第20話:勝負は、最初から決まっていた
俺の新しい街の門前には、今や世界中から商人と冒険者が押し寄せていた。 俺が書き換えた「新しい基準」は、もはやこの国の経済を回す中心地となっている。
「……レイン。王宮から、ギルド本部の監査官たちが到着したわ」
傍らに立つ王女が、凛とした声で告げる。 彼女の言葉遣いは以前と変わらず丁寧だが、その眼差しには、無能な者たちを冷徹に見極める「基準」が宿っていた。
俺は黒いパーカーのフードを被ったまま、椅子に深く腰掛けて演算機を閉じた。 部屋に入ってきたのは、逮捕されたギルマスの後始末を任された、ギルド本部のエリートたちだ。彼らはかつての強気な態度はどこへやら、顔色を失い、書類の束を震わせている。
「レイ、レイン殿……。折り入ってご相談が。……例の物流管理表ですが、どうしても計算が合わないのです。このままでは、王都への食料供給が……」
「……ああ、あれか」
俺は窓の外で、完璧な効率で動き続ける街を眺めた。
「あれは『管理表』じゃない。俺が現場に合わせて毎日書き換えていた『予測値』だ。……あんたたちのマニュアルには、天候の変化も馬の体調も入っていないだろ? だから、俺がいなくなれば数字が狂うのは当たり前だ」
「そ、そんな……。では、どうか本部に復帰して、その手法を教えていただけないでしょうか。今なら、ギルドマスター以上の待遇を約束します!」
必死に頭を下げるエリートたち。 かつて「規律違反の無能」と俺を追い出した組織が、今や俺の「落書き」なしでは一日も持たないことを露呈していた。
「断る。……あんたたちはまだ、数字の裏にある『現実』が見えていない。そんな組織に戻っても、俺の時間が削られるだけだ」
俺は淡々と、最後通牒を突きつけた。
「……レイン殿の仰る通りですわ」
王女が静かに歩み出た。その気品ある立ち振る舞いに、監査官たちが息を呑む。
「ギルドは、現場の声よりも自分たちの『体面』と『数字の整合性』を優先した。その結果が、この醜態です。……あなたたちには、もうレインに話しかける資格すらありませんわ」
「お、王女殿下……!」
監査官たちはもはや、一言も返せなかった。 彼女が守ろうとしているのは俺の才能であり、同時に、この国の新しい未来なのだ。
「……さて。話は終わりだ。俺の貴重な計算時間をこれ以上奪わないでくれ」
俺は椅子に深く腰掛けたまま、彼らに出口を指し示した。 もはや、彼らの顔を見る必要すらない。
「お、お待ちください……! これでは、ギルドは本当に……!」
「計算はもう終わっていると言ったはずだ。……あんたたちが、自分たちの『無能』に気づかなかった時点でな」
俺の淡々とした宣告に、彼らは力なく項垂れ、逃げるように部屋を去っていった。 静寂が戻った執務室で、俺はゆっくりと立ち上がる。
俺は窓際まで歩き、パーカーのポケットに手を突っ込んで、眼下に広がる街を見つめた。 そこには、俺が書き換えた「新しい基準」で脈動する、光り輝く都市の姿があった。
「……レイン。これで、本当に新しい世界が始まるのね」
隣に並んだ王女が、俺の横顔を覗き込むようにして微笑む。 彼女の瞳には、かつての傲慢さはなく、俺が切り開く未来への確信だけが宿っていた。
「勝負は、最初から決まっていたんだ。……数字は、決して嘘をつかないからな」
俺の視線の先には、この街の境界を越え、さらに広がっていく膨大な「正解」が見えていた。 無能と蔑まれた元補給係の、本当の「やり直し」は、まだ始まったばかりだ。
【第一部・完】
【作者より:第一部完結のご挨拶】
最後まで読んでいただき、ありがとうございます! これにて、第一部「ギルド解体編」は完結となります。
追放されたレインが、自分の「普通」で世界を塗り替えていく姿を楽しんでいただけたでしょうか?
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次回、新章スタートをお楽しみに!




