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第11話:その会議は、誰のためのものか

ギルドの大会議室は、異様な熱気に包まれていた 。 集められたのはギルド上層部、街の有力な商人たち。 そして、かつて俺を追放した最強パーティのリーダー、ゼノン。


「――静粛に!」


壇上で、ギルドマスターが声を張り上げた。

その表情には、隠しきれない焦りが滲んでいる。商人たちの突き上げが、もはや無視できないレベルに達しているからだ 。


「物流の混乱、その原因が判明した。今日はその元凶をここに呼んでいる」


ギルドマスターの合図で、俺は二人の警備兵に挟まれ、部屋に入った。罪人のような扱いに、会場がざわめく。だが、俺はパーカーのフードを被ったまま、冷めた目で正面を見つめていた。


「そこにいる元補給係・レイン。彼が在職中に残した『不透明な処理』が、今回の混乱の引き金だ!」


一斉に視線が突き刺さる。ギルドマスターは、事前に打ち合わせ済みであろうゼノンを立たせた。


「……ああ、間違いない」


ゼノンが、勝ち誇ったような顔で俺を指差す。


「こいつはマニュアルを無視し、現場を混乱させていた。ポーションの数を勝手に変えたり、余計な細工ばかりして俺たちの足を引っ張っていたんだ」


「聞いたか! これが現場の声だ!」

ギルドマスターが畳み掛ける。


「レインは有害だったのだ! 彼を追放し、マニュアル通りに戻した私の判断は正しかった! 現在の混乱は、彼の毒が抜けるまでの通過儀礼に過ぎない!」


完璧なシナリオ。 だが、そこには決定的な「計算違い」があった。


「ーー終わりましたか?」


俺の静かな声が、騒がしい室内を冷やした。俺は懐から、数枚の報告書を取り出した。

ギルドマスターが「承認印」を押した、偽りのない公文書だ。


「ゼノン。先月の湿地帯遠征。あなたは『解毒ポーションの数が合わず、イライラした』と言いましたね」


「あ、ああ! そうだ! 規定の三本より多かったり少なかったり、管理がデタラメだっただろ!」


「ーーあの日の湿地帯は、季節外れの繁殖期で毒虫が大量発生していた。マニュアル通りの三本なら、あなたたちは前衛の時点で解毒が間に合わず、全滅していた」


「なっ……」


「俺がポーションを増やしたのは、あなたたちの安全を『確保』しただけだ。それをノイズとしか認識できないのは、あなたの戦闘技能が、補給計画の精度に追いついていない証拠ですよ」


俺は視線を、壇上のギルドマスターへ移した。


「マスター。あなたは『数字は合っている』と言いましたね。ですが、それはただの願望です」


「貴様……! 私の計算に間違いがあるとでも言うのか!」


「ええ。致命的なレベルで」 俺は、手元の数値を読み上げた。


「先日の荷車事故。あなたの計算では『規定のオイル量』で足りるはずだった。ですが、あなたは王都の魔力回路が狂い、湿度が急激に下がっていた事実を見落としていた」


俺はパーカーのポケットから手を出し、空中に仮想の数式を描くように指を動かした。


「マニュアル通りに油を差せば、摩擦熱で軸が折れるのは当然の帰結です。……俺はその誤差を現場で修正していた。それを『横領』や『機密持ち出し』として処理したのは、あなただ」


会場の空気が、凍りつくように静まり返る。商人たちが、ハッとした顔で互いを見合わせた。


「あなたが守っていたのは『マニュアルの整合性』だ。ですが、俺が管理していたのは『王都の生存確率』です。……数字が合っていても、現実が壊れたら意味がない。そんなことも分からないんですか?」


「だ、黙れッ! この無能が……警備兵、つまみ出せ!!」


ギルドマスターが絶叫し、警備兵が動き出す。だが、俺は静かに椅子から立ち上がり、自分から出口へと歩き出した 。


「……。分かりました。出て行きます」


俺は扉の前で、一度だけ振り返った。


「——せいぜい、その『正しい数字』で腹を満たしてください」


俺が去った後の会場には、真っ赤な顔で震えるギルドマスターと、自分たちの足元が崩れる音をようやく聞き取った商人たちだけが残された。


勝負は、最初から決まっていた。 俺にとっては、ただの間違い探しだったのだから。

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