金の粉、椅子、そして最初の退室
「……なら見せます」
金持ち父さんはケースの底から、金色に光る細かな粉を一掬いした。まさか、と思う間もなく、天井へ撒き上げる。きらきらと舞う微粒子がライトを反射し、観覧席から思わず小さな歓声が漏れた。
「これが“体験”です。数字は、体験の再現性から生まれる」
アパレル社長は目を細めた。「演出としては満点。でも粉が落ちたあとの掃除代は誰が払う?」
「僕です」
「じゃあ、回収は?」
「……持ったら、増えます」
その瞬間、飲食社長が椅子をきしませて前のめりになり、次いで深く背にもたれた。「やっぱり博打だ。俺は降りる」
IT社長の指がテーブルを軽く叩くリズムに緊張が乗る。「ここは“令和の虎”。投資はエンタメじゃない」
金持ち父さんは咄嗟に椅子をつかみ、ぐっと持ち上げた。司会が慌てて制止する。「志願者、落ち着いてください!」
空中で椅子が止まる。彼はゆっくりと椅子を戻し、深く頭を下げた。
「失礼しました。取り乱しました」
ベンチャー社長が吐息を洩らす。「情熱は買う。だが、情熱に金は出さない。構造をくれ」
「配信と連動した“金の粉”のサブスクリプション。月額千円で金が降る瞬間にアクセスできる。スポンサーは……」
「スポンサーは?」IT社長の声が一段低くなる。
「これから探します」
「退室を検討する」IT社長が立ち上がりかけ、ふと座り直した。「いや、まだだ。次の一手を聞こう」
スタジオに、奇妙な“期待”の気配が灯った。金持ち父さんはわずかに笑い、今度は正面からカメラを見据えた。
「じゃあ――次のカードを切ります」