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 クリスティは俺の手の包帯を取り替え終えると、唐突に言った。

「それじゃあ次は夕食の準備、手伝ってくれるかしら?」

「ん? まあ構わんが、右手はまだこの通りだぞ」

「別にいいわよ」

「ならそれで、何をすればいいんだ?」

「とりあえず食材を取りに地下室へ行きましょ。それと、そこで使っている刃物とか見てもらうのもいいかもしれないわね」

 俺は刃物研ぎ職人じゃないんだがな。まあクリスティはそういうことには疎いってわけだ。

「んじゃあ、まあ、見てみるとしようか」

 それで灯りを持ち、二人で地下室に向かった。

「相変わらず、心地の悪い感じの場所だよな」

「そのうちに慣れるわ。必要なことだけさっと済ませて出ていくだけのことよ。それで、そこを見てちょうだい」

 そう言われて棚の中を見てみれば、大小さまざまな包丁、それにノコギリ状の刃物も収められてた。

 ただ、どれも血で黒っぽく汚れてる。使ったあとに拭いただけで置いてるようだ。

「一度全部きれいに洗ったほうがいい。だが、このとんでもない鋸刃は、こりゃさすがに俺には研げんぞ。なんに使うんだ?」

「腕とか足とか、骨ごと切るのに使ったわ。」

「なるほど」

 クリスティがここにある刃物を使い死体を解体する姿を想像してみるが、いまいちピンとこない感じだ。

「それよりカルバン、その大きな包丁を取ってちょうだい」

「ああ」

 俺は棚から出して彼女に手渡した。

「そういえば、どうやって作るのかしら? そういう刃物って」

「知らんな。鍛冶職人の知り合いでもいればよかったんだがな」

 クリスティが作業をするのを横目に、置かれてる肉を見る。

「にしてもここにある肉、この状態で置いてるのか?」

「そうよ」

「乾燥させたり燻製にもせず、塩漬けも無しでか? やろうと思えば腸詰め肉(ソーセージ)だって作れるだろ?」

「ええ、特別なことはなにもしていないの。でも腐ったりはしないわ。理由は分からないけど」

「なるほど。何かしらの魔法か魔術でも使われてんのか?」

「私には分からないわよ、魔法なんて。あとそれにソーセージを作るなんて器用なこともできないから。カルバンはできるの?」

「いや、作ってるのを見たことがあるだけだ」

 ただ、置いてある肉塊をみてると、どこか奇妙な印象を受ける。

「それと、訊いてもいいか?」

「なにかしら?」

「人間にしろ魔族にしろ、まあなんだっていいが、切り分けて皮を剥いで、こうやって吊るしてるわけだろ? 剥いだ皮はどこにやったんだ? それに頭も見当たらんが」

「死体の頭なら、勝手に消えたりするのよ。剝いだ皮や骨もそうよ」

 クリスティが言ったその言葉、少しばかし寒気がした。

「消えるだって?」

「ここで肉を解体をするのは見ての通りでしょ。それで、その翌日には頭とか、皮だけじゃないわよ。骨にしても内臓にしても、放っておくとなくなっちゃうことがあるんだから」

「クリスティ、それに恐怖を感じたことはないのか?」

「どうして?」

「つまるところ、この地下室には何か魔物が潜んでいるかもしれんということだぞ。まさか切り落とした頭が勝手に、一人で転がって行くわけじゃあるまい」

「そんなこと、そんなに考えたこともなかった」

 クリスティはあっけらかんとしてる。

「灯りを貸してくれ」

 俺は吊り下げてある肉塊のさらにその向こう側へ、灯りを掲げて目を凝らす。

 向かいには壁が見当たらない。暗闇が続いてる。それがどれくらいのものかは分からんが。

「まさかな……この地下室、どこまで続いてるんだ」

「カルバン、どういうこと?」

 クリスティも俺の横に来て、その暗闇に目を向ける。

「この奥だ、ずっと続いてるように見えるぜ」

「でも私、気にしたこともなかった……」

「ああ、俺だって今気づいたくらいだからな」

「ほんとうに、気がつかなかったわ。だってここで長居しようなんてしようとも思わなかったし、調べてみようとも考えなかった」

「まあ、常人ならそうだろう」

「それでカルバン、この奥に魔物かなにかが、ほんとうに住んでいるっていうの?」

「分からん。ただの憶測だ。ただ少なくとも俺たちが襲われるようなことにはなってないのをみるに、魔物なりバケモンがいるのだとしても、生きてるやつの肉には興味がないのかもしれん」

「ねえ、とりあえず上へ戻りましょうよ」

 クリスティは作業台に戻ると、切った肉塊を容器に入れた。

「これ持ってくれるかしら?」

「あいよ」

 それでなんとなく足早に、地下室を出て厨房に戻った。

「また肉のスープを作るのか?」

「そうね、どうしようかしら。カルバン、飽きてきたの?」

「まあ……な。たまには焼いた肉でもどうだ?」

「カルバンがするっていうなら、別に構わないけど」

「じゃあ決まりだ」

 それで、小さく燻ぶってる釜土に薪を足す。

「フライパンで焼くか? でかい塊のまま串焼きにしても悪くなかろう」

「それじゃあ両方は?」

 振り返ってみればクリスティは早速、棚からフライパンと長い鉄串を取り出してる。

「まあ、それもいいかもな」

「でも残念ね。調味料が沢山あれば良かったんだけど、味付けは単調になっちゃう」

 確かに、味付けだけでも幾らか種類があれば、飽きがこないってもんだが……

「しょうがあるまい。街に買いに出ることもできんからな」

 ともかく、肉を焼くとしよう。

 こりゃあ……大腿部か? 丸ごと焼くには、このボリュームはおあつらえ向きだ。

 そうして肉を焼きながら、俺はなんとなくクリスティに訊いた。

「ちなみにだが、この有難くも忌々しく思える食料が尽きる前に、屋敷の住人のために犠牲となる次の訪問者が来なかったら、そのときはどうだ? どうするつもりだ?」

「その時は、」クリスティは伏し目がちに答える。「その時に考えることにするわ」

「俺を殺せるか?」

「そんなこと……そんなの分からないわよ」

「あの日記……過去の住人は、仲間を殺したとか書いてあったな」

「カルバン、それならあなたは、もしものときに私のことは殺せるっていうの?」

「いや……どうだろうな。ただ人は追い詰められるとどうなるか、分かったもんじゃない。だが今の俺には、君を殺すことなんて想像もつかん」

「それなら、もうこの話はやめにして。せっかくこうして二人で食事の準備をしているのに、楽しい雰囲気が台無しって感じよ、まったく」

「ああ、すまない」

「でも、」

「なんだ?」

「もしもカルバンを殺さないといけないようなときは、なるべく苦しまないようにしてあげるわ」

 クリスティのその言い方、なんだか可笑しく思えた。

「いいだろう。もしもそうなった時は頼むぜ」

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