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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
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13 少女はパーティを組んだ

 アレシャとペトラは眼鏡の男に連れられ、アレクサンドリアの大通りから少し外れたところにあるレストランへと来ていた。男の希望で三人は個室へ案内された。何か大事な話があるのだとアレシャは察する。しかし、アレシャは男が誰なのか全く思い出せなかった。どうやらダレイオスの方は心当たりがあるようだが、思い出すまでには至っていなかった。思い出していないが、運ばれてくる料理をダレイオスは美味しくいただいた。食に貪欲な男だった。アレシャはそれを羨むように見つめる。二人は味覚を共有していないのだった。一緒についてきたペトラも状況が理解できていないにも関わらず、ついでにご馳走になる。

 少女とエセ少女が一通り食事を楽しんだところで眼鏡の男が切り出した。


「さて、どうやらお前は俺のことを覚えていないようだ。まあ、会話すら交わしていないのだから当然かもしれないがな。では、自己紹介させて貰おう。俺の名はヘルマン。ムセイオンの戦術魔術塔防御魔術第三研究室副室長をしている」


 やたら長い肩書きはダレイオスたちはの耳を素通りしていったがムセイオンという単語だけは引っかかったようで、ダレイオスはポンと手を叩く。


「ああ、ムセイオンの地下にいた男か。地下の崩壊に巻き込まれたのだと思っていたが、無事でよかった」

「無事ではなかったが……怪我はもう治ったから問題ない。俺がしたいのはその話ではなく、お前のことについてだ」


 ヘルマンの言葉にダレイオスは少し焦りをみせる。

 自分が『魔王』であることはできる限り伏せておきたいが、ヘルマンの質問内容によってはそれに気づかれてしまうのではないかと思ったのだ。もしかすると、すでに気づかれてしまっているのではないかとも考える。

 そこに念押しするようにアレシャもダレイオスへ注意を呼びかける。


『気をつけてよ、ダレイオスさん!わたし、ムセイオンに不法侵入してガントレット持ち去ってるんだから、バレたら多分捕まっちゃうかもしれないから!』

「文句なしに犯罪者じゃないか……。で、私のことというのは具体的に?」

「具体的もなにも、お前はムセイオンの関係者じゃないだろう?なぜ、あの夜地下にいたんだ?それと、あのとき君が身につけていたガントレット。俺は知らなかったが、あれはペルセポリス遺跡に関する研究室に置かれていたものらしいじゃないか。それが事件の夜のときに消えてしまったわけだが、今はお前が持ってるんだろう?」


 ごまかしたりする隙もない。ズバリ確信だった。ダレイオスの目が大海を泳ぐ。それを聞いたペトラはダレイオスの顔をのぞき込むが、その反応で今聞いたことが真実なのだと察した。ペトラの目が信じられないようなものを見るもの変わる。


「ア、アレシャ、あなた、ななななにしてんのよ!初めて聞いたわよそんなの!」

「違う、誤解だ。私は何も知らない。」

「知らなく無いわよ!目撃されてる時点で黒じゃない!ああ、折角冒険者になったのに……。罪を犯したら商会から除名されるのよ!」


 ペトラはダレイオスの肩を掴んでガンガン揺らす。アレシャは『終わった』と呟き、心の内で白目をむいていた。しかし、ダレイオスにはこんなところで終わる気など毛頭ない。ダレイオスはペトラには申し訳なく思いながらも逃げる算段を立て始めていた。

 しかし、そこでかけられたヘルマンの言葉は意外なものだった。


「修羅場のところ悪いが、今日の俺はムセイオンの使いではない。個人的な用事でここにきた。正直に答えたからといって捕らえたりはしない。で、どうなんだ?」

「捕らえないって、それはそれで問題だけど……」


 そこはペトラの言う通りであるが、アレシャとダレイオスにとって、捕まえる気は無いというのはこの上ない朗報だった。あとはこの男の言葉を信じてもいいのかどうかだ。だが、相手はアレシャがガントレットを盗んだ侵入者であるとほぼ確信を持って話している。ここで上手くごまかす方法などもはや存在しない。素直に話す以外の道はなかった。

 ため息をつき、ダレイオスは諸手を挙げて降参を示した。


「いいだろう、認めよう。私はあの夜、ムセイオンに侵入した。目的はペルセポリス遺跡の出土品を見てみたかったからだ。運良く別の侵入者が侵入したところに居合わせてな、便乗させて貰ったわけだ。ガントレットは……まあ、持って帰ったな」

「好奇心でムセイオンに不法侵入か……。バカとしか思えんな」

『うぐっ!否定できない……』


 自分の推理通りではあったが、ヘルマンはため息をつく。もう少し込み入った事情があるのだと思っていたが、実際はあまりにもちゃちな理由だったので拍子抜けしたようだ。ともかく、とりあえずの事実確認ができたので彼は気を入れ直して本題に入ることにした。


「先ほど言った通り君のことは捕らえないし、君の情報を流したりもしない。安心してくれ。だが、俺はこれで君の弱みを一つ握ったことになるわけだ。それを踏まえて君に話がある」

「話なんていうが、もはや私に拒否権はないだろう。まあいい、言ってみろ」

「あんた、本当に偉そうね……」


 ペトラの指摘をダレイオスが華麗に受け流したところで、ヘルマンは指を一つ立てた。驚いたことに要求は一つだけらしい。


「特に難しいことじゃない。俺をお前たちのパーティに入れてほしい。それだけだ。勿論ムセイオンの研究者はやめる。俺はこれでもBランク冒険者でね、そっちにとっても悪い話じゃないはずだ」


 アレシャとペトラはその話に拍子抜けしてしまった。なんだ、そんなことでいいのか、と。それはダレイオスも同じようだったが、どういうつもりかと油断無くヘルマンを観察している。


「本当にそれだけか?もっと強気に出てくると思ったが」

「本当にこれだけだ。俺は研究者気質でね。あの夜、大蛇を蹴り飛ばしたお前の強さの理由をぜひとも解き明かしたい。それには一緒に行動するのが一番だと思ったというだけだ。第一、お前がその気になれば俺なんか一捻りだろう。調子になど乗れん」


 それなりに筋の通った話にダレイオスも一応納得した。こいつが怪しい動きを見せれば自分が叩きのめせばいい、そう思ったのが主な理由であるが。

 しかし、ペトラは胡散臭そうな顔をしていた。あまりヘルマンをパーティに入れたくないらしい。だが、アレシャのためなら仕方ないとしぶしぶ承諾した。

 ヘルマンは満足げに頷くと、明日の段取りを決める。


「では、明日の朝九時に商会に集合しよう。俺が引き留めたせいで正式な登録ができなかったからな。これからよろしく頼む」

「ああ、また明日」


 そう言葉をかわしてから食事の支払いは勿論ヘルマンに任せて二人は店を出た。二人の泊まっている宿は別なので、少し歩いたところで別れる。その間もアレシャはヘルマンという男のことが気になっていた。ムセイオンの研究室の副室長というのは、そんなに簡単になれるものではない。あの男はその地位を捨ててアレシャについて行くと言っているのだ。

彼が研究者だというのなら、余計にムセイオンという最高の研究機関から離れることに疑問を感じずにはいられなかった。まだ他に思惑があるのではないか、と疑わしく思う。

 それをダレイオスへ話すと、彼も気になってはいたようだ。結局、警戒はしつつもそこまで気を張り続ける必要も無いだろう、という結論に至った。ダレイオスと話して気が楽になり、その夜アレシャはぐっすりと眠ることができた。


 翌朝、ヘルマンとの約束通りの時間に商会を訪れたアレシャの前に赤い髪の女が立ちふさがった。どうしようもなくヴェロニカである。


「おはようございます、ヴェロニカさん。何か用ですか?」

「あら、今日は礼儀正しいのね。おはよう。あなたたちが登録に来るのを待ってたのよ。その方が手間がかからないしね」

「……手間?」

「ああ!なんでここにいるのよ!」


 そう叫んだのは丁度商会へやってきたペトラだ。アレシャと話しているヴェロニカにずんずんと歩み寄る。完全にヴェロニカを敵視しているようだ。ぐるると唸るペトラが噛みつく前にアレシャが諫める。

 それでその場はなんとか落ち着いたが、続いて現れた男によってまたややこしくなる。


「まだ登録してないのか?混む前に済ませた方が良いぞ」

「あ……。ヘルマン……さん」

「あら、この人知り合い?」


 アレシャに声をかけてきたヘルマンにヴェロニカが視線を向ける。

 そのときヘルマンは何故か一瞬動きが固まるが、すぐに解凍されると簡単に事情を説明した。ムセイオンのことは伏せて、以前一度会ったことがあるぐらいにぼかしているが、ヴェロニカはそれで納得したようだ。


「なるほどね。この子たちは実力はあるけど経験は浅いから、Bランクがついていると私も心強いわ。これからよろしくね」


 その言葉に違和感を覚えたアレシャは、さっきから持っていた疑問をぶつけてみる。


「あの、ヴェロニカさん。結局、わたしたちに何の用なんですか?」

「用ってそりゃ、一緒に行くために合流しただけよ。ここで合流してしまえば一々待ち合わせ場所を決めたりするより手間がかからないでしょ?」


 それにはアレシャは声をあげて驚きを表した。そしてすぐさまペトラの様子を確認する。明らかに機嫌が悪い。それは一旦置いておいてアレシャは念のために確認する。


「それじゃ、ヴェロニカさんも一緒に来るんですか?」

「当たり前よ。昨日『また後で』って言ったじゃない」

「それじゃ伝わらないわよ!この男だけでも納得いかないのに、あなたまで付いてくるの!?勘弁してよもう!」


 ペトラが叫ぶがアレシャが何とか抑えつけて大人しくさせる。

 ペトラはそんな調子だったが、アレシャは彼女がついてきてくれると知って素直に嬉しかった。Aランクの冒険者の存在はそれだけで頼りになるものだ。ダレイオスも彼女の実力を認めているらしく、特に文句はなかった。

 ヘルマンはそれに険しい顔をしていが、彼も文句はないらしい。

 ペトラもああは言ったが、ヴェロニカの存在が心強いというのには同意だったので渋々承諾する。


「じゃあ、この四人でパーティってことでいいわね!これからよろしく頼むわ」

「よ、よろしくおねがいします!」

「……よろしく」

「よろしく頼む」


 そして四人は互いに握手を交わした。

 Aランク冒険者『魔劇』のヴェロニカ、Bランク冒険者で元ムセイオン研究員のヘルマン、新人Cランク冒険者のアレシャとペトラの四人。

 自由を愛することで有名なヴェロニカが初めて所属したこのパーティは冒険者の間でしばし話題となる。

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