第41話 2人の同居生活
エストリアとオズワルドの婚約は、オズワルドが婿入りする形である。つまり王族が暮らすとは言っても、家主はエストリアの方である。
結婚すれば家名が変わるのはオズワルドの方になる。つまりオズワルド・レアル・ファルガスから、オズワルド・レアル・オーレルムに名が変わる。
王族である事は変わらないので、象徴である国名こそ残るものの立場的にはオーレルム家所属だ。
それ故に様々な手続きをせねばならない。暫くオズワルドはそれらに関する書類と格闘する事になる。
「エストリア様、そろそろお時間です」
「はい、分かりました」
「行ってらっしゃい、エストリア」
基本的に事務仕事が中心となるオズワルドは見送る立場である。逆に騎士として働くエストリアは、仕事の為に家から出ていく。
このスタイルになるのはオーレルム領の特徴と言えるだろう。オーレルム領ではエストリアを筆頭に、女性でも騎士になる家庭が多い。
他領ではあまりない形態であるのだが、オーレルム領では非常にポピュラーな形だ。
夫婦共に騎士である家庭もあるが、エストリア達の様に夫が文官系の職種である家庭も多く存在している。
それ以外でも執事と女性騎士が結婚した場合等は、領主の館近郊で暮らす夫が女性騎士を見送る事になる。
この様に妻の方が屋外へ出て、夫の方が屋内で働くのは国内では珍しい家庭の在り方だ。
「俺は暫く執務室にいるよ」
「畏まりました」
新居での生活に早くも順応しているオズワルドは、執務室で書類を片付けていく。これまで王子として、様々な公務を行って来た。
国内はもちろんの事、外交にも携わって来た。オーレルム家に婿入りすると決めた時から、その引継ぎを外交官達と行って来た。
王都で婚約を発表する頃には完全に引き継ぎを終えていたが、今でも分からない事に関して相談が届く。
今回の相談はヴェロニカの母国でもある、隣国のヴィクトラン王国の王子との会談に関するもの。
彼の持て成しをするのにオススメの献上品がないか問われている。
「あの方は好みが特殊だからな……せっかくだ、義姉上に相談しよう」
オズワルドに2人の義兄が出来ると同時に、2人の義姉が出来ている。王都に居るオーレルム家の次男カイルと、その妻アリアとは既に顔合わせが済んでいる。
ただ離れて暮らしている以上は、アリアとはまだそこまで深い関係ではない。
逆に同じオーレルム領で暮らすヴェロニカとは、頻繁に顔を合わせる関係で慣れが生まれている。
男4人兄弟であった為に、義姉が居る生活はオズワルドにとって新鮮であった。母親を亡くしているので、女性の親族が非常に少なかった。
それが一気に増えたので、貴重な女性の意見を得られる様になった。これは職務上結構なメリットである。
どうしても王子という立場上、侍女達には気を遣われてしまう。だが義姉達はそんな余計なフィルターが掛からないのだ。
「トール、すまないが少し出たい」
「それは構いませんが、どちらへ?」
「義姉上の所だ」
オズワルドが婿入りしても、変わらず護衛を務めてくれている騎士達。特に隊長を務めているトールは、家族ごとオーレルム領に移住している。
実に忠義に厚い男だった。オズワルドに着いて来た事で、この土地が気に入ったという理由もある。
確かに危険もある土地だが、基本的には非常に自然が豊かな土地だ。幼い子供を育てるには、のびのびと暮らせる点で王都よりも優れている。
それにここなら女性でも騎士になるのは難しくない。もし幼い娘が父親に憧れたとしても、夢を諦めさせる必要がない。
そんな理由もあって、トールとその妻が移住を決めるのは早かった。
「お待たせしましたオズワルド様、準備は出来ております」
「では皆、宜しく頼む」
「「「はっ!」」」
オズワルドを乗せた馬車とその護衛達が、館を出て要塞都市アルマーの街へと向かっていく。
新たな生活はそれなりに安定しており、エストリアとの日々を満喫出来ている。
仕事上の苦労はあるけれど、それは生きていく上で必要なもの。場合によってはその苦労さえも幸せの糧になる。
2人で、皆で、大きな壁を乗り越える一体感も時には良い刺激になってくれる。
辛い時期もあったけれど、エストリアのお陰でオズワルドは幸せな日々を送れている。
そしてオズワルドのお陰で、エストリアは毎日が楽しい。たまに作ってくれるオズワルドのご飯が元気をくれる。
幸せな2人の1日が過ぎるのはあっという間だ。各々の仕事が終わる頃には、再び新居で顔を合わせる。
先に戻っていたオズワルドが、帰宅してエストリアを出迎える。
「お帰りエストリア」
「ただいま帰りました!」
「丁度良い時間に帰って来たな。夕飯にしよう」
ただいまとお帰りを言い合う毎日が始まり、2人は充実していた。結婚式はまだ済んでいないが、既に生活は新婚気分だ。
王子と領主一族だからと、割り込んで結婚式をやる訳にはいかない。きちんと順番を守って、その日が来るのを待つのみだ。
司祭の折り合いが付き次第、2人の結婚式は行われる。先ずはオーレルム領内で領民達と、そして王都で王族の結婚式として大々的に行われる。
後はただそれだけを待つだけだった。その筈だった2人の結婚式は、思わぬ形で延期される事となる。




