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第10話:現場は、もう限界だった

朝の市場は、ざわついていた。


「おい、今日も来てねえぞ!」

「はぁ!? 三日連続だろ!?」

「荷車が一本も入ってきてない!」


商人たちが怒鳴り合う。


店の前には人がいる。

だが――物が、ない。


「パンは!?」

「ねえ! パンはどこ!?」


母親が叫ぶ。


パン屋の親父は、空の棚を指差した。


「来ねえんだよ!!」

「小麦が!!」


「なんでだよ!?」

「昨日までは普通だったろ!?」


「知らねえよ!!」

「昨日までは“帳簿通り”に回ってたんだ!!」


そこに、別の商人が割って入る。


「通商路だ!」

「外から来る荷車が、止まってる!」


「は!?」

「通商路が止まったら終わりだろ!!」


「そうだよ!」

「飯も、道具も、素材も――」

「全部そこ通って来てんだぞ!?」


周囲が一気にざわめく。


「じゃあ、なんで止まったんだ!?」

「盗賊か!?」

「事故か!?」


誰も答えられない。


ただ一人、顔を青くした若い行商人が言った。


「……昨日、ギルドに聞いた」

「“問題はない”って」


「はぁ!?」

「何がだよ!!」


「帳簿が……」

「“基準通り”だから、だって」


一瞬、静まり返る。


次の瞬間。


「ふざけんな!!」

「帳簿で飯が食えるか!!」


怒号が飛ぶ。


「基準ってなんだよ!?」

「物が来ねえのが問題だろ!!」


「現場見ろよ!!」

「ここ!! ここ見ろって!!」


誰かが、地面を叩いた。


そのとき。


市場の端で、ひそひそ声が広がる。


「……そういえば」

「前に、帳簿いじってた人……」


「……ああ」

「数字、毎日書き換えてた人か」


「“基準値ゼロ”って言われて……」


誰も、その先を口にしない。


言った瞬間、

誰が悪いかが、はっきりしてしまうからだ。


「……じゃあ」

「今のこの地獄ってさ」


誰かが、ぽつりと呟く。


「帳簿が“正しい”せい、なのか?」


答えは出ない。


だが――

市場は、もう答えを出していた。


物がなく、

怒りが溜まり、

不満が溢れている。


数字は、合っている。


だからこそ、

現実だけが、壊れていた。


そしてこの歪みは、

次に――

“誰のせい”にされるのか。

市場が荒れてきました。

次は「責任の押し付け合い」が始まります。

嫌な方向に、ちゃんと進みます。

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