一話 オリバー先生との出会い
人間でありながら、魔物と同じように魔力を持つオリバーは、小さい頃から人々から恐れられ、差別を受けていた。そのため、人が苦手で、普段は人里離れた山奥の小屋で生活を送っており、時々、街へ降りて人や家畜のための魔法薬などを売って、市場などで食料を調達するという生活を送っていた。そんなある日、橋の上で横たわる少女メイメルと出会う。彼女もまた、ドラゴンの末裔とされる民族で、差別や迫害に苦しんでいた。オリバーはメイメルを助手として雇い、魔法薬の調合や、人里に降りて商売をしたり、妖精や魔族との交流を通して、メイメルも魔法を学んでいく。そして、オリバーの夢を託されるようになる…
オリバー先生、あなたに賜った数々の魔法は今私を通してさまざまな人に伝わっています。先生が私にご教授してくださった日々は、かけがえのない思い出です。本当にありがとうございました。
メイメルより。
「オリバー、街へ住むつもりは無いのか?あんな山じゃ住みづらいだろう」
フロストヴィントランド王国という冬の長い北国。王都サント・ローゼベルクから少しはずれにある街の大きな木造の酒場で店主が黒い長髪の無精髭を蓄えた薄汚れたボロボロの黒いローブを纏った、オリバーという男に話しかけた。
「住むつもりなんてねぇよ。ここに来るのは酒と商売で十分だ。それに周りのやつも魔術師に住んで欲しく無いだろ。」
オリバーがそういうと、
「それはそうだが…」
店主も気まずそうな顔をした。
「いつものポーション持ってきたぞ。」
オリバーが瓶に入った灰色の苦しげな表情に見える模様が入った液体を店主に差し出した。
店主が受け取ると、その瓶に映る模様を怪訝な顔で眺めていると、オリバーが
「安心しろ。何も呪いはかけてない。その顔に見えるやつはただの模様だ。お前まで俺を疑う気か?」
というと、店主が慌てて
「いやいや…オリバー、お前とはずっと取引してきた間柄だから疑っちゃいないよ。」
「…とりあえずありがとうな。300イェルだ。」
店主がオリバーに硬貨を渡すと、オリバーはすぐに入り口へ向かった。
「じゃあまた来る。」
「次はいつ来る?」
「わからん…まぁ近いうちにな」
オリバーは300イェルを受け取り酒場を出た。
「食べ物買って帰るか。しばらく街へは来ないつもりだからな。」
オリバーが酒場を出てすぐの市場へ行くと街の人たちはオリバーを見て陰口を叩く。
「あれオリバーじゃない?」
「あのおじさんには近づいちゃダメだよ?変な魔法使うからね」
こういうのは無視するのが一番だ。いちいち相手にしてもキリがない。
オリバーは何も言い返すことなく店へ行った。
「20イェルだ。」
不機嫌そうな顔で店主がオリバーに言うと、オリバーは無言でお金を渡す。
芋とパンを買ったし、もう山へ帰るか…
山の方へ向かっていると、小川に架かる、木造の橋でボロボロの布を纏った赤毛の少女がうずくまっているのが目に留まる。
無視無視。ただでさえ金ないのに物乞いにかまったら金をせびられるから関わらないようにしよう…オリバーはそう思いながら恐る恐る物乞いの前を通り過ぎようとした。
すると、
「ん?!」
橋を通るオリバーのローブを少女が掴む。
「勘弁してくれよ。俺も金がねぇんだ」
困った顔でオリバーが言うと少女が顔を上げる
透き通った肌に緑の目をしていて、耳が少し尖っていた。
オリバーは、汚い身なりに似合わず美しい容姿をしていた少女に驚きつつも少女の手を払おうとする。
すると、少女が話し出す。
「…お腹…お腹空いたので少し…食べ物を分けてください。」
「…はぁ。仕方ねぇな」
オリバーは小さい袋から先ほどのパンを一つ取り出して少女に渡した。
「あ、ありがとうございます」
少女がパンを受け取ろうと手を出すと、手が酷くやけどしていることに気づく。
オリバーは驚いて尋ねた。
「おい、それどうしたんだよ?」
少女は何のことを言っているのか気づかずに首を傾げ
「それって…何ですか?」
と聞き返す。
「腕、その腕なんでそんなに真っ赤なんだ?」
少女は腕を見られてしまったのに気づいて、恥ずかしそうに腕を隠す。
「これは…ちょっと色々あって…」
と言うとオリバーは少女と同じ目線まで腰を下ろす。
「腕…出してみろ」
少女は首を横に振って拒否する
「いいから出してみろ」
「ぐちょぐちょで気持ち悪いですよ。だから嫌です」
「そんなので気持ち悪くならないから安心しろ。このままだと腕から腐って死んじまうぞ?」
オリバーが言うと少女が真剣な表情で見つめて躊躇いながらも腕を出した。
すると、オリバーがローブから紙を取り出して、その紙に向かって呪文を唱えた。
「curdeoposim」
そして、その紙を少女の腕の上に乗せると一瞬で少女の腕の皮膚に溶け込み、ただれていた腕が何の跡形もなく回復した。
「ええ?!魔法?」
少女が驚きながら自分の腕を見ている様子をみて、オリバーは少し笑みを浮かべた。