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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
13/227

12 やりたいこと

「ん、んん……」

『あ、ダレイオスさん。やっと目を覚ました……。人格の交代ができるのはダレイオスさんだけなんだから、暇でしょうがなかったよ……』

「ああ、すまんな……」


 アレシャに軽く謝りながら、ダレイオスはゆっくりと体を起こす。彼は屋外に設置された簡易のベッドに寝かされていた。周りを見れば、負傷者が同じように寝ている。

 キョロキョロと周囲を見回していると、一人の少女がダレイオスの方へ歩いてきた。長い耳が特徴的な少女。勿論ペトラだ。ダレイオスが片手を軽く上げて挨拶すると、ペトラが笑顔を見せ、駆けよる。


「ああ、アレシャ!よかった、目を覚ましたのね!」

「すまない、心配かけたな」

「ほんとよ。でも、正直あなたの強さはほんと天井知らずね。まさかあいつを倒しちゃうなんてね」


 ダレイオスは少し呆れたようにため息をつくペトラに苦笑いを返すと、「そういえば」と呟く。


「お前が使った魔術も中々のものだったが、あれが話に聞く精霊魔術ってヤツか?」

「そ。魔術は専門外だから一回だけしか使えない取って置きだけどね」

『ペトラも魔術使えるんだ……使えないのはわたしだけ……』


 少し落ち込んだアレシャをよそに談笑していると、一人の冒険者然とした男がやってきた。

 先の戦いで冒険者たちの指揮をとっていた男だ。動きを阻害しないように最低限の鎧だけを身につけ、腰には二振りの剣を携えている。髪や髭をあまり手入れしていないところが冒険者っぽい人だな、とアレシャは思った。偏見である。

 

「よう、目を覚ましたようだな。まずは礼を言わせてくれ、ありがとう。君たちの協力がなければ、あれを討伐できずに全滅していただろう。本当にありがとう」


 男は深々と頭を下げた。いきなりの最敬礼だったのでダレイオスとペトラは少し驚く。男は一度頭を上げ、それからまた下げる。


「それと、謝罪もさせてほしい。先ほどアレクサンドリアの商会に連絡を入れたんだが、今回の魔物の討伐は我々が中心で行ったことにするというのが商会の方針らしい。……つまり、君たちの活躍は公にならないということだ。商会の顔であるAランク冒険者たちが適わなかった魔物を受験者が討伐したということになると、商会のメンツが潰れることになると考えたのだろう。本当に勝手な都合で申し訳ない……」


 今回の功績の多くはダレイオス、ペトラ、ヴェロニカのものである。それを商会のものにする。おそらくヴェロニカの手柄ということになるのだろう。確かに納得のいかない話ではあるが、ダレイオスは頭をあげるように言う。


「そんなこと気にしないでくれ、ただの受験者がポイント稼ぎのためにやったことだ」

『そうそう。だいたい、『七色の魔物』を討伐したなんて言っても誰も信じないだろうし』

「あたしはそもそも、ほとんど何もしてないし……。アレシャが文句ないならあたしもないです」


 それを聞いた男はほっとした顔をして、また「すまない」とつぶやいた。上から色々と言われていたのだろう。中間管理職というやつだった。苦労人とも言う。

 ダレイオスが他に用はないのかと尋ねると、男はもう一つ伝えることがあったことを思い出した。


「今回の試験のことなんだが、当然中止になる。ただ、試験官がこれまでの試験で冒険者に相応しいと思ったものは合格扱いにするとのことだ。君たちは勿論合格だ。明日からCランク冒険者になる。頑張ってくれ」


 男はサラリと告げたが、Cランクは新人に与えられるランクとしては最高のものだった。ダレイオスはよくわかっていなかったが、頭の中でアレシャが喜んでいるので良いことなのだろうと判断した。

 だが、ペトラはそうではないようだ。


「し、Cランクって、あたしが!?そんな大それたもの貰っても困ります!今回のも全部アレシャの手柄だし、あたしじゃ結局、また誰かの世話になるだけになっちゃうし……」


 ペトラが自分の素直な心の内を男へぶつける。それを聞いた彼は瞑目して少し考えこむと、落ち着いた声音でペトラへ語りかける。


「今回の件で、君の実力は冒険者の中でも十分に通用するものだと我々が判断したんだ。現役冒険者のお墨付きなんだから自信を持ってくれ。そもそも、冒険者というのは自分だけで何でもできる必要はない。仲間と協力し合ってそれを補うことができれば、それでいいんだ。世話になるのが当たり前だ」

「協力……」


 ペトラはそのとき、アレシャと二人でゴブリンを討伐したときのことを思い出していた。アレシャはペトラのために動き、ペトラはそれに応えて動く。あの連携こそ冒険者のあるべき姿なのだと感じた。ペトラは自分の実力がCランクに値するとは思っていない。しかし、アレシャのようなパートナーがいれば、自分にもそれに値するだけの働きができるのではないかという思いが膨らんでいた。なら折角貰ったこの機会は有り難く受け取っておこうと決めた。

 男の言葉に納得して、ペトラは頷く。


「わかりました。あたし、頑張ってみます」

「私は自分だけで何でもできるがな」

『今そういうこと言わないの。空気読んでね』


 ダレイオスの小声の呟きは幸い誰の耳にも届かなかったようだ。ペトラの決断を受け取った男も満足そうに頷いた後、懐から髪を取り出し二人に手渡した。それには人の名前と番号が記されている。説明を求める視線をダレイオスが送ると、男は自己紹介を始めた。


「俺はAランク冒険者を務めているセイフという者だ。これでも冒険者としてはそれなりの経験を積んできたつもりだ。何か困ったことがあれば、このメモの登録番号あてに商会を通して連絡してくれ。できる限り力になろう」

「そうか、すまないな。有り難く受け取っておこう」

『セイフ……。『輝剣』のセイフ!有名人だ!すごい人と知り合ってしまった……』


 アレシャは興奮するが、ダレイオスの方が数段有名ですごいということに気づいていない。ダレイオスとペトラがそのメモを有り難く受け取ると、セイフはもう一度頭を下げてら二人の元を立ち去った。

 それと入れ替わるようにして、今度は深紅のローブの女が近づいてきた。ヴェロニカだ。軽く手を振りながら、また軽く声をかけてくる。


「はーい、元気そうね。今日は本当にありがとうね。アレシャちゃん、であってるわよね。あなた、ホントにスゴいわね。やっぱり私の目に狂いは無かったわ!薄れ行く意識の中で見た、あの美しい炎の槍……。“貫く”という槍のもつイデアを極限まで洗練したあのフォルムは中々だせるものではないわ……!しかも、私の知らない魔法陣。あれが古代魔術ってやつなのでしょ?緻密な計算が輪を描き踊る様は、まさに芸術!しかも……」


 ヴェロニカはくるくる回りながらまるで舞台女優のように話を続ける。いきなり現れていきなり話し始めた彼女に二人は呆然としてしまった。

 ペトラが一足早く気を持ち直すと、ヴェロニカに向けて指を突き刺した。


「ちょっと、いきなり来て何よ!話があるなら簡潔にしなさい!」

「ん?ああ、ごめんなさいね。私、美しいものが好きなの。彼女の魔術の素晴らしさを語っていたらつい熱くなってしまったわ」


 ペトラの制止を素直に聞いてヴェロニカは一旦話を中断した。しかし、ヴェロニカを見るペトラの視線は依然として厳しい。それにはヴェロニカも少し戸惑いをみせる。


「あなたはペトラちゃんだったわよね?私、あなたに何かしたかしら……?」

「何もしていないけれど、存在が罪になるということもこの世の中にはあるのよ」

『こわっ!ペトラが怖い!いつになく怖い!』


 ペトラとヴェロニカが初めて会ったときも何故かペトラのあたりが強かったことをダレイオスは思い出した。その敵意の原因を探ろうとペトラの視線をたどっていく。それが注がれていたのはヴェロニカの胸、すなわち乳だった。

 そういえば、二人が初めて会ったとき、ヴェロニカはローブを脱いでかなりきわどい格好をしていた。自分の体に自信のある人間にしかできないであろう格好をしていた。自信のある体を見せびらかすような格好をしていた。

 敵意の理由を察したダレイオスとアレシャは、ペトラをこれ以上逆なでしないようにヴェロニカへそっと耳打ちする。しかし、持てる者は持たざる者の気持ちを理解できないものである。


「あら、そんなこと気にしてたの?胸の大きさなんて美しさのほんの一つの要素でしかないわ。あなたの体も十分美しいと思うわよ?そうだ、あなたも私みたいな服を着てみればいいのよ。きっと素敵だわ」

「あなたが着てたのは服じゃないわよ!申し訳程度の常識よ!」

「あら、裸体こそ美しさの境地だというのは常識でしょう?」

「あんな装備もつけられないような服、冒険者として常識がないんじゃないの!?」

「心配いらないわ。私お手製の魔術がかけられているから、並の装備よりはよっぽど高い防御力があるわよ」


 二人の会話はどこかずれていた。

 これ以上二人を一緒にいさせない方がいいと判断したダレイオスはヴェロニカを追い出すことにした。彼女は首をかしげつつ不満そうな顔をしていたが、「また後でね」といってそのまま去って行った。息を荒くしているペトラをダレイオスがなだめる。ペトラはそんなアレシャの胸に視線を向ける。そこにある膨らみはお世辞にも大きいとは言えなかった。ペトラはすぐに大人しくなった。


 その後も色々な人が二人の元を訪れた。

 その誰もが感謝の言葉を述べたあと二人を褒め称え、困ったことがあったら力になると言い残していった。

 中には涙を流して感謝している人もいた。死ぬ覚悟はしていたつもりだったが、いざそうなると死にたくないと思ってしまった。救ってくれてありがとう、と。


 その日の夜、ベッドから這い出したアレシャは人気の無いところへやってきた。ダレイオスと二人きりで話をしたいと思ったのだ。いいとことはないかと森を彷徨っていると、少しだけ明るい場所に出た。そこだけ木が生えておらず、月明かりが差し込んでいたのだ。そこに鎮座していた岩に腰掛け、アレシャはダレイオスへ語りかける。


「ダレイオスさん、わたしね、冒険者になってもう一つやりたいことができたの。わたし、自分のギルドを作りたい」

『ギルド?それはどういったものなんだ』

「志を同じくする冒険者達の寄り合いみたいなものかな。Aランク冒険者になるとそれを立ち上げる権利が与えられるの。私のお父さんも少人数だけど自分のギルドを持って活動してたんだ。人助けを目的としていて、お金がなくて商会に依頼できない人からも良心的な依頼料で仕事を引き受けたりしてた。わたしも、そんな人のために活躍できるギルドを作りたい」

『理由を聞いてもいいか?』


 ダレイオスに問われ、アレシャはこの試験中にあった出来事を思い出していく。そして口を開いた。


「前にダレイオスさん言ってたでしょ?『強き者には弱き者を守る責務がある』って。あれ、わたしのお父さんも同じようなこと言ってたんだ。わたしはずっと弱い人だったから、お父さんとか色々な人に守られてきた。でも、もし自分が人を守るだけの力を持てたなら、今度はわたしが弱い人を守りたいってずっと思ってたんだ。あと、それと、」

『それと?』

「今日、いろんな人から『ありがとう』って言われたけど、それがすごく嬉しかった。人の役に立てれば人にもっと喜んで貰えるんだな、人にもっと喜んでほしいなって思った。だから、そんなギルドを作りたいと思った。……単純かな?」


 それを聞いたダレイオスは大きな声で笑った。突然のことだったのでアレシャはびくりと身体を震わせる。自分は何か変なことを言っただろうかと思っていると、ダレイオスはどこか嬉しそうに話し始める。


『確かに、単純だな。だが単純でいいじゃないか。お前が信じて選んだ道なら、私はそれを応援したいと思う。私も喜んで力を貸そう』

「え、いいの?これからお願いしようと思っていたんだけど。ギルドを作ったら拠点を構えることになるから、あまり自由に動けなくなると思うけど……」

『別に構わんさ。弱きを守るのは私の責務だと言っただろう?お前の話に反対する理由が見つからん。ただ、千九百年前のことを調べるのも忘れるなよ?』

「……うん!」


 アレシャが満面の笑みで頷く。そして空を見上げてみると、そこには満天の星空が広がっていた。それを見たアレシャが思い出すのは幼少の記憶だ。


「そういえば、小さい頃はお父さんといっしょによく星を見てたっけ。懐かしいなあ……」

『聞かせてくれないか?』

「ん?」

『お前の父親のことだ。お前が目標とする冒険者というのを知っておきたい』

「もちろん!えっとね、どこから話そうかな……」


 アレシャは父との思い出を掘り起こしながらダレイオスへ語り始める。アレシャはそれを話すのが心底楽しくて仕方が無いようだった。ダレイオスもそれ相づちを打ちながら興味深げに聞いている。二人は心地よい夜風を浴びながら、空が白むまで語り合っていた。


 翌朝、全てのオルガヌム大森林のあちこちに散らばっていた受験者達は一つの場所に集められた。全員が集まったところでセイフが代表して昨日何があったのかをこと細かに説明した上で試験の中止を伝える。誰もがその事件に驚いていたが、文句を言う者は誰もいなかった。

 また、試験官が合格だと認定した受験者には、そこで冒険者の認定が伝えられた。合格したのは残った受験者のおよそ半分ほどだ。そのほとんどはFランク認定だった。EランクやDランクの認定を受けたものも少ないが何人かはいた。しかし、Cランクと認められたのはアレシャとペトラだけだった。セイフの話が終わった後、二人がすごい数の勧誘を受けたのは言うまでもない。 そしてその全てを断ったのも言うまでもない。


 それから試験官たちは撤収の準備を進め、それが終わると一行は続々と転移魔法陣を使って街へと戻っていった。アレクサンドリアの街に付く頃には日も暮れかかっていたが、アレシャとペトラは冒険者登録の正式な手続きをするために、その足で商会へ向かうことにした。

 その途中で、ペトラが立ち止まる。どうしたのかとアレシャが尋ねると、ペトラは何か決意したようだ。


「何かこのまま流れのままに行くってのは嫌だから、一回ちゃんと言葉にしておくわ」

「ん?何が?」

「勿論、これからのことよ」


 これから。冒険者になってからのことだ。何か話すべきことがあっただろうかとアレシャが思っていると、ペトラはすっと手を差し出す。


「あたし、これからもアレシャと一緒に冒険者としてやっていきたい。一緒にパーティを組んで活動していきたい。多分、何も言わなくてもそうなったんだろうけど、ちゃんと言っておきたかったの。よろしく頼めるかしら」


 ペトラは真面目な顔でそう言った。アレシャもペトラと一緒に行く事を当然のことに思っていたが、まだ二人の間でちゃんと決めたことでは無かった。なら、アレシャもきちんと言葉にしておくべきだと思い、差し出された手をしっかりと握る。


「勿論!わたしも、ペトラと一緒にやっていきたいって思ってるよ。これからもよろしく!」


 二人の少女は互いに見つめ合い、笑顔をこぼした。

 気持ちも軽くなり、二人は意気揚々と商会の扉を開け放つ。前に来たときはガチガチに緊張していたアレシャも何も気負うことなく扉をくぐった。彼女も戦いの中で成長したのである。アレシャは意気揚々と受付に向かおうとするが、その肩が何かに掴まれた。

 どちら様かと思って振り返ると、そこには立っていたのは背広を着込み眼鏡をかけた男だった。アレシャはその男に見覚えはなかった。


「……やっと見つけた。俺のこと、覚えてるか?」


 アレシャはその男に見覚えはなかった。

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