろ」

「そうさせて貰う。とりあえず、俺はこれから『魔王』討伐連合軍の一員として、普通に行動すればいいんだな?」

「ああ。さっき言ったことだけ守ってくれれば、後は反『魔王』的スタンスでいてくれ。『魔王』の居場所もバッチリ探してもらって構わねえ」

「了解。それじゃあ、『魔王』様たちの策を楽しみにしてるぜ」


 タイタスは軽く手を振り、コーディを連れてランドルフの執務室を後にした。それと同時にシバの遮音結界がパチンと音を立てて消えた。シバがおずおずと部屋の中へ入ってくる。ランドルフが「ご苦労」とねぎらうと彼は少し照れくさそうに頭を下げてから部屋を出て行った。見た目と乖離したその仕草にランドルフはつい眉間に皺をよせてしまい、その皺を指で伸ばしながらソファに沈み込む。


「いよいよ、か。お前が引き継いできた意志が、ようやく果たされる。それが不本意な結末にならねえよう、俺がまあ、何とかしてやるよ。待ってろ、アレクセイ」

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