第17話:王宮なんて、効率が悪いだけだ
王女が去った翌日。 街の様子は一変していた。
俺の商会の前には、高級な馬車が列をなし、近衛騎士たちが警備に当たっている。 昨日、俺がたった一文字修正した「国家予算」が動き出し、国中の銀行や商館に金が流れ始めたからだ。
「レイン! お願い、もう一度だけ考えて! 王宮に来てくれれば、あなたを『最高国家顧問』として迎えるわ!」
リリアーネ……王女が、昨日よりもさらに必死な顔で俺に食い下がっている。 彼女の後ろでは、王宮から派遣された大臣たちが、床に額を擦り付けるようにして控えていた。
「昨日の修正だけで、止まっていた物流の8割が回復したんです! あなたは国の救世主だ!」 「どうか、その神の頭脳を王宮のために……!」
俺は演算機を叩きながら、顔も上げずに答えた。
「断ると言ったはずだ。王宮なんて、無駄な会議と形式ばかりで効率が悪い。……そんな暇があったら、俺は自分の街の『最適化』を始める」
「街の、最適化……?」
王女が呆然とした声を出す。 俺は演算機の画面を、窓の外に向けた。
「この街の区画、物流動線がゴミだ。だから今朝、商人たちと協力して、すべての建物の配置を『計算通り』に組み替える指示を出した」
「建物の配置を……? そんなこと、何年もかかるはずじゃ……」
その時だった。 地響きのような音が聞こえ、窓の外で巨大なクレーンや魔力重機が一斉に動き出した。
俺が昨日、商人たちに渡したのは単なる「指示書」ではない。
「最小の労働力で、最短で建築を終わらせるための超効率工程表」だ。 誰が、どのタイミングで、どの石を置けばいいか。 数千人の作業員の動きを、俺が秒単位でパズルのように完璧に組み上げたものだ。
「な、何なの、あの速度は……!? 建物が、まるで魔法みたいに次々と組み上がっていく……!」
「魔法じゃない。ただの『段取り』だ。……やれやれ、これくらいの効率化、素人でも思いつくと思ってたんだが」
俺が鼻で笑うと、王女も大臣たちも、もはや言葉を失って震えていた。 彼らが「数十年かかる」と思っていた都市開発を、俺は「一週間」の工程に圧縮して見せたのだ。
「……レイン。あなたは、人間なの?」
「失礼だな。俺はただ、計算ミスが嫌いなだけだ」
俺は立ち上がり、パーカーを羽織った。
「王女様。国を救いたいなら、王宮でふんぞり返ってないで、俺の作った『新しい基準』を学べ。……あ、ついでにこれ」
俺は一枚のメモを彼女に放り投げた。
「王宮の近衛騎士のシフト表だ。今のままだと3日後に警備に穴が開く計算だぞ。……直しておいたから、ありがたく使え」
「…………っ、ありがとう……」
王女は、もはや反論する気力すらなく、そのメモを宝物のように抱きしめた。 かつては俺を「無能」と呼んだ世界が、今や俺の「落書き」一つで救われている。
その光景を、俺は冷めた目で眺めていた。 勝敗は、最初から決まっていたんだ。




