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スタロヴァヤ ―それは名もなき館―  作者: 菅原やくも


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17/22

 なぜか知らんが、教会のような場所にいる。

 さほど大きい場所じゃないな。それで俺は、後ろのほうの席に座ってる。

 壇上の手前に一人の獣人の姿がみえた。あの毛色……あれはクリスティか? いや、似ているが、どうやら男だ。

 ああ、分かったぞ。あいつがクリスティの兄、ノックスか。それからそいつはこっちを向いた。なんだ? 俺に対して険しい表情を向けてる。

 いつの間にかクリスティの姿も現れて、兄に対してなにか話しかける。だが何を言っているのか、まったく聞き取れん。

 俺は座ったまま、ぼんやりと二人の姿を眺めた。

 しばらくして、ノックスが俺のほうへ歩み寄ってきた。

 険しい顔のままだが、敵意があるわけじゃないようだ。クリスティは微笑みながらその後ろをついてくる。

 彼がすぐ傍まで来たとき、俺は立ち上がった。

 するとノックスが手を差し出してきた。握手を求めてるのか?

 俺も手を向ける。すると相手の表情も和らいだように見えた。


***


 窓から陽の光が差し込んでる。朝だ。もうだいぶ陽が昇ってら。

 なんだ? さっきのは……夢か?

 ベッドには俺一人。それで、昨晩のことを思い返した。

 クリスティ……昨夜のこと、まさかあれも夢だったか? いや……ベッドを確かめてみれば、彼女の茶っぽい色の毛が落ちてる。手の包帯にも、よく見れば幾らかくっついてる。

 こっちは夢じゃなかったな。

 久しぶりに心地よい目覚めの朝のような気がする。相変わらず傷は痛むがな。

 ともかくベッドから起きて服を着て、部屋を出る。

 クリスティは自分の部屋に戻ったんだろうか? いや、だからといって部屋のドアを叩く必要はあるまいな。

 とりあえず階段を降る。それで玄関を前にして試しに玄関扉を少し開けてるが、やはりあの漆黒の壁で塞がっている。

 まあいい。

 それで厨房にに行ってみれば、クリスティがちょうど外の井戸から水を汲んできたところだった。

「あ、カルバン、起きたのね」

「おはようさん。飯の準備でもしてるのか?」

「そうよ」

「なにか手伝おうか?」

「おバカさんね」

「は?」

「その怪我が治るまで、無理なんてしなくてもいいわよ」

「まあ、左手は問題なく使えるがな」

「それなら、お皿とかの準備くらいはお願いすることにしようかしら」

「仰せの通りで」

 俺は棚から深皿とカップを取り出し、机の上に並べる。

「それで、食事のメニューはどうだ?」

「相変わらずよ」

「だろうな」

 それからクリスティが手早く調理するのを、ただ黙って見つめる。

 飯は相変わらず“肉のスープ”ってわけだ。

「カルバン、」

 クリスティは調理しながら訊いてくる。

「私はいつも自分の部屋に持っていって食事をするけど、あなたはどう?」

「ん? ここでいいんじゃないか? 机もある、ちょうど椅子も二つあるじゃないか」

「私と一緒に、ってことかしら?」

「ああ、君が良ければな」

「それなら、そうすることにするわ」

 そしていよいよ、調理が終われば皿をクリスティに手渡す。それでスープの入った深皿を受け取る。

 材料のことを知っても、不思議とこうやって調理されてると、あまり嫌悪みたいなものは感じない。

 ただ、毎回こんな食事は飽きがくるってもんだ。

 スープ無しじゃ食えないくらい硬い黒パンを食っていた時のことを、懐かしく思えるなんて考えもしなかった。それに無性に甘い味のものも食いたい気分だ。砂糖なんかの超がつく贅沢なもんじゃなくてもいい。そうだ、果物……なんでもいいから、新鮮でみずみずしく甘さを感じる果物も食いたい。

「どうかしたの?」

「ん? なにがだ?」

「だって、お皿の中を凝視ているみたいだから。やっぱり人の肉なんて、料理としては気が進まないわよね」

「いや、まあ、そうじゃくてな。パンの味が懐かしいなと思ってな。それに甘い物が食いたいと思っただけだ。この肉は……まあ、こうして調理されちまえば、どうってことないかもな」

「そう? 私は、こんな食事なんて、しばらくはひどく気分が悪くなる思いをしたものよ」

「もしかすると、俺は自分が思ってるより適応力があるのかもしれん」

 ただし、こんな場所での生活に慣れたくはない気がするが。

 とにかくお互いに席について、料理に手をつける。ああ、食前の祈りなんか、ここじゃ必要もないな。するなら懺悔だ。作業だと思うことにする。

 クリスティも黙々と口にしているが、やはりどこか浮かないような感じに思える。まあいい、食事の間に会話はなかった。


***


 食後の片付けをしているクリスティに、俺は疑問に持ったことを訊いた。

「そういや、調理にしろお湯を沸かすにしろ、薪がいるだろう? そこの庭にはそんなもん見当たんかった気がするが、どこで手に入れてんだ?」

「そこの小さなドアを開けてごらんなさいよ」

 クリスティが示した壁のところには、幅が異様に狭い扉があった。

「これか」

 高さは普通の扉くらいだが、開けてみると下から天辺まで、手頃な大きさの薪がみっちりと積んである。

「こりゃ、なかなかいい収納スペースだな」

「それって使ったら使った分だけ、薪が勝手に補充されていくの」

「なんだそりゃ? なにかの魔法か?」

「分からないわ。何の魔法かまでは知らないわよ。便利なのは確かだけど」

「なにがしかの魔法には違いないさ」

 俺はふと思いつきで、積んである薪を崩すように全部出した。

「ちょっと! カルバンったら、やめてよもう」

 クリスティはムッとしたような顔を向けてる。

「いや、すまん。ちょっと中を確かめたかっただけだ」

 だがこの空間は、ひと一人が入るのがやっとくらいのものだ。なにか仕掛けや別の場所にでも繋がってるかと思ったが、違った。

「狭いな」

「そうよ。そんなこと、私だってとっくの前に確かめているんだから」

「それで、」俺は扉を閉めた。「これでまた補充されるわけか?」

 だが開けようとすると開かない。

「おい、開かなくなったぞ」

「あらあら、しばらくはお待ちになることね」

「どういうことだ?」

「補充にはどうやら時間がかかるみたいなの。そうね、一晩くらい待てば、また積みがってるはずよ」

「そうか」

「それと、これ」

 クリスティは足元に散らかっている薪を指さす。

「後片付け、ちゃんと自分でやってね」

「ああ、そうだな」

「私は、このあと洗濯仕事があるから、あとはよろしくね」

 そう言ってクリスティは厨房を出ていった。

「やれやれ、自分で蒔いた種は自分で片付けろってこった。まあ薪だがな」

 まあ、このくらいの量なら部屋の隅のところに積んでおくとするか。どうせ使うもんだ。

 木材について詳しい訳じゃないが、見るからに違う種類の薪が混在してる。手に持ったときの重みもまちまちで、そうだな……ああ、匂いも嗅いでみれば違うものがあるってのが分かる。

 薪は重いほうが長く燃えるし、軽いのはよく火が付く。

 分けて積んでおくとしよう。

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