第19話:俺の「普通」は、国の「異常」らしい
俺の「最適化」によって、この街はもはや王都を凌ぐ活気を見せていた。 かつての物流拠点は「俺の計算」という新しい心臓を得て、一秒ごとに富を生み出し続けている。
「……レイン。最後に、もう一度だけ聞かせて」
王女が、俺の黒パーカーの袖を震える指で掴んだ。 彼女の瞳には、尊敬を超えて、もはや恐怖に近い畏怖の色が混じっている。
「王宮へ来れば、あなたは歴史に名を残す賢者になれる。富も、名声も、……私の隣という地位だって。なぜ、それを拒んでまで、この小さな街に執着するの?」
俺は演算機を操作しながら、不思議そうに彼女を見た。
「王女様、あんたは根本的な計算違いをしているな。……俺は執着なんてしていない。ただ、ここが『一番効率がいい』から選んでいるだけだ」
「効率……?」
「ああ。王宮のシステム(決まりごと)は、古くて重すぎる。あんな場所で俺の『普通』をやろうとしたら、国中の役人が過労で死ぬか、あるいは理解できずに俺をまた追放するだろ。……だったら、俺がゼロから『正しい基準』を敷いたほうが早い」
「ゼロから……って、まさか、ここを新しい『国』にでもするつもり!?」
王女が声を裏返す。 俺は、パーカーのポケットから一枚の図面を取り出し、彼女に渡した。
「国なんて大層なものじゃない。ただの『最適化ゾーン』だ。……ほら、これ。昨日の夜、寝る前に少し考えておいた『新・物流都市』の完成予定図だ」
王女がその図面を広げた瞬間、彼女は息を呑み、その場に膝をついた。
そこには、既存の常識ではあり得ない建築構造、魔力を動力源とした無人の運送ライン、そして、何十万人もの人間が「ストレス・ゼロ」で生活できる、完璧に計算し尽くされた都市の姿があった。
「……あり得ない。こんなもの、神話に出てくる理想郷じゃない……! これを、昨日の夜に、ひとりで書いたというの……?」
「やれやれ。ただの数列パズルだ、こんなもの。……何かおかしいか?」
俺は本気で首を傾げた。 各地点の距離と、人口密度と、消費エネルギーを逆算すれば、この形以外にあり得ない。 俺にとっては「当たり前の答え」を出しただけだ。
「……あなたは、やっぱり、私たちが同じ次元で語っていい存在じゃなかったのね」
王女は、力なく笑った。 彼女が守ろうとしていた「国家」という枠組みすら、俺の「昨日の落書き」に負けたのだ。
「いいだろう。……なら、私も決めたわ」
「……何をだ」
「王宮には戻らない。……あなたのその『基準』が、世界をどう変えていくのか。一番近くで記録させてもらうわ。……拒否しても無駄よ。私はこの街の『視察役』として、ここに居座ることにしたから」
王女は、いたずらっぽく、だが確固たる決意を秘めた目で俺を見た。
(……計算外だな。王女という高コストな存在を近くに置くのは、効率が悪いんだが)
まあ、いい。 彼女がいれば、王宮からの面倒な干渉を「公式に」弾くことができる。 それも含めて、コスパとしては悪くない。
「勝手にしろ。ただし、俺の邪魔はするなよ」
俺は再び、演算機に向き合う。 世界が俺をどう呼ぼうが、俺はただ、俺の「普通」を積み上げていくだけだ。




