第14話:新しい「基準」の誕生
ギルドが「犯人探し」と「責任転嫁」に明け暮れている間、俺は商会の地下倉庫にいた。
「レインさん、準備は整いました。街の主要な商人たち、32名。全員があなたの指示を待っています」
若き商人が、興奮を抑えきれない様子で報告してくる。 俺の前には、古い帳簿ではなく、魔力によって連結された「動的な流通盤」が展開されていた。
「よし。今この瞬間から、冒険者ギルドを通さない『民間物流網』を起動する」
俺は空中に指を滑らせた。 魔力が線となり、街の地図上に無数の新しい動線を描き出していく。
「ギルドのマニュアルは、安全マージンを取りすぎて効率が死んでいる。俺が今から教えるのは、俺の演算による『極限の最適解』だ」
俺は商人たちに向かって、断言した。
「馬車の速度は規定の1.2倍に。休憩ポイントはここ。荷物の積み方は重心を左に3度傾けて。……そうすれば、今の荒れた街道でもマニュアルより早く、確実に届く」
「そ、そんな細かいことまで……? しかし、それでは規定違反でギルドに――」
「ギルド? まだあんなゴミの顔色を伺っているのか?」
俺は冷たく言い放った。
「数字は合っているのに飯が食えない組織と、数字は狂っているが腹がいっぱいになる俺。商売人なら、どちらが『基準』にふさわしいか分かるはずだ」
商人たちは、顔を見合わせた。 そして、ニヤリと笑った。
「……違いない。俺たちは、レインさんの数字に従います!」
翌朝。 奇跡が起きた。
昨日までパンの匂い一つしなかった市場に、焼き立てのパンが山積みになった。 止まっていた荷車が次々と街に入り、品薄だったポーションが、ギルドの販売価格の半値で露店に並び始める。
「な、なんだこれは!? どこから仕入れた!」
パトロール中のギルド職員が、驚愕して叫ぶ。 それに対し、商人はせせら笑った。
「ああ、これは『レイン基準』で届いた荷物だよ。ギルドのマニュアルと違って、本当に届くんだ。凄いだろ?」
「バカな……! ギルドを通さない流通など、認められるはずが……!」
「認めないなら結構だ。うちはもうギルドに会費を払うのも、承認をもらうのもやめるからな。……おいみんな! 今日からこっちが本物の『市場』だぞ!」
街全体が、レインの引いた新しい線に沿って動き始めた。 ギルドという「機能不全のシステム」をバイパスし、新しい血液が流れ出したのだ。
一方、その頃。 冒険者ギルドの執務室では、ギルドマスターが絶叫していた。
「なぜだ!! なぜ物流が回復している!? 私の帳簿では、まだ回復まであと一週間はかかるはずだぞ!」
「報告します! 商人たちが一斉にギルドを脱退し、レインという男の個人商会と契約を……!」
「お、追い出せ! そんな勝手な商売、法律で――」
「無理です! 街の自警団も、住民も、食べ物を運んでくれるレイン側についています。……ギルドは、完全に孤立しました」
ギルドマスターの目の前にある「正しい数字」の並んだ帳簿。 それが、今やただの「無価値な紙屑」になったことを、彼はまだ認めたくなかった。
俺は、活気を取り戻した市場を遠くから見つめていた。
「さて、次は……。ギルドそのものを『不要なコスト』として計上してやろうか」
俺の「俺」という基準が、この世界の真実を書き換えていく。 勝負は、最初から決まっていた。




