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青春  作者: 優陽
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ベランダ

9月。長かった夏休みが終わり、ようやく新学期がスタートしたその日、俺は始業式後の騒がしい教室内で待機しながら、孤独を感じていた。教室の最上列、ちょうど廊下側と接した座席だった為か、久しぶりの学校が楽しくて仕方ない連中の為なのか、とにかく煩くてしょうがないので、逃れるようにベランダへ移動した。

「はぁ〜」

 と思わず溜め息をした。

「ハァ〜……いい天気だなぁ〜。俺らの心もこれくらい澄み切っていたらいいのにな。なっ、シンジ?」

「ぶっ」

 コ……こいつ……

 休み明け早々、こんなにキザで(それも似合ってない)こんなにおもしろいことを言ってくれるのはコイツしかいない。思わず吹き出して笑ってしまった。

「そうだなぁ〜アハハ」

 こんなに素直に笑う俺は珍しい。もっとも感情に反して笑う事はいくらかあったが。

 とにかく俺の本来の笑い方はシンプルで、わざとらしいくらいの笑い方だ。アハハ。

「久しぶりだねー」

 ニコニコしながら喋りかけてくるアイツ。今さっき“キザな事”言ったくせに顔はもうニヤケテやがる。いや“可笑しな事”の方が正しいな。笑うのも無理ない。現に俺もニヤケテいる。    

 しかし、本当の理由は、誰かさんが可笑しな事を言ったからというのではない。夏休みが明け、1ヶ月振りにダチと会えたのが嬉しいからだ。お互いそこら辺はよく理解していただろうと思う。


 晴れ渡った青空の下、静かでゆったりとした時間を過ごす。そして長らく振りの再会の照れがありながらも、また控えめに笑い合った。俺が好きなのはこの時間なんだ。いつか彼が言った言葉……いつだっただろう。しかし今はなんとなくわかる。過ぎてしまえば思い出でしかないが、きっとこうやって過ごした日々は色褪せることなく根強く残るであろう。俺らにとってベランダは最高の居場所だ。あんな狭い所を居場所にするのも癪だが、広がる街並みや満遍なく続く大空と直接繋がっているような気がしてならない。ほら、手を伸ばせばそこまで届く。みんなも同じようなことを思っているのではないだろうか。そして俺はこの時間が好きだ。

 しかし口からは対極的な言葉が出た。

「学校めんどくせぇなぁ〜」

「まだ2学期始まったばっかりじゃんかぁ……」

「そうだけど……」


 そうだけど……この時間を失うのは怖い。少ない居場所がさらに消えていくのはイヤだ。居場所なんていうのは簡単に作れるものかもしれない……。だけど、失うのが怖いんだ。最初から居場所のない人間や固定化された居場所が存在する人間には分かるまい。絶えず続くのは絶望。皆が同じように恐怖する孤独と闇。

 “閉塞された空間に光は差さない”妙な哲学(といえるのか?)だが俺はそんな考え方しかできない。この哲学や考え方からは他人とは違う優越感と他人とは違う疎外感しか見出せなかった。一時の優越感なんかより疎外感の方がよっぽど大きかった。

 今一度考える。“閉塞された空間に光は差さない”この場合の閉塞は心の閉塞。心を外に向けることにより光が差す。そういったこと。自分中心に考えているとどうしても心を閉ざしてしまう。一つの事に熱中し過ぎるのもいけない。何かしら趣味を持ったり心の置ける場所を作る。それも大事なんじゃないか?


 立派な考えだと思う。だが俺は閉塞を嫌いすぎた。我慢が足りなかったのか?

俺にとって学校や教室は閉塞だった。社会そのものも閉塞と感じた。孤独や恐怖よりも。

自由人の協奏曲がある……。自由人に憧れる者は多い。自分もそうだ。だがそういった思想を極端に展開する人は少ない。そんな数少ない人の中に俺はいるのかもしれない。事実そんな思想を持っていたし、それを個性と捉え羨む人もいた……。


「そうだけど……家で歌ってる方が楽しいしねぇ〜」

 と気まぐれを発信。俺が歌うのが好きな事はアイツも知っているので

「まぁお前はそうだな」

 と適当なことを言った。続けて

「一曲、シンジ君に歌ってもらいますかねぇ〜」

 と、またも“適当”なことを言う。

 ココでは歌うことは“適当”なのだ。それが日常であり、心の風景であり、コミュニケーションっていうやつだ。青のりがついた歯をチラ見せする彼(気付いていない)に冷笑を浮かべながら軽く返事をする。

 やがて流れ出すメロディは「これは大旋律の序章に過ぎないよ♪」と告げる。そして彼方此方にあるスピーカーからチャイムの音が流れ出し「休み時間は終わりだよ♪」と急かし始めた頃には「カズヤ〜!シンジ〜!ベランダへ出るなぁ〜!!」と、眼鏡をかけた年配の女性担任がやって来て注意する。

 それが日常だ……。流行りの曲を歌う時もあれば好きなアーティストを歌う時もあるが、ここで過ごした事は一生変わらぬ思い出であり、漠然とした不安を持ちながらも今の俺にある逃げ道は趣味である音楽だけだな、と再認識する。

 中学校生活最後の年、3年間クラスが一緒で親友のカズヤと、こんな思い出を作れて良かった。澄みきった青空の下、澄みきった歌声が響く……


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