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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第二部
108/227

19 仲間がふえるよ!

 品評会は最高の形で終わりを迎え、ダレイオスたちは大通りの酒場で思い切り酒盛りを繰り広げようとしていた。クリームヒルデは昼間に酒を飲んでいた罰として水しかもらえなかったが。全員が大きな円テーブルにつき、ギンジロウが大声で笑った。


「いや、本当にみんなご苦労だった!ここは俺のおごりだ!賞金もがっぽり貰ったからな!はははは!」

「よし、それじゃあお言葉に甘えまして……かんぱーい!」


 アレシャが音頭を取り、全員がジョッキを掲げた。それを一気に飲み干したギンジロウが、ぶはぁと息を吐き出す。


「この間も言ったが、本当に感謝してるぜ。品評会が上手くいったのもアレシャちゃんのおかげだしな。いや、アレシャちゃんじゃなくてダレイオスか」

「『こっちも品評会でギルドの宣伝ができた。それにこの結果はあれだけの一品を作ったギンジロウの実力の賜物だ』って言ってるよ」

「ははは!違いねえな!主に俺のおかげだな!」


 ギンジロウはジョッキに酒をドバドバとつぎ足して上機嫌に笑う。その隣に座るヤスケはただ黙々と目の前の料理に手を伸ばしていたが、一つ思いだしギンジロウに問いかける。


「そういや親父、アルカディー陛下からのお誘いはどうするつもりなんだ?」

「お誘い?何の話だ?」


 兜を被ったまま器用に肉にかぶりついていたアステリオスが重ねて尋ねると、ギンジロウはジョッキを傾けてからそれに答える。


「実は、アルカディー陛下直属の職人にならないかって話を頂いたんだよ。まあ城で働くって事になるわな」

「ええ!それって凄いことじゃないですか!」


 アレシャは驚きの声をあげるが、ヤスケ、そしてクリームヒルデはそれに対して難しい顔をしていた。


「……やっぱり、水では味気ないですわ」


 一人は全然違うことを考えていた。アレシャは紅茶を注文してクリームヒルデを黙らせてからヤスケにどういうことかと尋ねると、ヤスケは腕を組み答える。


「確かに光栄なことだが……親父がその話を受ければ、今済んでる街を離れ王城入りすることになる。これまで俺たちの店に来てくれていたお客の仕事を受けることはできなくなるだろう」

『なるほどな……。それは難しい話だ』


 ダレイオスは納得し考え込む。得られるものは大きいが、失うものをまた大きいということだ。しかし、ギンジロウは然程悩んだ顔をしていなかった。ヤスケの話を聞きながら、いや、聞き流しながら肉にかぶりついていた。それにはさすがのヤスケも呆れてしまう。


「あのなあ、俺は真面目な話をしてるんだが……」

「そういう真面目な話は酒の席でするもんじゃねえ。だから、もう俺が陛下と話しをつけてきた」


 ギンジロウがサラリと告げ、誰もが驚きを見せる。そして気になるのは当然その答えだ。ギンジロウは相も変わらずぐびぐびと酒を飲みながら、今度は彼が呆れたようにヤスケへ話す。


「あのなあ、俺が名誉だとかのために客を裏切ると思ってんのか?これからもガザで商売やってくに決まってんだろう」


 そしてギンジロウは息子の頭をバチンと叩いた。軽く叩いたつもりだったのだろうが、存外力のこもってしまったそれはヤスケの顔面を皿へ叩きつけることになってしまった。それを気にせず、がははと笑う父親にヤスケは怒りを覚えるが、アステリオスが何とかなだめる。ヤスケは悪態をつきつつソースにまみれた顔を拭く。


「なら、明日にでもガザに戻るってことでいいんだな?今回の品評会で依頼も増えるだろうし、忙しくなるだろうな」

「ん?いや、お前はクビだ」


 突然、ギンジロウが爆弾発言を投下した。誰もがぽかんとしている中で最も驚愕していたのは、当然明日から無職宣告をされたヤスケである。勢いよく立ち上がり、ギンジロウに食ってかかった。


「ど、どういうことだ、親父!俺が、ク、クビって、クビ……?え、クビ?」

「落ち着け、ヤスケさん」


 まだ言葉が脳内で咀嚼されていなかったヤスケは上手く問いただすことができなかった。アステリオスに宥められ一旦席につく。


「で、なんでいきなりクビなんて……。どういうことなんですか?」


 代わってアレシャが尋ねると、ギンジロウはびしぃという音が聞こえるほどにアレシャの顔面を指さした。


「ヤスケは冒険者になる!そんでアレシャちゃんのギルドで雇って貰う!」


 人に指を差すなとアレシャは思った。しかし、それ以前にギンジロウはとんでもないことを口走っていた。アレシャは反射的に椅子から立ち上がる。


「ど、どういうことですか、ギンジロウさん!ギルドでヤスケさんを雇うって、えぇ……?」

「落ち着け、アレシャちゃん」


 さっぱり言葉が脳内で飲み込めていなかったアレシャは上手く質問することができなかった。アステリオスに諭され一旦席につく。

 そんな二人の迫力にギンジロウはすこし気圧されてしまったが、落ち着いて自らの胸の内を語り始めた。


「前々から考えていたことなんだが……ヤスケ。お前はこんな鍛冶屋の手伝いで人生を消費するべきじゃない。お前にはもっと大きなことを成す才能があるんだ。さっきは冒険者になれと言ったが、別にそれじゃなくてもいい。ただ、お前にはこのまま腐って欲しくないんだよ。父親としての俺の素直な思いだ」


 ギンジロウは真面目な顔でヤスケにそう告げる。だが、ヤスケはそれで納得し切れていないようだった。


「別に俺は親父の手伝いを嫌々やっているわけじゃない。俺の意志だ。親父はそんなことを気にしなくていい。それに、俺なしで経営とか親父にできるのか?」

「ああ、経営のことなら問題ない。アルカディー陛下が、これから継続的に武具を納品する代わりに俺への出資を申し出てくれてな。働かなくても食っていけるくらいの金が入ってくる。それで経理の人間でも雇えばいい」

「そ、そうなのか……。いや、俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな」


 ヤスケの反論はサラリとかわされる。もはやギンジロウはヤスケを追い出そうとしているようですらあった。さすがにヤスケの意志をおざなりにするのは間違っているのではないかとアレシャは思った。その疑問を真っ直ぐにギンジロウへぶつける。


「ギンジロウさん、ヤスケさんはやりたいって言ってるんだからそれでいいんじゃないんですか?」

「こいつが心の底からそう思ってるならな。だが、こいつはそうじゃない。俺は覚えているぞ。お前がガキの頃、家族で極東の島を出たあのときのことをな」

「…………」


 ギンジロウの言葉。それを聞いたヤスケはこれまでの反発を沈め、黙り込んでしまった。影の落ちたその表情に対して話を聞くのは躊躇するものがある。だから代わりにギンジロウがアレシャたちへ語って聞かせてくれた。


「俺たちは家族で、俺とかみさんとヤスケの三人で故郷を出た。通商に来てた貿易船に乗せて貰ってな。だが、そこからの旅はひどいもんだった。海は荒れ狂い、船は魔物に襲われた。結果、船はなんとか航海を続けることはできたが、食糧の多くは海に流されちまった」


 長い航海において、食糧の持つ重要性はかなり大きい。食糧を失ったその船には常に死が纏わり付くことになったはずだ。ギンジロウは肉を手に取り大きくかぶりつく。それをしっかりと味わい飲み込むと話を続ける。


「俺たち家族は、頼んで船に乗せて貰ってるだけの穀潰し。食糧を分けて貰ってはいたが、干し肉をほんの何きれとかそんな程度だった。そんな食生活では身がもたねえ。知ってるか?船の上で物が食えねえと、人間は歯が抜け落ちちまって、血まみれになって死んじまうんだぜ」

「そ、それじゃあもしかして……」

「ああ、かみさんは航海中に死んじまったよ。俺とかみさんは夜中にこっそり船室から食糧をくすねていたんだが、あいつ自分の分までヤスケにやってたんだよ。……まあそれじゃなきゃ、まだ子どもだったヤスケは死んじまってたかも知れねえな」


 ギンジロウは酒を一口飲むと、気力の無い顔で笑う。ヤスケは未だ俯いたままだった。アレシャたちはその昔話をただ黙って聞くしか無かった。

 そして、ヤスケはその事件をきっかけに変わったとギンジロウは言う。


「俺の鍛冶仕事の手伝いはずっとかみさんがやっていた。だから、こいつはその代わりになろうとしたんだ。昔は武士——ああ、こっちの騎士みてえなもんだ。それになりたいってずっと言ってたんだが、それもてんで口にしなくなった。……誰がどう考えても自分の気持ちを押し殺してるようにしか見えんだろうが」


 ギンジロウは呆れたように隣のヤスケの頭を叩く。その手には相変わらず力がこもっていた。しかし、その手にはどこか母親が子を撫でるような優しさがあった。

 アレシャたちはその話で彼らの事情を理解することができた。ヤスケは母の死に責任を感じているのだろう。だから、母の分まで自分がギンジロウを支えなければならない、そう考えているのだ。だが、それは父親であるギンジロウにとってはつらいことであった。息子の夢を、意志を奪っていることと相違ないのだから。


「今回の件で俺は確信したよ。こいつは強い。あんたらには及ばないかもしれないが、冒険者の中でも埋もれることはないほどの実力がある。それでずっと先送りにしていた問題を、ヤスケを解放してやるなら今しかないと思った」

「親父……。俺は、俺はそんなつもりじゃなくて……」

「お前、俺を誰だと思ってんだ。お前の親父だぞ?そんな嘘バレバレなんだよ。ずっと昔からな」


 ギンジロウはまたヤスケの頭をはたく。それでヤスケは拳をぎゅっと握りしめた。壊れるほどに握りしめた。高まった感情が溢れ出してしまう前に彼は自分の目を乱暴に擦ると、握りしめた拳をテーブルに叩きつけた。皿やコップがガチャンと音を立てて飛び跳ねる。そして彼はアレシャのことを真っ直ぐに見つめた。


「俺のガキの頃からの夢は、強い男になること。『男なら強くなれ』。それが親父の口癖だったからだ。その夢は今も変わらない。お前達の側なら俺はもっと強くなれるはずだ。親父やお袋を文句なしに守れるくらいにな」

「そ、それじゃあ……」

「ああ。お前達さえよければ、俺をギルドに加えて欲しい」


 ヤスケはアレシャら三人へ頭を下げた。アステリオスとクリームヒルデはアレシャへ視線を送る。判断は任せるということだ。


『私もお前に任せるぞ。……もっとも、答えは決まってるだろうがな』

「うん!こちらこそよろしくお願いします!」


 アレシャがすっと手を差し出し、顔を上げたヤスケはその手を力強く握った。こうして一人、『アルケーソーン』に新たなメンバーが加わった。きっとアレシャにとって力強い仲間となることだろう。


「ありがとうな、親父」

「よせやい。寧ろ俺が謝らなきゃなんねえよ。俺はずっとお前に甘えて縛り付けてたんだよ。悪かったな」


 父親は息子へ向けて頭を下げ、息子は微笑みその肩を軽く叩いた。父親もまた顔を上げ、笑みをこぼす。そんな親子の絆。アレシャはそれをなんとなく羨ましく思ってしまった。

 結局真面目な話になってしまったが、宴は盛り下がること無く夜遅くまで続いた。

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