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琥珀の涙  作者: 紫木
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物語と現実

ある日少女は本を読んでいました。

児童向けに描かれた挿絵に、ひらがなで綴られた英雄譚。

片手には剣を、心には勇気を持ち、悪しき魔王を退治します。

その本を読み終えると、彼女は訝しげな顔で、まるで理解出来ないと言うのです。


私は彼女の傍によると、その本の内容を今一度確認します。

極めて普遍的な、それでいて妄想に溢れた勇者がそこには描かれています。


彼女は私に問いかけます。

この本は一体何を訴えたかったのかと。

なるほどそれは興味深い。児童書には未来を促す希望と偽りが溢れている。

ならばと彼女はページを捲ります。

魔王を裁くその姿は断罪を肯定している。そこには欠片ほどの慈悲も無いのねと。

悪を肯定する訳では無いが、罪を許容する訳にはいかない。罪には等しく罰が必要だ。

彼女は言葉を変えて問い掛ける。

誰かを守る為ならば、誰かを犠牲にしても良いのかと。

それは深く、とても彷徨う命題だ。


少数を切り捨てて、多数を生かす。それが根本であり、不変的な原初の理。

しかし生まれた瞬間に自ずと少数に分類される者も少なくは無い。そう、決して少なくは無いんだ。

だからこそ人は正義の狭間で葛藤する。自分の行いは本当にこれで良かったのかと。

彼女が迷い無く執行した英雄に疑念を抱くのも無理は無い。


私は彼女に問いかけます。

君ならばどうしていたのかと。

彼女は言葉に詰まりながらもこう答えます。

私ならば世界そのものを否定すると。

言いえて妙だと感じながらも、次の言葉を待つ事にします。

仮に世界を堕とす魔王が現れたからといって、それを滅ぼす英雄になろうとは思わない。

目の前にある幸せを享受し、ささやかな日常を短く過ごすだけで十分だと。

それでは君は隣人に降りかかる不幸を見て見ぬ振りをするというのだろうか。

いいえ、見て見ぬ振りでは無く、知っていながら手を差し伸べたりはしないだけよと。


どうしてこんなに歪な考え方をする様になってしまったのでしょうか。

共に生活をする者としては、些かの責任を感じざるを得ません。

しかし、それで良い。自己を守る事を最大限に考慮し、行動する姿は理想的な生き方だ。

すると彼女は呆れた様に口を開きます。

だからあなたを放っておけないの。では、あなたならばどうしていたのかと。


きっと、あなたはかの英雄と同じ様に戦地に行くのでしょうねと。

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