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第8話 エストリアの日常

 オズワルドがオーレルム領に来てから1ヶ月が経過した。エストリアの母ソフィアの手腕により、王都との細かな取り決めは既に完了している。

 名目上は辺境や魔物の生息域の視察と、将来に向けた学習期間という事になっている。


 流石に王家のお家騒動が原因だとは発表出来ないので、国民や他の貴族達への説明はその様な内容で発表された。

 事実を知っているのはオーレルム領の要所、要塞都市アルマーの住人と王城にいる僅かな上層部のみである。


 名目上とは言っても、実際にオズワルドはオーレルム領で暮らす未来を考え始めている。

 単純に土地柄が合うという理由もあるが、何よりもエストリアの存在が大きい。


「あ~その、エストリア。貴女は何をやっているんだ?」


「芋の収穫ですよ!」


「……貴族の令嬢は普通やらないと思うが」


 オーレルム家のお膝元である要塞都市アルマーの裏門から外に出ると、農村地域が広がっている。

 逆に正門は魔物達の巣、モアラ大森林へと向けられているので普段は閉じられたままだ。

 その為普段から人が出入りするのはこの裏門になる。そこから馬を少し走らせれば、広大な農地が広がっている。


 そんな農村にある畑で、エストリアは土で汚れるのも厭わず領民達と芋の収穫をしていた。

 流石に丸1ヶ月も襲撃が無ければ、護衛の人数もある程度は減る。元々王都から着いて来ていた護衛達6人以外に、オーレルム領から護衛に参加する人数は基本3人までとなっている。


 その為、エストリアが護衛の任務から外れる日もある。そんな日はいつも通りの生活を過ごすエストリアだが、大体はこうしてオズワルドが見に来ている。


「暖かい時期に収穫もしないで、普段何をするのです?」


「お茶会とか、そう言った諸々だろうな」


「お茶を飲むだけでは、食べていけませんよ?」


「それを俺に聞かれても困るのだが」


 エストリアはこの通り、典型的な田舎貴族であり王都の令嬢達とは考え方が違う。それがまたオズワルドには新鮮に映り好奇心を刺激された。

 どんな事をして過ごすのか、何を考えているのか、それがつい気になってしまう。


 王都で暮らす王族や貴族の生活しか知らなかった彼には、その全てが新しい発見に満ちていた。

 それに彼から見れば、少し年上で接し易い大人の女性である。お年頃の青年として、つい興味を引かれるのは仕方のない事だ。


 全く王都に出向かないから知られていないだけで、エストリアの容姿はかなりの上位に位置する。

 もし社交の場に出ていたら、婚約を申し出る者は多く居ただろう。もちろん2人の兄が猛烈に反対するのは目に見えているが。


「その、楽しいのか? 収穫というのは」


「ええ! 沢山採れた時は気分が良いですよ」


「ふむ……少し教えて貰っても良いだろうか?」


 突然の参加表明に、王都から来ている騎士達はざわめく。逆にオーレルム領の騎士達は、農業に関心を示す王子の姿に感心していた。

 王都住まいの貴族には、農業や平民をやたらと見下す者も居る。だが辺境で暮らす者達は、彼らの重要性を誰もが理解している。


 農村で働く平民達がいなければ、食料は簡単に尽きてしまう。場合によっては数ヶ月に渡って、魔物と戦わねばならない土地なのだ。

 農村の重要性が分からない筈もない。その重要な事柄について王族が知ろうというのだ、オーレルム領の人間からすれば大歓迎だ。


「先ずはこうやって周りを掘って」


「結構器用なのだな」


「これぐらいは誰でも出来ますよ」


 エストリアは芋掘りを実演して見せる。その姿をオズワルドは隣で観察していた。

 収穫された後の状態なら彼は何度も目にしているが、収穫をしている所は初めて見る。

 手慣れた作業で掘り起こされるところを見て、オズワルドは思わず感嘆していた。


 そんな彼の反応を見たエストリアは、気分を良くして次々と掘り出して見せた。

 少々やり過ぎ感も否めないが、作業がそれだけ進んだと考えれば悪くはない。例えそれが、常人の3倍ぐらい早いスピードで収穫していたとしても。


「オズワルド様もやってみますか?」


「構わないのか? それならば是非」


「先ず地中の芋を傷付けない様に周囲を掘って」


 収穫の補助をする為にエストリアはオズワルドに近づく。初めての作業に夢中だった彼は、少し気になっている女性がかなり近くに居る事にまだ気づいていない。


 エストリアの補助を受けながら、オズワルドは徐々に芋を掘り起こしていく。収穫だけならそれ程難しい作業ではない。

 農業初心者のオズワルドであっても、経験者がすぐ側に居れば簡単に掘り起こす事が出来た。

 成人前の17歳とは言え、オズワルドとて男の子だ。その成果を無邪気に喜んだ。


「おお! 採れたぞエストリア!」


「おめでとうございます!」


「っ!?」


 そしてオズワルドは漸く気付く、吐息が掛かる程近くにエストリアの顔があった事に。

 それだけ近くに居れば、彼女から漂う花の様な香りも感じられた。


 途端に女性としての魅力をオズワルドは強く感じさせられたが、エストリアは気にせず収穫した芋を籠に放り込んでいく。

 そしてかなりの重量がある筈の、収穫した芋が大量に入った籠を軽々とエストリアは運んで行った。

 未だ赤面したままのオズワルドは、訝しむ護衛達に向けて誤魔化す様に言い放った。


「俺も、もう少し鍛えようかな」

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