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爆発、復活、そして「くだしあ」

 カードは唐突に切られた。――爆発音。小さな火薬の破裂が、スタジオに乾いた衝撃を走らせる。白煙の向こうから現れたのは、金持ち父さんではなく、同じスーツを着た別人だった。


「どうも。……貧乏父さんです」


 間。飲食社長が吹き出し、ベンチャー社長が額を押さえる。


「おかね……くだしあ」


 言い切った声が妙に澄んでいて、場内が静まる。IT社長が困惑と興味の中間みたいな表情になる。


「それ、何語?」


「ブランド名です。“KUDASHIA”。お願いじゃなく、共感の合言葉。Tシャツ、グッズ、カフェ。みんなで支える参加型」


 アパレル社長が身を乗り出す。「デザインは? 原価は? 初期ロットは?」


「右手を落としてでも作ります」


 冗談のつもりだったのかもしれない。けれど、彼は本当に右の袖口をまくり、空の袖を振って見せた。もちろん手はある。だが、覚悟を示す演出は十分に伝わった。


「体を削ってブランドを作る、か……」IT社長の口元にわずかな笑み。「嫌いじゃない」


「俺は五十万」アパレル社長が先に動いた。「“KUDASHIA”の初期デザインに。条件は二つ。ひと月で百枚売ること。次に、ロゴの物語を三百字で言語化すること」


「……条件付きで俺も二百」飲食社長。「フードと組む。『くだしあバーガー』、原価計算は俺が見る」


 ベンチャー社長が腕を組む。「数字を見せられたら追加で考える。今は静観」


 そのとき、貧乏父さんはふと顔を上げ、控えめに笑った。


「ありがとうございます」


 たったそれだけで、さっきまでの薄い嘘っぽさが溶けた。司会が小さくうなずく。――だが、物語は直進しない。


「全部、落とします」


 彼はそう言って、立っていたプラットフォームからふいに膝をついた。張り詰めたテンションが、からりと切断される。アパレル社長が慌てて手を伸ばし、IT社長がブザーを押す。


「救急を――」


「大丈夫です。落としたのは、見栄です」


 笑いが返ってきた。拍手が続く。奇行と誠実のあわいに、お金は少しずつ流れ始める。だが――“積み上げ”はいつも“やり直し”に連れて行かれる。


 次のテロップに「ガチモード移行」の文字が走るまで、ほんの数分だった。

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