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第4話 エストリアの両親

 第3王子が来訪したとの報告を受けたオーレルム家では、歓待の用意が急ピッチで進められた。

 意図した訳では無く、オズワルドに要塞都市を案内したがったエストリアの天然……もといファインプレーによりギリギリで準備は間に合った。


 オーレルム邸の来賓室には当主でありエストリアの父、オリバー・オーレルムが待機していた。彼はエストリアと同じく真っ赤な髪を短く切り揃えた美丈夫だ。

 不衛生さを感じさせない立派な口ヒゲの似合う45歳の厳つい男性だ。若い頃はさぞモテたであろう事が伺える渋みを感じさせる。


 そんなオリバーの隣には、腰まである美しい銀髪が特徴の女性が居た。彼女はソフィア・オーレルムという名の女性で、エストリアの母親である。

 元伯爵家の令嬢であり、社交界で名を馳せた聡明な女性でもある。やや脳筋、もとい武に頼りがちなオーレルム家を支える重要人物だ。

 エストリアの母親だと一目で分かるぐらいに、良く似た美貌の持ち主だ。


「すまないオーレルム伯、先に手紙は出していたのだが……」


「残念ながら、こちらには届いておりませぬな」


「やはり妨害されたのか。要らぬ迷惑を掛けてしまった様だ」


 エストリアに案内されて入室したオズワルドは、先ず謝罪から入った。どうやら先行して送った手紙がどうも届いていないらしい事に気がついたからだ。

 幾らご令嬢とは言え、王族の来訪をエストリアが知らなのはあまりにも不自然だ。普通に考えれば話ぐらいは知っている筈。


 それがどうにも話が噛み合わず、まさかと思えばこの事態。突然の来訪となってしまい迷惑を掛ける形となった。


「王族の来訪に迷惑などと。お気になさらず」


「オーレルム夫人、しかしそれは」


「魔物の番と比べれば、これくらい何ともありませんわ」


 実際この程度で揺らぐ程に、オーレルム家は軟弱ではない。それこそ一介のメイドであろうともしっかり対応しきる。

 いつ魔物の大群が攻めて来るか分からない土地だ。王子が急に訪れたぐらいで仕事が疎かになる事はないのだ。

 オズワルドとしては申し訳ない気持ちで一杯であったが、オーレルム家の方は大して気にして居なかった。


 むしろ意図的に伏せられていたらしい、王都の現状を知る事が出来て助かっているぐらいだ。国王が倒れたなど、国民が知れば大騒ぎになる。

 それ故に情報を平民に伏せるのはオーレルム夫妻も理解出来る。しかし辺境伯家にまで伏せる意味は無い。何やら誰かしらの意図があるのではと、オーレルム夫妻は訝しむ。


「ともかくオズワルド様、詳しくお聞かせ願えないだろうか?」


「ああ、それは構わない」


 エストリアにもした様に、国王が病に倒れてからの話をオズワルドは話す。エストリアは王都には顔を出さない令嬢なので、派閥ごとの詳しい話は割愛していた。

 しかしオーレルム夫妻はそうではない。エストリアに説明した時よりも、更に詳しい内容が知らされた。


 第1王子派の貴族や第2王子派の貴族の名前が複数出て来るが、エストリアは知らない名前ばかりだ。家名ぐらいは知っていても、現在の当主までは詳しくない。


 エストリアだけが理解出来ていない状態で話は進む。そんな時の対処法を、エストリアは良く理解している。

 話が分かっていなくとも、神妙な顔つきをしておけば良い。ただそれを実践するのみである。

 そしてそんな娘の姿を見て、母であるソフィアは頭を抱えたい気持ちで一杯だった。


「……ふむ。厄介な状況になりましたな」


「兄上達には苦言を呈したのだが、まるで聞く耳を持たない」


「困りましたわね」


 国王が倒れた以上は、本来王子同士が手を取り合うべきだ。しかし第1王子と第2王子は真っ向から対立。暗殺まで目論むほどの拗れ具合だ。


 王妃と宰相により何とか国の運営は出来ているが、この状態が長引くのは宜しくない。そして更に話をややこしくしているのが、周囲の人間達だ。

 特に大きいのは第1王子の母親である現王妃と、第2王子の母親である側室の対立である。側室からすれば、息子が王になれば立場は今より高くなる。その欲に駆られた結果、派閥争いが余計に激化した。


「あの方は昔からそういう方でしたわね」


「同じ王家の人間としては恥ずかしい限りだ」


「ともかく事情は分かりました。暫く我が領地に滞在されると良いでしょう」


 幾ら王族同士の争いとは言え、王子の命が狙われたとあってはオリバーも見過ごすわけにもいかない。オズワルドの滞在を認め、警備を強化する方向性で話を進める事になった。

 オーレルム家が守護するとなれば、普通ならば諦める所だ。しかし相手がどう出るかは分からない。まだ狙って来る可能性は考えられる。

 街道はもちろん領内の警戒は必要となるだろう。それらの話をより詳しく詰める為に、オリバーはエストリアに声を掛ける。


「エストリア、ルーカスを呼んで来てくれるか?」


「お兄様ですね、分かりました」


 エストリアは自身の兄であり次期当主、オーレルム家の長男ルーカス・オーレルムを呼ぶ為に来賓室を後にした。

 この時はまだオズワルドは知らなかった。ルーカスは妹が絡むと、やや……まあまあ? いや結構面倒臭い男である事を。

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