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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第二部
136/227

47 事件現場

「あの黒煙の大きさ……。ただごとじゃないぞ」

「あの黒煙があるのは、デカン帝国のご一行がおられる方角です。まさか、襲撃が……いや、そんな馬鹿な……」


 長は思考を巡らせながらも、それが信じられない様子だった。しかし、今は何が起きたかの状況把握が最優先だ。近くに控えていたエルフたちに急ぎ指示をとばす。


「デカン帝国の案内役の者から連絡は来ていないのか?来ていないならば、すぐに連絡をとってくれ」

「は、はい!」


 その男は魔法陣を用いて通信を送る。それは、紙に書かれた魔法陣を用いて使用する現代魔術の通信魔術とは違い、その手に直接魔法陣を展開して使用するタイプの通信魔術だった。ダレイオスが知っている古代魔術での通信に近いもので、これが話に聞いた精霊魔術を用いているのだろうとダレイオスは思った。しかし、通信が繋がった様子は一向にない。


「長様、向こうと連絡が取れません。……何かあったのは間違いないかと」

「なんと、いうことだ……。急ぎ、調査へ向かうのだ。バンダーラビットを使ってくれ」

「わかりました!」


 長の言葉でエルフたちが会議室を飛び出していく。目まぐるしく移り変わる展開からはじき出されてはならないので、アレシャも長へ進み出る。


「わたしたちも行きます!何か脅威が待っているのだとしたら戦力はあった方がいいでしょうし、わたしたちも状況を正確に知ることができますから」

「ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします」


 ラース=オルフの了承を得て、アレシャは仲間達へ視線を向ける。


「とりあえず、わたしとペトラは確定として、あと一人くらいついてきて欲しいんだけど」

「なら、俺が行こう。さっき話に出たバンダーラビットには乗ったことがある」


 セイフが立候補したのでそれを採用。三人はバートに案内されて大樹の一階へと向かう。集まっていたエルフたちとともにいたのは、ずんぐりとした巨体の獣だった。しかし、その丸い頭部からは可愛らしいウサ耳がぴょこりと生えていた。


「これがバンダーラビット……。どんなものかは本で読んでたけど、初めて見たよ」

「足は馬よりも速く、悪路や障害物も問題なし。乗り心地が悪いのが玉にきずだがな」

『乗るのか、これに。サーラの精神世界で襲ってきたウサギの化け物を思い出してしまって、正直遠慮したいところだがな……』


 ダレイオスが愚痴るも、当然そんなことを言っていられない状況なので、三人は近くに伏せていた三匹の大ウサギの背に跨がる。一応鞍のようなものはついているものの初めて乗るアレシャはバランスをとるのに苦労する。しかし、グダグダしている余裕はない。何とか無理矢理腰を落ち着け、丁度準備を終えたエルフたちへ合図を送ると、彼らも頷きを返した。そして先頭のエルフがウサギの頭をぽんぽんと叩くとウサギは甲高い声で吠え、それが合図になったのかバンダーラビットたちは一斉に駆け出した。いや、駆け出したと言うと語弊がある。ウサギたちは入り口を出るなり地を蹴って大ジャンプしたのだ。人々が退避した通りをウサギは跳び行き、あっという間にオル・オウルクスの街を抜けると、そのまま壁すら乗り越え樹海の中へ飛び込んでいく。そのものすさまじい移動の勢いに、アレシャはただしがみつくしかない。


「おおおおおおお!ちょっとおおおおおお!」

「口閉じてないと舌噛むわよ!」


 ペトラの忠告に従ってアレシャは口を閉ざし、ウサギの毛皮に顔を埋める。

 樹海に飛び出してからもウサギはスピードを緩めることは無かった。生い茂る木々の間を縫うように跳び行き、高く上がる黒煙との距離をぐんぐんと詰めていく。

 そしてその驚異的な移動スピードは、端から中央まで二日ほどかかる樹海の半ばまでを一時間ほどで駆け抜けてしまった。ただ、乗り慣れてないアレシャにとっては、その一時間はまさに地獄であった。断続的に続く上下移動はアレシャの三半規管を粉々に打ち砕いてしまったのだ。青い顔をしたアレシャがウサギの白い毛皮に吐いたりしないかペトラは心配していたが、幸いそれより先に目的地にたどり着くことができた。

 しかしそこにあった光景は、とても幸いとは言えないものであった。


「くそっ!これは思ったよりマズいぞ……」

「おい、魔法陣展開急げ!」


 指示を飛ばすエルフたちの声が響く。黒煙は、樹海を照らし激しく燃えさかる炎から立ち上っていた。火は木々を焼き尽くしながら少しずつ燃え広がっている。草や低木がないので、そのスピードはあまり速くはないが、放っておけば本当に手がつけられなくなってしまう。


「アレシャ!あたしたちも消火しないと!」

「うん!」

『よし、代われ。私に任せろ』


 アレシャと交代したダレイオスが、その手に巨大な魔法陣を展開して大量の魔力を一気に注ぎ込むと、巨大な水球が出現した。一体を包み込むほどの大きさのそれは、炎をまるごと覆い消火させる。一発では消しきれず、二発三発と水球を落としていった。辺り一体に霧のような湯気が立ち込むが、なんとか炎の影は消え去ったようだ。常識外れの大規模な魔術を目の当たりにしてエルフたちが驚愕の視線をダレイオスへ向けるが、ダレイオスは構わず指示を飛ばす。


「セイフは私と焼け跡を調べるぞ。ペトラは生存者がいないかを調べるんだ」

「了解だ」

「分かったわ」


 この状況から考えて、明らかに自然災害ではない。デカン帝国の一団が襲撃に遭ったとみて間違いないだろう。真っ先に目につくのは炎の中心にある黒い焦げ跡だ。そこを中心にして周囲が吹き飛ばされたような形跡が残っている。おそらく魔術か何かによる大規模な爆発がこの原因と見るベきだ。

 ダレイオスの言葉ではっと我に返ったエルフたちも次々と焼け跡の調査に入る。そんなダレイオスが足元に落ちたものに気づいて拾い上げてみると、それは緑色をした燃えかすだった。


「これは、デカン帝国の獅子の紋章だな。やはりデカン帝国が襲撃に遭ったとみて間違いないか」

「そうだろうな。あとは、焼け跡近くに落ちてるこれらだが……」


 セイフがチラリと視線を送ったのは、ダレイオスも見ないようにしていた真っ黒に燃えた何かだ。それに歩み寄ってしゃがみ込む。


『うぅっ……!』

「目を瞑れ、というのも無理か。悪いが我慢してくれ」


 ダレイオスが手で確かめるように触れたそれは、人間の頭部だった。爆風に晒されて千切れてしまったのだろう。焼けてぐずぐずになっていたが、その耳の長さからエルフだと判別できた。この損傷具合から見て、ほとんど爆心に近い場所にいたと思われる。


「これは、爆発をまともに受けた人間は生きちゃいないだろうな……」

『それって、もしかしてルーグとかも!?』

「それはまだ分からん。だが爆発の広がった形跡を見ても、爆風が広範囲に広がっているように思える。爆心から離れている人間は吹き飛ばされただけで死傷にまで至っていないかもしれない」


 そう考えたダレイオスは、顔をしかめながら周囲を探るペトラに声をかけ、焼け跡から少し離れたところを調べるように言う。ペトラはこの悲惨な現場から離れられるのが嬉しいようで、素早く走り去って行った。

 ダレイオスたちは引き続き焼け跡を調べていくが、見つかるのはどれもこれも燃えかすばかりだった。荷馬車の残骸、焼けた衣服、人間。それらが炎というものの残酷さを容赦なく眼前に突きつけてくる。一通り調べて、ダレイオスはため息をつく。


「爆発の原因は魔術の類いだろうが、それが何者によるものかの手がかりは分からないか」

「なら生存者を探して情報を得るしかなさそうだな。ここらに生存者はいないようだし、俺たちも周囲の生存者捜しへ向かうか」


 セイフの提案に乗り、焼け跡調査はエルフたちに任せてペトラと合流することにして焼け跡から少し離れる。すると、それほど離れることのなく、怪我の痛みに呻く人たちが幾人も横たわっているのを見つけた。どうやらダレイオスの予想は間違っていなかったようだ。


「あ、二人とも手伝って!とりあえず怪我人の止血をしないと!」

「ああ、分かった」


 近くにいたペトラに呼ばれ、ダレイオスは魔術で怪我人の治療を始める。セイフも魔術が使えないなりに、怪我人の介抱に努めた。傷の程は人それぞれだった。爆風を比較的強く受けたことで身体の一部が欠損している者も、爆炎で火傷を負っている者もいたが、幸い骨折などの比較的軽い怪我ですんだ者も多くいた。重傷者は口をきくのも難しいが、軽傷者ならば何か情報を持っているかも知れない。傷の治療をしながら、ダレイオスはその内の一人に問いかける。


「一体何があったんだ。この爆発を起こしたのは何者なんだ」

「うぅっ!悪い、爆発は俺の後ろで起きたから、何も見ていないんだ……」

「そうか……。なら、お前は隊のどの位置にいたんだ?」

「俺が所属している隊は皇帝陛下と近衛師団の者の前方に位置していた。その背後だから、爆発は皇帝陛下のすぐお側で起こったのかもしれない」

「お前は本当に何も見ていないのか?何か兆候とかは?」

「ああ、見ていないんだよ!くそっ!皇帝陛下はご無事なのか?俺がもっとしっかりしていれば……くそっ!」


 デカン帝国兵の男は手で顔を覆い、堪えるように涙を流し始めてしまった。ダレイオスはこれ以上質問を重ねるのも酷だろうと思い、彼の治療へ専念する。

 ダレイオスは既に何人かに話を聞いていたが、今のところ爆発を見ている人物はいなかった。怪我が軽い者は爆心から離れたところにいたのだから当然なのかもしれない。となると、これ以上の情報収集は重傷者が無事に回復してからにした方が効率的だとダレイオスは判断して、他に怪我人はどれくらい残っているだろうかと周囲を見渡すと、セイフがこちらへ向けて駆けてくるのが見えた。ひどく慌てた様子である。


「おい、団長!その治療が終わったらこっちに来てくれ!」

「ああ、今終わった。すぐ行く」


 ダレイオスは手招きするセイフの元へ駆けより、彼に案内されるままについていく。すると、幾人かの人物が何かを取り囲むようにしてしゃがみ込んでいるのが見えた。彼らは皆、緑色のマントを羽織っている。


『あのマント……。あれ、皇帝近衛師団の人だね』

「近衛師団……。おい、まさか」


 ダレイオスがセイフへ視線を向けると、彼は眉間に深く皺を寄せた。嫌な予感を抱えたまま、ダレイオスは近衛師団員たちの元へ駆けよっていった。彼らの手元からはキラキラと光りの粒子が散っている。おそらく複数人で治療魔術を用いているのだろう。なら、彼らが治療しているのは何者なのか。それを推測するのは難しいことではない。


「おいおい、冗談はやめてもらいたいんだが……」

『そんな……』


 ダレイオスが見下ろす近衛師団員たちが囲む人物。それは、炎で焼けた緑の軍服を身に纏い、上半身だけが残っている人間だった。火傷で顔のほとんどが痛ましく焼けただれていたが、アレシャもダレイオスは、それが着ている衣服にも、僅かにうかがえる面影にも見覚えがあった。そして何より、どう見ても既に絶命している人物へ向けて皇帝近衛師団が懸命な治療を行っているということが、それが何者なのかを強く指し示していた。

 デカン帝国皇帝ルーグが、変わり果てた姿で地面に転がっていた。

一月は忙しそうな予感……

というわけで少し様子見として、隔日更新から三日おきの更新にしたいと思います。

二月の半ばになったらドサッと投稿できる気がします。

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