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少女は小さなビルの屋上で、死人のように濁り作り物のように透き通った目で、硬化アクリル製の継ぎ目の無いドームの、その向こうの弱々しく瞬く星を見つめていた。
少女の微笑を浮かべた顔からは、感情を推し量ることは出来ない。
「懐かしいね」
少女は不意に呟く。相手はいない。只の独り言だ。通信機などの電波発信も行われていない。
少女は縦に並べられた、幾つかの室外機の前に立っていた。そこからは生温い風が吐き出されている。湿っていて、不快な風だった。
「そっか。もう、一年なんだね。サラトくん。早かったね」
少女は革の鞄の中の、一人の人形に語りかける。
「懐かしいね。嬉しいね。こうやって、二人でゆっくり出来るだなんて。いつぶりだろうね」
もちろん、人形から答えが返ってくるということはない。
少女はコンクリートの屋根に直にすわり、包帯で巻かれた腕を曲げ、鞄から人形を取り出す。人形の栗色の髪が室外機からの風を受け揺れる。
「ごめんね?こんなところで。レストランに行くお金は無いから……」
少女は手に持った人形を豊かな胸元に抱き寄せる。少女の目からは、赤い涙が流れる。
「でもね、嬉しいんだよ……。こうやってさ、二人でさ……。嬉しいよぉ、サラトくん……」
顎を伝い、滴り落ちた涙はコンクリートの屋根に吸い込まれ、黒い染みだけを残す。
「えへへ、馬鹿だね。私。もうさ、涙なんて出ないのに。代わりに黒血を流して。ふふ、大好きだよ、サラトくん」
再び微笑を浮かべ、少女は星空を眺める。
眼下に広がる、光煌めく街に薄められた空を。