39 アレシャVSペトラ
二人が対峙するのは、先ほどペトラと再会した訓練場だ。オズワルドは門下生を全員呼びつけ、この戦いを見届けさせていた。ペトラにとっては先輩たちが見守る中で戦うことになる。緊張しないと言えば嘘になるが、ペトラの闘志がそんなもので揺らぐことはない。対するアレシャも、深呼吸して高鳴る心臓を抑える。アレシャはこれまで、魔物ばかりを相手にしていて人と戦ったことはほとんどない。ダレイオスの戦闘をずっと見ているので戦い方というものは心得ているが、自分がそれを上手く実践できるかと問われれば自信はなかった。しかし、一度受けた勝負を投げ出す気は毛頭無い。その不安がアレシャの意志に勝ることはない。
「何か面白いことになってんな」
遅れてやって来たブケファロスがヴェロニカへそう声をかける。遠巻きから二人の様子を見守っていた彼女は大きくため息をついた。
「気持ちは分からないでもないんだけどね。戦うまでしなくても、と思うわ。でもそれが、二人が納得できるケジメの付け方なら文句を言うだけ野暮ってもんでしょう?」
「まあ、そうだろうな。で、お前らどっちが勝つと思うよ」
ブケファロスがヘルマンとヴェロニカへ尋ねた。そういえば考えていなかったと思い、二人も予想をしてみる。
「俺は、ペトラじゃないかと思う。さっきの稽古の動きを見れば、あいつがこの道場の中でも実力がある方だというのは分かる。元々才能があるというのはオズワルドさんも言っていたしな。アレシャも強くなったが、接近戦に持ち込まれては勝ち目はないだろう」
「ヘルマンさんはペトラちゃん派ね。私は、アレシャちゃんかな。アレシャちゃんの鳥の形をした魔術。私も可愛くてお気に入りなんだけど、それだけじゃなくて構築スピードと術そのものの弾速が凄く速いのよ。数も多く打てるし、そもそも接近させない戦い方をとれば圧倒できるはずよ」
その予想を参考にブケファロスも予想してみる。だが、
「俺はわかんねえかな。ペトラの実力の程をちゃんと把握しきれていないし、アレシャの対人戦も見たことがない。予想、無理だ」
リットゥを抱えてその場に座り込んだブケファロスがケロリと言う。ヘルマンとヴェロニカは「自分から聞いておいて……」と思ったが口にはしなかった。
『自分から尋ねておきながら、お前も中々碌でなしだな』
「うるせえ!」
リットゥが二人の思いを代弁してくれたからだった。剣にまで言われてしまうブケファロスもどうかと思うが。
そうこう話している内に準備ができたようで、オズワルドが訓練場の中央に立つアレシャとペトラへ歩み寄る。
「いいか、お前ら。ルールは特に設けない。先に相手に一撃加えた方の勝ちだ。いい戦いを期待してるぞ」
オズワルドがそう告げ、二人はコクリと頷いた。オズワルドは了解の意を受け取ると、その場から一跳びで離れ近くの岩の上に座り込んだ。
二人は一度距離をとると、ペトラは長い髪を邪魔にならないよう一本に結わえ、両手に取り出した短剣を構える。アレシャはガントレットを装備し、拳を握りしめる。
「よし。それじゃあ、始めろ!」
オズワルドの号令が響いた。しかし、二人は睨みあったまま動かない。長く引き延ばされた一瞬が過ぎ、先にしびれを切らしたのはペトラだった。アレシャへ向かって一直線に駆け向ける。
『いいぞ、まずは相手の出方を見てから動くんだ』
「そういうサポートはいらないって。フェアじゃないよ」
アレシャがそう言って駆けるペトラに焦点を合わせる。が、その刹那、ペトラの姿が消えた。ペトラは一瞬の内にアレシャのすぐ目の前にまで迫っていたのだ。驚異的な踏み込みのスピード。アレシャは咄嗟に腕を交差してペトラの剣を防いだ。ペトラの最大の武器はスピード。一年前からそうだった。長い修行をこなした今、それが更に研ぎ澄まされているのは当然のことだ。アレシャは失念していた自分を悔いる。
ペトラはその一発で攻撃の手を止める気は無い。高速の連撃がアレシャへ向けて襲い来る。アレシャは今度はガードしない。後方に宙返りして距離を取ろうとした。しかしペトラがそれを許すはずもなく、再び踏み込んでアレシャとの距離を詰め直そうとする。しかしそのとき、ペトラの目の前に小さな赤い球が放り込まれた。マズい。そう悟ったペトラはアレシャへの追撃をやめて後ろへ大きく跳んだ。次の瞬間、球は爆炎を伴い破裂した。地面に丸く焦げ跡が残る。
『ほう、上手いな。追撃をさせないために後ろへ跳ぶと同時に魔術を投げ込んだんだな』
ダレイオスが素直に関心の言葉を漏らす。ペトラはその焦げ跡を驚きと喜びのまじった目で見つめていた。
「火炎の魔術……。やっばり、魔術はバッチリ使いこなせてるみたいね」
「そりゃ勿論。伊達に『魔導姫』と呼ばれてないよ」
再び距離が開いた二人は、それぞれ構え直す。今の攻防でお互いに、相手が一年で成長を遂げているのだと実感した。二人とも相手を舐めていたわけではないが、より一層気合いを入れ直す。
アレシャはペトラの動きを窺いながら次の手を考える。アレシャにとって一番の脅威となるのは、ペトラのスピードだ。例え身体強化をしてもアレシャではそこまでの速度は出せない。だが、やはりスピードに対抗するにはスピードが一番だろう。そう判断したアレシャは、その手に魔法陣を展開した。
何か仕掛けてくる。そう思ったペトラは駆け出す。魔法陣の展開が終わる前に叩くのは魔術師を相手にするときの定石だ。しかし先ほどヴェロニカが言った通り、アレシャの術は構築スピードの速さが売りだ。ペトラが接近しきる前にアレシャは準備万端。魔法陣が緑色の光を放った。
「『烈風鳥』!ええい、四連射!」
渦巻く風が四羽、アレシャの手から飛び立つ。それらは旋回しつつ四方向からペトラへ襲いかかる。
「うわ、危ない!」
ペトラは反射的にジャンプして上空へ逃げる。しかしそれは愚策。鳥たちはぐっと上昇してペトラを追い続ける。ペトラもしまったという表情を見せた。日頃魔術師を相手にしていないのが裏目に出たか。しかし、ペトラはあくまで冷静だった。ペトラは短剣を迫る鳥たちへ突き出すと、意識を集中させる。
「『精霊魔術・カゼキリ』!」
その声と共に、ペトラの短剣の周囲に風が渦巻き始める。それは耳に突き抜けるような高い音と共に一本に集まり、短剣の刃と同化した。長くなった刀身をペトラが鋭く振り抜くと、風を操るが如き剣技によって鳥たちはあっという間に両断されてしまった。
「どうよ!そう簡単にはやられないわよ!」
「さすがだけど、こっちもそう簡単にいかないっての!」
地面に下りたったペトラは剣を交差して構えると、後ろへ切り払うように振り抜いた。ペトラの後方に風が巻き起こり、それを推進力としてペトラは吹き飛ぶような勢いで跳躍する。
アレシャは、今度は両手に魔法陣を展開する。魔法陣の放つ色は弾ける黄色だ。
「『雷撃鳥』!」
「今度は電撃!?でも、『剣帝』仕込みのあたしの剣は止まらないわよ!」
ペトラは微塵も怯むこと無く、その剣で電撃を切り裂いた。アレシャが何発も放てど、そのことごとくをペトラは切り捨てていった。電撃を切り裂くとは思っていなかったアレシャは、つい声をあげる。
「うっそ!?あの剣ってただ風を起こしてるだけじゃないってこと!?」
『『剣帝』仕込み、か。生半可じゃないぞ』
アレシャは驚きながらも、魔術でペトラを牽制し続ける。以前、『黄金の魔物』とオズワルドが戦ったとき、オズワルドは刀身の短い短剣で巨大な魔物の首を落として見せた。きっと今ペトラが操っている剣技はそれと同じものなのだろう。風を操る。それが『剣帝ネルウァ』の剣の極意なのかもしれない。そんな恐ろしいものを振り回しているペトラを懐に入れてしまえば、あっという間に真っ二つだ。今はペトラを近づけさせないことに徹するしか無かった。
「どうしたの、アレシャ!これがAランク冒険者の実力なの?」
「まさか!最初から手の内を見せるなんて素人のすることだっての!」
アレシャの身体強化では、ペトラのスピードに太刀打ちできない。そのスピードに対応できるアレシャの魔術では、ペトラの攻撃力に太刀打ちできない。より強力な魔術を打つことができれば違うのかもしれないが、それを構築するほどの時間をペトラが与えてはくれないだろう。詰みであるかのように思われたが、アレシャにはまだ策があった。研究中の秘策が。
アレシャは後ずさりする足を止め、拳を固く握りしめた。応戦をやめたアレシャをペトラは不審に思うが、攻撃してこないなら攻め込むチャンスだ。ペトラは地を蹴ると一足でアレシャへ肉薄する。
「近接じゃ勝ち目はないわよ。これで終わり!」
ペトラが目にも留まらぬ速度で両手の剣を交差させるように振り抜いた。しかし、ペトラの剣が手答えを得ることは無かった。絶対に捕らえたと確信していたにも関わらず、アレシャの姿が目の前から消えていたのだ。
「こっちだよ!」
その声に誘われてペトラが頭上を見上げる。するとそこにアレシャがいた。その足の裏には魔法陣が展開し、そこからは轟々と炎が噴き出して……
「え、あ、ええ!?何で飛んでるのよ!?」
「どうだ!これが、わたしが編み出した真・身体強化魔術!」
それは別に身体強化ではないだろう。そう思いつつペトラは呆然としていたが、はっと我に返り、跳躍してアレシャへ向けて剣を振り抜いた。しかし、それはまたしてもアレシャに当たらない。アレシャは掌の魔法陣からも炎を噴き出し、空中を自在に飛び回っていた。それも、かなりの高スピードでである。
「ちょっと、それって反則じゃ無い!?」
「反則じゃないって!紛れもなくわたしの実力でしょ!」
「だったら逃げ回ってないで戦え!」
二人はぷりぷりしながら言い合いを始めてしまった。アレシャの余りに奇想天外な術によって、戦いの緊張感が見事なまでにはじけ飛んだ。戦いを見守っていた誰もが「ぽかん」という擬音がぴったり合うほどに口をあんぐりと開けている。
「ああ、いいわね……。噴き出す炎の軌跡が光のラインになって……。そうだ、夜空をバックにしたら、きっと綺麗だわ……」
一人だけ目のつけどころがシャープだった。だが、ヴェロニカはそう言いつつも、アレシャのやっていることが努力の賜物であることを理解していた。複数の魔法陣を同時に展開し、それを維持し続けるのは、かなりの量の魔力をコントロールするだけの技術が必要になる。勘だけで何とかなるものではない。ヘルマンも感心したように唸る。
『アレシャ、その術はただ飛び回っているだけじゃないだろう?お前の本気を見せてやれ』
「勿論!行くよ、ペトラ!これがわたしの全力!」
アレシャは炎の勢いを強め、ペトラへと飛来した。ペトラは向かってくるなら好都合とばかりに剣を構え、カウンターを決めにかかる。しかし、アレシャはペトラへと迫るその直前で突然軌道を変え、ペトラの右側方へと回り込んだ。だが、ペトラはそれにも反応する。右の剣で切り上げを放とうとした。が、それよりも更にアレシャの方が早かった。右を向いた彼女の眼前にはアレシャの拳が迫っていたのだ。脊髄反射的にペトラは状態を反らしてそれをかわす。拳はペトラの鼻先を掠めて虚空を打ち砕いた。
アレシャの拳はペトラが想定していたよりも数段上のスピードで打ち抜かれていた。まさに矢の如き右ストレートだ。身体を起こして体勢を立て直したペトラが、アレシャの様子を観察する。するとアレシャの肘にも手や足と同じように魔法陣が展開しているのに気がついた。アレシャはそこから噴き出した炎を推進力としてパンチの速度を向上させたのだ。
「ホントに強いじゃない、その術!」
「だからいったじゃん、これが全力だ、って!」
今度はペトラが距離を取ろうとしたが、アレシャがそれを追いかける。炎の推進力を存分に活かして、アレシャはペトラのスピードに見事についていっていた。ペトラが自慢の神速の剣を振るうも、アレシャは掌から炎を噴射して再びペトラの横側に回り込んだ。そして高速のパンチを叩き込む。ペトラは紙一重でそれをかわす。
これこそ、アレシャの術の強みだった。ペトラのスピードは踏み込みの速さによるもの。つまり、前後の移動にしか利用できない。しかし、アレシャは炎の反動を利用して移動しているため、横方向のステップ移動も高速で行える。ペトラにはアレシャの横方向に回り込むことは出来ないが、アレシャはそれができるのだ。アレシャのパンチが顔を掠める度に、ペトラの顔から汗が噴き出す。
「まだまだ行くよ!」
「ホント、反則、よ!」
アレシャの肘から炎が噴き出し、ペトラに向かって拳が飛んでくる。しかし、その一撃をペトラはかわそうとしない。このままではペトラの顔面にパンチが届いてしまう。アレシャはマズいと思ったが、すでにくりだした拳を止めることはできなかった。
が、それは杞憂に終わる。アレシャの攻撃はペトラに届く直前で何かにぶつかって止まったのだ。それは淡い緑の光を宿した壁だった。アレシャは以前、一度だけこれを見たことがある。初めて『七色の魔物』と戦ったとき、ペトラが相手の炎を防いでみせた精霊魔術だ。
「『精霊魔術・カザカベ』。賭けだったけど、アレシャの攻撃じゃこれを壊すことはできないみたいね」
アレシャは、今度は足の裏から炎を噴き出し、ハイキックを入れるが、それもペトラを覆う壁に阻まれてしまった。闇雲に攻撃するだけでは無駄か。そう悟ったアレシャは一度距離をとる。今度はペトラが攻める番だ。
「『カゼキリ』!」
ペトラが再び短剣に風の刃を纏わせる。これといい、先ほどの壁といい、ペトラは精霊魔術を完全に使いこなせるようになったようだ。剣と平行して魔術の鍛錬も行っていたという事実に、アレシャは脱帽する。しかし、感心しているだけのつもりはない。アレシャは全力をぶつけると宣言したのだから。
ペトラは短剣を携え、アレシャへ突進してくる。アレシャは迎え撃つ拳を打つも、ペトラは風で自分を巻き上げ、アレシャの頭上を飛び越えた。一瞬で背後に回り込んだペトラが隙ありと剣を振るうが、アレシャは足からの炎の噴射で発射されるようにしてそれを回避した。
「予備動作なしで回避行動ができるってのも中々セコいわね……」
アレシャはニシシと笑うと、空中で再び炎を噴き出し、ペトラへ突進してくる。飛行の勢いも乗せたパンチならばペトラの壁も破れると踏んだのだが、大味の攻撃はペトラに通用しない。最小限の動きだけでヒラリとかわした。
「やっぱり、当たらないか」
『スピードが追いついても、目はペトラの方がいい。生半可な攻撃じゃ当たりはしない』
ダレイオスに言われずとも、アレシャも分かっている。アレシャは地面に降り立つと掌の魔法陣を赤から緑へと変えた。そこから飛び出すは、最初に打ち込んだ魔術、『烈風鳥』だ。風が二羽、ペトラへ迫る。ペトラはそれを難なく切り捨てるが、アレシャは彼女の目の前から消え失せてていた。自分の周りにいる精霊が上を眺めているのにつられて上を見ると、アレシャは彼女の頭上で魔法陣を展開していた。再び風の鳥が放たれる。ペトラは少し後ろへ飛び退き、正面から食いかかる鳥に短剣を構える。
しかしその間にアレシャは上空から再び姿を消していた。既に魔術を使って相手の前方から攻撃を仕掛けているのだから、アレシャが移動した先は自分の背後以外にない、ペトラはそう考える。その読み通り、アレシャはペトラの真後ろで拳を振り上げ、鳥たちとの挟撃を仕掛けようとしていた。ペトラは左の短剣を空中に放り投げ、空いた掌をアレシャへ突きつけた。
「『カザカベ』!」
アレシャのパンチは壁と反発するようにして拮抗する。しかし、ペトラの右方向から鳥が迫っていた。その一羽を右手の剣で切り裂くと、ペトラは左の壁を解く。それによってアレシャのパンチが再びペトラへ迫るが、来ることが分かっている攻撃なら余裕を持ってよけることができる。姿勢を低くしてアレシャの拳をかわした。そのままアレシャの突きだした手を蹴り上げると、ペトラは降ってきた短剣をキャッチして、残りの鳥たちへ向かって駆ける。数は四羽。ペトラがその全てを切り捨てようとするが、ペトラへ向かっていた鳥たちは突然軌道を変えて旋回し始めた。鳥たちはペトラの周囲四ヶ所に位置すると、自ら破裂してその場に強い風を巻き起こし始める。
「目くらまし……いや!」
嫌な予感を感じ取ったペトラはその風の包囲から抜け出さねばと考えたが、それよりも早く数個の赤い球が吹き荒ぶ風の中へ放り投げられた。それは、この戦いの一番初めに見たことがある。
「ちょっと、そんなもの投げ込んだら!」
風の中に飛び込もうとしていたペトラだったが予定を変更、剣を振って自ら風を巻き起こし上空へと大ジャンプした。それと同時に炸裂した赤い球は巻き起こる風に乗り、ペトラを包囲するように激しく燃え上がった。さながらペトラを囲う円形の壁のように。それを見越して、ペトラはこの壁を抜けるには上空から飛び越えるしかないと考えたのだ。しかし、ペトラにそうするしかない状況を強いたのは、他でもないアレシャであった。そして勿論、アレシャはペトラが上空に逃げてくることも予想がついていた。
「もらったああああああ!」
足から火炎を吐き出して飛行していたアレシャが一直線にペトラへと飛来した。飛び回ることで加速し続けていたのか、これまでよりも更に高スピードで迫り来る。アレシャはそのまま勢いをゆるめることなく拳を固く握りしめた。対するペトラは空中で身動きがとれない。回避は諦めて『カザカベ』で壁を張って防御の構えを取り、アレシャの一撃は相も変わらず壁に阻まれる。が、あらゆるスピードの全てが乗りに乗った彼女の拳は、ペトラの張った壁を粉々に叩き砕いた。
「う、うそでしょ!」
驚くペトラだったが、次いで彼女の腹に重い衝撃が来る。アレシャの攻撃自体は壁によって逸らされたが、壁が破壊された事による反動がその身に返ってきたのだ。ペトラはその圧に押され、勢いよく地面へと落下していった。
「危ない!」
アレシャは加速して、落ち行くペトラを追いかける。そして彼女が地面に落ちきる直前に、その身体を見事にキャッチした。腹を押さえてゲホゲホと咳き込むペトラは、自分を抱えながら顔をのぞき込んでいるアレシャを見てため息をついた。アレシャはそれに笑顔を返すと、拳でペトラの額を軽く小突いた。
「いたっ!」
「はい、一撃」
そう口にしてから、アレシャはオズワルドの方へ視線を向ける。オズワルドは小さく肩をすくめると、パンッ!と手を大きく叩いた。
「勝負あった!アレシャの勝ちだ!」




