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魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第二部
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11 朝会議

 アレシャは差し込む朝日で目を覚ました。ふらふらと身体を起こすと、ドアの前に立っていたアステリオスがアレシャが目覚めたことに気づいた。


「おはよう。気分はどうだ?」

「なんか、頭が重い。これって昨日のお酒のせい?」

「まあ、そうだろうな。ほら、水だ」


 アステリオスが容器に入った水を投げてよこし、アレシャはそれをがぶがぶと飲み干す。少しはマシになったが、相変わらず気分は優れない。


「お酒なんて初めて飲んだけど、こんなならもう二度と飲まないよ。そもそも飲んだのはダレイオスさんなんだけど」

『すまんな、つい勢いで……。とりあえず交代するか。お前ではしんどいだろ』


 アレシャはお言葉に甘え、ダレイオスと人格を交代する。多少の気怠さはあったが、その程度ならダレイオスには問題なかった。昔アレクサンドロスにしこたま飲まされ殺されかけたときに比べれば屁でもない。戦いに支障はなさそうだ。

 アステリオスとそんな会話を交わしていると、ギンジロウとヤスケも起き出した。そして、アレシャの隣で眠っているクリームヒルデもゆっくりと目を覚ます。くしくしと目をこする彼女の様子を誰もが黙って見守っていた。


「……あら、おはようございますわ。気持ちの良い朝ですわね」


 四人は露骨にホッした顔をする。ずっと昨日の調子だったらどうしようかと思っていたのだ。それどころか、あれだけ飲んだにも関わらず彼女はケロリとしていた。次の日まで残らないタイプらしい。なら、昨夜の出来事に関する記憶はどうなのだろうとダレイオスは思った。


「あー、ヒルデ。昨夜のことは覚えているか?酒を飲んで……」

「ええ、覚えていますわよ。本当にお恥ずかしいところを……。ですが、今は本当に清々しい心持ちですわ。こういうのを“ふっきれた”というのでしょうか」

「ふっ、そうかもしれないな」


 ダレイオスが小さく微笑み、クリームヒルデも笑顔を見せた。となれば、後は今度こそ『アンブラ』との決着をつけるだけだ。昨夜はヤスケとダレイオスが交代で見張っていたが、襲撃はなかった。相手がどこに拠点を置いているのかは分からないが、策もなく襲ってくるなんて愚は犯さなかったようだ。しかし、今夜からは違う。またギンジロウを殺めんと襲ってくるだろう。彼らは寝起きの頭をすぐさま切り換え、相談を始める。


「まずヒルデに確認しておくが、今は『アンブラ』の連中の気配はないんだな?」

「はい。昨夜はレイヴンの存在だけ察知が遅れてしまいましたが、それもありません。今は周囲にやつらはいませんわ」

「なるほど。お前がレイヴンを見つけられなかったのには何か理由があるのか?」

「単純に術の練度の差ですわ。私の術よりもあの男の方が一枚上手だったということです。ですが、実力の開きがそこまで大きいというわけではないでしょう」


 彼女によると、実力の開きが大きい相手を察知することはほぼ不可能であるらしい。闇に潜むクリームヒルデの存在を『アンブラ』の雑兵が見つけることができなかったのと同じである。しかし彼女は、遅れはしたがレイヴンを見つけることができた。対抗できる可能性は十分あるらしい。やはり彼女の問題は精神面だったということなのだろう。


「そういうことなら遠慮せずに相談できるな。で、あいつらがいつ襲ってくるかという予想だが、俺は今夜だと踏んでいる。王の即位式典は明後日。品評会はその翌日だ。あいつらが品評会の参加者に雇われたのだとしたら、少しでも品評会から離れた日にケリをつけたいところだろうからな」


 ギンジロウがそう口にし、ダレイオスらもそれに同意した。ならば早急に策を立てねばならない。『アンブラ』の術を相手にするのに何も策無しというのは無謀である。レイヴンという男の存在がある以上完封とは行かないだろうが、ある程度こちらに有利な状況に持ち込む必要がある。

 そこで挙手したのはヤスケだ。何か案があるのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。


「昨夜からずっと気になっていたんだが、アレシャ。あんた、時々ダレイオスとか呼ばれてるよな?それに自分の事を『アレシャ』とまるで他人のように呼ぶこともある。どういうことか説明してくれないか?」

「……あっ」


 ダレイオスはそこで自分の失態に気づいた。クリームヒルデも自分がダレイオスと発言していたのを思い出す。二人は顔を見合わせると、素直に話すことにした。それは今回の本題ではないので手早く簡潔に説明すると、二人はおきまりのため息をつく。


「到底信じられんことだが、言ってもしょうがねえか……。とりあえず納得はしたぜ」

「つまり、一年前に俺が負けたのは『魔王』相手だったからってことか……。それは、まあ、なんとも無謀なことをしたな、俺は……」


 だんだんと視線が遠くへ流れていくヤスケをダレイオスが引き戻し、対『アンブラ』の話に戻る。昨夜の相手を見ても、明確な脅威はレイヴン一人だろう。しかし、他の構成員もクリームヒルデ以外が相手をすれば厄介であるのは間違いない。


「昨夜は私一人で何とかしようとしないとお約束しましたが、レイヴンをどうにかできるのは私しかいないというのは事実ですわ。ですから、どうにかレイヴンと純粋な一対一の勝負ができる場が用意できればと思うのですが……」

「まあ、結局はヒルデに頼ることになってしまうか……。しかし、サシの勝負か。つまり他の『アンブラ』の構成員とレイヴンを引き離せればいいわけだな」


 ダレイオスの言葉にクリームヒルデが頷き、それぞれが頭を悩ませる。相手も同じようにこちらの出方を想定して行動しているはずだ。そんな統率された集団をはめるにはどうすればいいのか。中々妙案は浮かばない。窓の外の空に広がる厚い雲は、まるで彼らの気持ちを映し出しているようだった。ダレイオスがその空をぼんやりと見つめていると、同じ瞳を通してそれを見ていたアレシャの頭に一つの考えがよぎる。


『上手くいくか分からないけど……一つだけ思いついたことがあるよ』


 アレシャのその呟きを意外に思いつつダレイオスが期待をこめてその内容を尋ねると、彼女から語られたのもまた意外な案であった。


「なるほどな……。悪くない案だ。だが、下準備が必要ではあるな」

「なんだなんだ。何一人で話してんだ?」


 ギンジロウが身を乗り出して尋ねてくるが、今すぐ伝えるのは少し難しいものだった。一度クリームヒルデとアステリオスの二人と相談することにする。何か事情があるのだと察したギンジロウとヤスケは黙ってそれが終わるのを待つ。ダレイオスは二人にアレシャの案を一通り話し、それぞれに尋ねる。


「どう思う?」

「そうですわね……。私には良い案に思えますわ。可能性は十分にあるかと」

「アステリオスは、どうだ」

「わたしも反対意見は無い。昨夜はあまり役に立てなかったからな。その分働かせて貰おう」


 二人の了承を得て、ダレイオスはギンジロウとヤスケに再び向き直る。そしてアレシャの案を、順を追って説明していった。説明の過程で二人は驚くこともあったが、最後にはその案に了承してくれた。


「いいぜ、乗った。俺の命、お前らに預ける。絶対にレイヴンって野郎を討ち取るんだぞ?」

「俺も尽力しよう。このままやられっぱなしだというのも気に食わんしな」

「ああ、よろしく頼む」


 ダレイオスが感謝の意と共に二人に頭を下げた。クリームヒルデも同じく頭を下げる。その目から昨夜のような怯えは露と消えていた。それは何かを成し遂げる者の目だ。

 作戦の決行は今夜。そこで、決着をつける。

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