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琥珀の涙  作者: 紫木
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ここにいる理由

ある日少女は家族に裏切られました。

元より信頼も親愛も其処には無く、少女は極自然に一人で生きる事を余儀なくされました。

しかし、少女は少女故にその手に掴めるものなど限られています。

彼女の歩むべき道、いや、歩く事が出来る道はそう多くはありません。


私は偶然そんな少女と出会い、共に生活をする事に決めました。

共にご飯を食べ、共に雑踏を駆け、共に夜を過ごしました。


幾年の月日が経ち、少女は出会った頃よりも沢山の道を選べるようになりました。

空を翔けるには小さすぎる羽かもしれませんが、両の足はまごう事なく地面を踏みしめる力を持っていたはずです。

しかし少女は何時まで経っても、私の下から立ち去ろうとしません。


時に彼女はこう言います。

あなたと出会っていなかったら、私は今頃どうしてたのかなと。

考えるまでもありません。もしもの世界などこの世には存在しない。その世界は自分の歪んだ妄想に取り憑かれただけの偶像だ。

重ねて彼女はこう言います。

あなたが私を見捨てたら、私はどんな気持ちになるのかなと。

それも考えるまでもありません。私が彼女を見捨てる事なんて有り得ないのですから。

それでも彼女は納得してくれません。

あなたが私を見捨てないという保証は何処にも無い。それは信じる信じない以前の命題、そこには真実なんて言葉は無いはずだと。

楽観的希望を排除して、希望的観測すら意にも介さない。彼女がこうなった一因は間違いなく私にあるのでしょう。

私は私を含むすべての人間を本当の意味では信頼もしていませんし、それに対する罪悪感も孤独感も持ち合わせてはいません。

長年共に生活をした彼女にはそれが透けて見えてしまっていたのでしょう。

だからこそ彼女は私の言葉に疑念をもってしまう。でもそれでいいのです、私は信じるに値しない人間だ。

利用価値があると言うなら存分に利用して貰えればいい。騙したければ騙してしまえばいい、結局私は何も信じていないのだから。


彼女は私の言葉を聞くと酷く悲しそうな目をして背を向けてしまいます。

ならばあなたは何の為に生きているのと。

その答えは残念ながら持ち合わせていません。強いて今の望みを挙げるならば、彼女が笑顔で私の下から去っていくのを見届けるくらいでしょうか。

彼女はどこか諦観した様な、絶望した様な笑顔を私に向けてこう言います。

それではあなたが救われないと。

元より救いなど求めてもいなければ、存在すらも信じていません。私には理解出来ない言葉です。

彼女の笑顔は変わりません。涙を流しながら私に言葉をぶつけてきます。

私がこの場所から去ってしまったら、あなたはきっと涙すると。

未来予想が出来る訳でも無く、未来観測が出来る訳ではありませんが、きっとその時、私は涙するのだろうと思いました。


だから彼女はこう言いました。

私があなたを幸せにしてみせる。あなたが悲しまない様にずっと傍に居続けると。

だって、あなたを理解できるのは私しか居ないんだものと。


どうやら彼女が歩き出す日は、まだ先になりそうです。

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