2場前編 昨日と少しだけ違う朝。
凛は朝早くに目が覚めた。
昼過ぎまで寝ていようと思ったのに、事務所から痩せるように言われ、嫌々やっていたマラソンが習慣付いていることに布団の中で笑った。
よし。行こう。
いつものスポーツウエアーに着替え、iPodを持って、家族が起きないように玄関を閉めた。
少し薄暗い空…玄関の前で深呼吸する。
朝の澄んでる空気胸の中にたくさん入ってきた。空気を吐き出した瞬間。
肩に乗ってた重い何かが無くなったように感じた。
軽いストレッチをして、iPodから今の気分に合う曲を選んで走り出す。
体が軽い。昨日までなんとなく走っていた道にタンポポが咲いていることにも桜が少し散り始めていることにも初めて気がついた。
昨日までこんな事に気がつかずに走ってたんだ。
左手に朝日が登る。毎朝同じ場所ですれ違う老夫婦に初めて挨拶をした。
おはようございます!
2人とも優しい笑顔で会釈する。
おじいさんは右手で杖をつき、おばあさんは左手でマルチーズの赤いリードを持っていた。互いに空いた手を固く握って歩いている。その前をマルチーズがちょこちょこ歩いていく。
あんな素敵な夫婦になれたらいいな。
潤は私の事どう思ってるんだろう?
結婚か…
周りの友人たちもどんどん結婚していっている。
子供も産まれ、今年の年賀状は干支よりも、結婚式の写真や子供の写真の方が多かった。
結婚。子供の時は簡単に出来ると思っていた。
夜景の綺麗な所で大好きな彼が跪いて【僕と結婚して下さい】と言う…
…潤がやる訳ないか。
お互いに我が道を行くタイプの人間。5年付き合っていて、結婚の話は1度もない。
自分から言うのも…やっぱりプロポーズは男性からして欲しい。
そんな願望を抱きつつ、潤に事務所を辞めたことを伝えてないことに気がついた。
川沿いに出る。空は完全に明るくなっている。雲一つない青空。
川沿いは、走りやすいように道が整備されているので同じように走ってる人、犬の散歩をしてる人、広い公園で体操してる人、カモにエサをあげている親子。
たくさんの人が思い思いに朝を過ごしている。
コンビニの駐車場でUターンをした時、中のポップが目に入る。
【限定ロールケーキ登場】
いつも我慢してた。痩せる為に走ってるのに…
でも、今は…食べれる!
気がついたらレジの若いお兄さんに限定ロールケーキを出していた。
クリーム増量中も素敵な響きだ。
家に帰ると母がラジオから流れる音に合わせて台所でラジオ体操をしていた。
おはよう。
おはよう。ロールケーキ?
そう。限定だって。
あんたが珍しいね。
今日から少しの間家にいるから、その前祝い。
冷蔵庫に限定ロールケーキを入れて、麦茶を取り出す。
氷をコップに入れて麦茶を入れた、氷が涼しげな音を出す。
のんびりするといいよ。その変わり家の事もやってね。
はいはい。
コップを持って自分の部屋へ。
ウェアを脱いで、シャワーを浴びる為に洋服を持って下に降りる。
鼻歌を歌いながら母が朝食を作っている。
のどかな1日の始まりだ。
シャワーを出す。冷たいタイルに当たって蒸気が出る。
お風呂場が暖まる間、鏡の前で服を脱ぎ洗濯物をかごの中に入れる。
ふと、赤ちゃんの服が目に入る。
お姉ちゃん帰ってきてるんだ。のどかじゃ無くなるなこれは。
シャワーを浴びながら、今日一日何をするか考える。
髪を洗ってる最中にふと、鏡を見る…
あっ、今日は髪を切ろう。