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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第二部
160/227

71 不可解な一致

 メリッサの検分結果をまとめた資料に書かれた一文。『アレシャちゃんがいっぱい。アレシャちゃん。ああアレシャちゃん、アレシャちゃん』。この資料はヴェロニカが一度纏めなおしたものだが、原文ママである。

 寝こけているメリッサを一旦置いて彼らは次に、そこに綴られている名の持ち主へ視線を向ける。


「何コレ……」


 アレシャも当然、混乱していた。心当たりなんてサッパリないらしい。彼らは何か他にないかと思い紙面を辿るが、大体アレシャへの熱いメッセージしか書いていなかった。アレシャとヘルマンが頭を抱える。アレシャは当然として、ヘルマンも昨夜の自分の頑張りが泡沫と消えたと感じて落ち込んでいた。あれだけ頑張って教え込んだ研究知識に関する言葉はその文章には全く存在していなかったのだ。一応、他の紙面には理論だったことが書かれてはいたのだが、それが些細なものにしか思えないほどに、この文面のインパクトは強い。


「と、とにかく話を聞きましょう。聞かないことには何も分からないわ。うん」


 気を持ち直したヴェロニカがメリッサの頭にチョップを落とす。叩き起こされたメリッサは小さく呻きながらむくりと起き上がった。


「どうしたんですか?」

「居眠りしていたことはこの際どうでもいい。これだ。これについて話を聞かせてくれ」


 ヘルマンがメリッサの眼前に例の書類を突きつけると、メリッサは寝ぼけ眼をこすりつつ、それをじっと見つめる。


「ああ、これですね。書いてあるまんまですよ。アレシャちゃんがいっぱいだったんです」

「……今夜も、勉強会だなぁ」

「い、いや、待って下さい!私はいたって真面目に言ってるんですって!」


 二徹は断固として回避したいメリッサがヘルマンに対して慌てて弁明する。ならばどうい意味なんだとヘルマンが問い詰めると、メリッサは半泣きで一から説明し始めた。


「最初は魔力の量、性質、属性、循環の道筋、ヘルマンさんに教えて貰ったように全部一から調べていったんですよ!その資料もちゃんとありますよね?」

「ああ。意外と上手く纏められてるな。後で役に立つだろう。見る限り、これはリリ自身の魔力の解析結果か?」

「そうですよ。リリさんの魔力は別物に変わったというより、全く別人の魔力がかき乱してる感じだったんですよ」


 ダレイオスがリリを怪しんだ理由は、彼女の魔力が大きく変容していたからだ。だがしっかりと調べてみると、別人の魔力が彼女の内に入り込んでいただけということらしい。


「『私も同じように感じたな。入り込んでいるのは、リリの魔力とは比較できない程に強力なものだ。リリの弱々しい魔力でアレに抵抗するのは難しい。向こうがその気になればいくらでも操れるんじゃないか?』ってダレイオスさんが言ってる」

「洗脳は心の隙につけ込むものだという話でしたけれど、術者との力量の差が多きければ、心の持ちようではどうにもならないということですわね。私たちはそうはならない程度の実力は有していると自負しておりますが」

「なるほどな。それじゃあ当然、その別人の魔力とやらの解析もしたんだろう?おかしいなぁ。見当たらないんだがなぁ」


 わざとらしく首をかしげるヘルマンに対してメリッサが資料を差し出した。それは、先ほど話題に上がった『アレシャちゃんへのメッセージ』の書かれた紙である。


「これが、そっちの魔力の分析結果です」

「……ん?」

「いや、そのもう一つの魔力を分析し始めた時、何か覚えがあるなーって思ってたんですよ。そしたら、これアレシャちゃんの魔力だっ!って気づいたんです!そのまま夢中で魔力を分析してたら、いつの間にかこんな感じに」


 メリッサの表情を見る限り、本気で言っているのだろうが、残念ながら何を言っているのか理解できなかった。たとえそのもう一つの魔力がアレシャのものと似ていたからといって、正常な神経ならばこんな内容を書き殴ったりしない。

 メリッサには後でカウンセリングを勧めるとして、そのもう一つの魔力がアレシャに似ているというのは興味深い話だった。


「アレシャちゃんに似ているってのは本当なのね?どれくらい似ているの?」

「さすがに全く同じというわけじゃないんですけど、似ている部分は全く一緒なんです。魔力の属性というか、見られる特徴は寸分違わずってくらいです」

「そんなにか。さすがに奇妙な符号だな」


 ヘルマンは興味深げに思考を巡らせ、クリームヒルデは次にアレシャ、というよりダレイオスに問いかける。


「あなたが分析を行った時は、そのように感じなかったのですか?」

「いや、私はアレシャのものと同じだとは気づかなかったな。その魔力は私の知っているイシュタルのものと同じだった。イシュタルの魔力を元から知っているからこそ、アレシャの魔力と比較するところまで考えがいかなかった」


 アレシャと交代したダレイオスがそう答える。彼の話でハッキリしたのは、やはり洗脳を行ったのがイシュタルであるということだ。魔力が彼の記憶のものと合致するなら間違いないだろう。そしてメリッサの話と組み合わせると——


「つまり、イシュタルの魔力にはアレシャと共通する点があるということですわね」

「それも偶然で片付けられないくらいのソックリ具合ですよ。絶対に何かあります!」

『私とソックリ……。えぇ……?』


 当の本人であるアレシャに心当たりは全くない。ダレイオスの内で、ひたすらに首をかしげるしかなかった。ダレイオスにもその理由の見当がつかないが、ひとまず自分の持つ情報を提供する。


「そこにも書いてるが……ああ、これだ。これにも書いてあるが、今回魔力を隅々まで調べてみて分かったことが一つある。イシュタルの魔力を私は確かに覚えている。だが、よくよく思い返してみると、知っているものと全く同じというわけではなかった。同一に感じる部分もあれば、私の記憶のどこにもない魔力も混在していた」

「……ふむ。古代魔術的な分析のせいで若干わかりにくいが、イシュタルの魔力はダレイオスの知っているものと知らないものという二つの性質に分けられるということか」


 ダレイオスの分析結果を手にとってヘルマンが呟く。更にそこにダレイオスは、イシュタルの魔力の内、ダレイオスの知らなかった部分がアレシャと共通している部分であるとの補足を入れた。

 最初はふざけてるとしか思えなかったメリッサの分析結果も、しっかりと話し合ってみれば中々重要な意味を持っていたように思える。それでもさすがにあの書き方はどうかとはヘルマンは思ったが。


「結局その理由だが、誰か何か思い浮かぶことはないか?何でもいい」

「そうですわね……。イシュタルはアレシャのお姉様の身体に宿っているのでしょう?それに何か理由があるのでは?ルフィナ様に宿る内にイシュタルの魔力に何らかの影響があり、姉妹故であるアレシャとの共通点が生まれてしまった。我ながら無理のある話であるとは思いますが」

「そもそも姉妹で魔力の性質が似るものなのかしら」

「ムセイオンで確かそのような研究が行われていたな。『魔力と血縁の関係及び魔力と遺伝についての考察』だったか。丁度アレシャがムセイオンに殴り込んできた頃に行われていた研究だったな。例の地下で行われていたはずだ」

『ええっと……。覚えてるような覚えてないような……』


 アレシャは思い出せない。それはもう覚えていないとの同じだろう。だが、残念ながらヘルマンもその詳しい研究内容や研究結果については覚えていない、というより知らなかった。クリームヒルデの提示した可能性の真偽は確かめようがなさそうだ。

 ただ、ムセイオンの戦術魔術研究塔の所長であるダリラならば、その研究が結果を残していれば知っているに違いない。後で聞いてみることにして、クリームヒルデ以外に何かないかとヘルマンは尋ねるが、生憎と他の意見は上がらなかったようだ。しかしそこにメリッサが挙手する。


「……な、なら、一度アレ、アレシャちゃんを隅々まで調べるべきじゃあないでしょうか。ほら、別に他意とかはないんですけど、確認のために、ねえ?」

『却下ァ!』


 アレシャの意義は棄却された。実際、一度確認しておくのは必要な行程である。これからこの情報を手がかりとして話を進めていくにあたって、情報の真偽をより確定したものにしておくべきなのである。というわけで——


「さあ、アレシャちゃん。こっちの部屋に来て下さい!」

「え、なんで部屋を移動するの?ここでやればいいじゃない」

「いや、ここでなんてそんな大胆な……」

「え、魔力の解析の話だよね?凄く不安だよ?」

「大丈夫、痛くしませんから!」


 困惑するアレシャだったが、そのままメリッサに引きずられて隣の部屋へと退場していった。残された三人は我関せずとばかりに、クリームヒルデが淹れ直してくれた紅茶をのんびりとすするのだった。


 そして意外に早く二人が部屋から帰ってきたのは一時間ほど経ってからだった。


『意外と何にもなかったな』

「うん。意外と何にもなかった」

「……それは何よりだ」


 何事もなく帰ってきたアレシャに、ヘルマンが静かに頷く。対してメリッサはなぜか頬を紅潮させて満足げな表情だった。何もなかったが、メリッサはそれで満ち足りたらしい。何よりである。


「で、結果はどうだった?」

「それはこっちにばっちり纏めてありますとも!」


 メリッサが自信満々に紙を一枚ペラリと渡す。ヘルマンがそれを受け取り、その内容に目を通していく。紙面はところどころ粘度のある液体で濡れていた。何もなかったらしいがヘルマンは念のため、その部分には手を触れないようにしていた。一通り読み終えたヘルマンは次にダレイオスの分析結果を手にとって、メリッサのものと照合していく。


「双方の分析結果が正確であるならば、メリッサの言う通りアレシャとイシュタルの魔力に一致する部分があるのは間違いないな」

「やっぱりか……。それで、何か分かったことはある?」

「残念だが、この調査結果だけでは何とも言えないな……」


 ヘルマンはため息とともに二人の分析結果を円テーブルの上にパサリと置いた。今度はアレシャがそれを手にとって自分で読んでみる。彼女の視界を通してダレイオスも読み進める。


『まあ、元々これだけで全てを判断するつもりは無かったからな。最初の準備としては十分だろう』

「そうなの?」

『ああ。今日は一旦終わりにしてもいいかもしれない』


 アレシャは少し首をかしげつつもダレイオスの言葉を全員に伝える。メリッサは終わりでいいのかと思ったが、ヘルマンはそれに同意した。


「次に繋ぐ分には十分だと俺も思う。ダレイオスが態々ダリラさんを呼んだのだから、寧ろ本番はこれからだ」

「ああ、そうだよね。これだけ調べれば後は実際に自分の目で見れば分かるもんね」


 ヘルマンの言葉でアレシャは納得したようだ。しかし今度はヴェロニカとクリームヒルデが首をかしげることになる。仕方ない。彼女らはあの世界を体験したことがないのだから。

 ダレイオスの言った通り今日のところはお開きになるが、ヘルマンとアレシャ、ダレイオスは明日以降の本格的な解析のための相談を進めるのだった。

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