沈黙の仁王立ち(未来への兆し)
だが、みみずくは椅子から立ち上がった。言うべきことは言った。ここから先は、言葉の熱量よりも、姿勢の温度で伝える。
彼は椅子を背に一歩引き、静かに仁王立ちする。十秒。二十秒。ホログラムのノイズが消え、スタジオの空気だけが生々しく残る。
一分。アパレル社長が苦笑し、不動産オーナーが腕時計を外す。二分。飲食社長がコップの水を飲み干す。四分。ベンチャー社長の視線が、わずかに柔らかくなる。十五分。IT社長の表情がほどけ、「変なやつだ」と呟く。二時間――
司会が小さく息をついた。「ここまでやる志願者は初めてです」
みみずくはそこで、ようやく口を開いた。
「――以上です」
それだけ。拍手は起きない。代わりに、椅子の軋む音と、虎たちの小さな笑いが混じって、妙に温かい余韻が残った。
「俺は条件付きで百」ベンチャー社長が最初に言った。「三ヶ月で会員百名。できたら追加で二百」
「フード監修と引き換えに二百」飲食社長。「原価率、俺に握らせろ」
「機材スポンサーを確約できたら三百」IT社長。「導入前提の覚書を取ってこい」
「ブランド監修と制服デザインで百」アパレル社長。「“場所の顔”を作る」
残る不動産オーナーは、ゆっくりと頷いた。「近隣対策を手当てできたら――物件を紹介する」
数字は、熱ではなく設計で動いた。司会がまとめに入る。――この瞬間、遠く未来の“沈黙の神話”が、まだ言葉になる前のかたちで、静かに芽を出していた。