表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王と少女のヒロイック  作者: 瀬戸湊
第一部
10/227

9 試験官は魔術がお好き

 ハンター商会冒険者登録試験には原則として現役の冒険者が試験官として付き添うことになっている。担当するのは試験を実施する商会の支部を拠点に活動しているCランク以上の冒険者たちだ。主な仕事は不正がないかの監視、受験生に対処できない強大な魔物によって受験者の命が失われそうになったときの救助だ。

 今回のアレクサンドリア支部が実施した試験は、始まってすでに四日目となる。現段階で不合格になった受験者はおよそ三割だ。パーティも組まずにフラフラしたあげく魔物に襲われた者。強力な魔物に無謀に立ち向かって全滅し、救助された者。水を確保せずにいて衰弱してしまった者。色々な者がいるが、どれも中々間抜けな話だ。

 ただ、こういった輩は毎回いるので試験官たちも慣れっこだったりする。なので、いつも彼らの主な話題はは有望な新人についてだ。


「今回の有望株は二組ってとこだな。戦士、弓士、槍士、魔術師、のバランスはとれているが男臭いパーティ。女の子二人の可愛らしいパーティ。俺は断然後者を推すがな」

「わかりやすいわね、あんた……。私はそりゃ前者を推すわよ。彼女たちがブラッディベアの住処を拠点にしたのは驚いたけど、洞穴の奥で何があったか分からないし、そもそもブラッディベアを討伐したこと自体怪しいし」

「若い子への僻みか?みっともないぞ」

「違うわよ!」


 軽口をたたき合う男女は今まで試験官を何度も務めている。休憩時間にこうやって新人の話をするのがお決まりなのだ。二人が話す男臭い方のパーティは、そのバランスの良さを生かして魔物をコツコツ倒していた。ゴブリンやオークは当たり前。昨日はDランクの魔物であるオーガを討伐したということだ。このまま合格すればDランクスタートは間違いないだろう。

 対する少女二人組のパーティは、試験初日にCランクの魔物であるブラッディベアの毛皮や残骸をその住処から運び出している姿が目撃され、試験官の間で一躍話題となった。

 ただ、ブラッディベアの死体を洞穴で偶然見つけたと考えた方が自然であるし、実際ところそれが真実だろう。それでも彼女らを有望視する声があるのは、超新星冒険者、美少女二人!という煽り文句が男性の試験官たちの心を射止めたからに他ならない。男は美少女という言葉に弱いのだ。ただ、彼女らの実力が中々のものであるのは事実だった。

 監視を担当している試験官によると、昨日ゴブリンを討伐するときに二人は素晴らしいコンビネーションを見せたらしい。ブラッディベアの件がなくとも、有望な新人として名が揚がっていたことだろう。

 ただ、その実力ではブラッディベアの討伐は当然無理だった。試験官の男がため息をつく。


「まあ、正直お前の言うとおりだと思うよ。ブラッディベアってのは、その固い筋肉の持つ防御力が特徴だ。ゴブリン相手の報告を聞く限り、ヤツにダメージなんて与えられんだろうさ」

「でしょ?やっぱり一番の有望株は……」

「私はそうは思わないけど?」


 試験官の女の話に割り込んできたのは、深紅のローブを身に纏った女性だった。

 そのローブと同じ色の長い髪を揺らしている。

 長身に加え、ローブの上からでもわかるほどの魅力的な体型は、男女問わず思わず見とれてしまう美しさだった。


「ああ、ヴェロニカさん。お疲れ様です。で、あの、そうは思わないってどういうことですか?」

「そのままの意味だけど。ブラッディベアを倒せるほどの魔物なんて、私が調べた限りではこの辺りにはほとんどいないわ。それに、そのそれぞれが縄張りを持って干渉し合わないようにしているのよ?あの熊を倒したのは彼女たちだと私は思うわね」

「なるほど……。そう言われると説得力がありますね。さすが現役Aランク冒険者!『魔劇』の二つ名は伊達じゃありませんね!」

「私がどうとか言うより、あなたたちのリサーチ不足じゃない?まぁいいけど」


 ヴェロニカはそう言ってため息をつく。

 ヴェロニカは最近Aランクへ昇格した期待の若手だ。その容姿と魅せる戦い方からファンも多い。主に男の。彼女は特定の拠点やパーティに所属せず、自由気ままな活動をしていた。そんな人間がなぜ試験官などしているのか。冒険者には商会から直接依頼がくることがあるのだが、ヴェロニカはそれをことごとく無視していた。

 気が乗らない仕事は受けないのが彼女のやり方なのだ。そんなことを続けていたところ、アレクサンドリアの商会に立ち寄ったところを職員に捕獲された。Aランク冒険者には二つ名が与えられ、いわば商会の顔となる。つまり、それだけの責任が伴うこととなるのだ。仕事をサボるなんて許されるはずがない。商会の職員から、このまま続ければ除名するぞと脅されて嫌々ながらも試験官の仕事をすることになったのだ。


「じゃ、私はそろそろ仕事だから。こっちはよろしくね」

「はい、お気をつけてー」


 試験官の男女二人に手を振ると、ヴェロニカは気分良く仕事場へ向かっていった。あんなに嫌がっていたのに、なぜか。更正したというのか。違う。彼女はできるなら今も働きたくない。人間、好きなことだけしていたい。ならなぜか。今日の監視相手が例の少女二人組だからだ。

 試験二日目、彼女は森を移動している途中で噂の少女の拠点をみつけた。入り口は土魔術で巧妙に隠されていたが、試験開始前に聞いていたブラッディベアの住処と場所は一致していたので、彼女はそこに気づけたのだ。噂は本当なのか少し気になっていまい、彼女は魔術で入り口をこじ開けて中に入った。

 そして、言葉を奪われた。魔術によって洞穴は素晴らしく変貌していたのだ。素人目にはただ住みやすい空間くらいにしか思えないかもしれない。ただ、魔術に精通するものからすれば、そこにとてつもなく精密な技術が用いられていることがわかった。

 彼女は魔術というものを愛していた。魔術というのものに美を感じていた。ただ、彼女の知る魔術の美は咲き誇る大輪の花のような晴れやかな美しさだった。

 しかし、この洞穴の細部に用いられた技術、無駄のない設計、主張は控えめだが決して地味ではない装飾。どれも絢爛な美しさなどなかったが、彼女は自分が見失っていた美の本質と言えるものをそれらに感じていた。

 極東の島国にはワビ・トゥ・サビと呼ばれる美の形があるという。質素な中にある美しさということらしい。きっとそれに近いものなのだろう、と彼女は思った。そして、これを作った魔術師にぜひ会いたいと思った。

 しかし、試験官は受験者と不用意に接触することは禁止されている。だから、彼女はその機会を待っていた。それが、今回の監視の仕事というわけである。やる気がでるわけだ。 

 

 少女の拠点へ到着したヴェロニカはじっと様子を伺う。少しすると、二人の少女が洞穴から出てきた。白髪に瑠璃色の目をした少女とエルフの少女だ。そして、白髪の少女が洞穴に向かって手をかざし、魔法陣を展開せずに洞穴の入り口をあっという間に閉じてしまった。

 その姿にヴェロニカは興奮する。魔法陣無しの発動ができるなら、魔法陣を用いたときはいったいどれほどの魔術を使うのだろう、どれだけ美しい魔法陣を描くのだろう、と。声をかけたいという衝動に駆られる。しかし、仕事中だ。不用意な接触はできない。


「しょうがないわ……。今はなんとか見て学ぶしかないわね」


 ヴェロニカはため息をこぼし、二人が森を歩くのを遠目から見守ることにする。

 しかし、その思惑すら上手くいかなかった。白髪の少女はいつまで経っても魔術を使おうとしなかったのだ。途中、ゴブリンやオークに襲われることがあったが、格闘術だけを用いて戦っていた。魔術を使えば低ランクの魔物など一掃できるというのにそれをしなかった。

 なぜなのかと、ヴェロニカは思考を巡らせてみる。そして思い至ったのは、至極単純な答えだった。これから冒険者になろうという少女が、自分の持つ秘伝をそう易々と他人にみせる訳がないのだ。彼女が魔術を使わないのもそうだからに違いない。

 だが、この二人の少女はとても気があっているように見える。おそらく、冒険者になった後も二人でパーティを組むことになるだろう。なら、なぜこのエルフの少女にも魔術を見せないのか。

 そして気づいた。この少女はヴェロニカの存在に気づいているのだと。魔術の中には感知魔術と呼ばれるものがある。

きっと、それで私の存在を察知し、魔術を見せないようにしているのだ。そう、ヴェロニカは考えた。

 そして、肩を落とす。魔術を見せてもらえない。それに、そこまでして隠そうとしているのなら、頼んだところで教えてもらえるはずがない。

 なんだか泣きそうになったところでヴェロニカは仕事に戻る。モチベーションはだだ下がりだったが、仕方ないので頑張るのだ。


 だが、そんなゆるゆるした思いで仕事ができる状況ではなくなってしまう。

 突如響き渡った咆哮が森を激しく揺らした。

感想などお気軽にどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ