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第39話 兄と義兄

 一斉点検から数ヶ月の時間が経過し、そろそろエストリア達の新居が完成しようとしていた。

 婚約式から1年近く経過しており、2人の結婚式の準備も着々と進んでいる段階だ。

 そんな幸せな日々を送っていたオズワルドの下へ、ギリアム宰相から手紙が届いた。


 それは兄であり次期国王であるアランの、王族として目に余る行動にの数々が記されていた。

 幾ら苦言を呈しても改善されない為、オズワルドからも一言伝えて貰えないかという相談だ。


「アラン兄上……少々増長が過ぎるぞ」


「どうしたのですかオズワルド?」


「兄上が王都で好き放題をしているらしくてな」


 アランが我儘で自分勝手な所があるのはオズワルドも知っていた。媚び諂う者達で身の回りを固めている事も。

 だがそれがここ数ヶ月の間に相当な悪化をしているらしく、オズワルドの想像を遥かに超えてしまっている。

 次期国王と決まった事で落ち着くかと思いきや、まさかその真逆を行くとは彼には予想出来なかった。


 横暴な要求を無理やり通したり、行き過ぎたお金の使い方を繰り返したり。

 レアル王国が裕福だから良い様なものの、財政が苦しい国家であれば暴動が起きて不思議ではない。

 いずれにせよ弟としても王族としても、このまま放置は出来ない。


「そう悪い方には見えませんでしたが……」


「恐らく調子に乗ってしまったのだろう。アラン兄上の悪い所が出たのだ」


「難しいのですね、王子という立場も」


 王族は国で最も上位の立ち位置に居る。だからこそ増長しない様に自らを律する精神性が必要になるのだが。

 エストリアの言う様に、ある意味では最も難しい立場と言える。謙虚であり続けねばならず、同時に王族の威厳も保たねばならない。


 そういう意味ではオズワルドだと優しすぎるという欠点もある。現状で一番謙虚で真面目なのはオズワルドであるが、厳しさには少々欠けている。

 ではアランの方が向いているかと言えばそんな事はない。第4王子のウィリアムもオズワルドに近く向いていると言える。

 しかしまだ10歳と幼過ぎて国王には出来ない。レアル王国の王室は、中々難しい局面に立たされていた。


「兄上に向けて書簡を(したた)めよう」


「やあ可愛い妹よ! ここに居たんだね!」


「ルーカスお兄様? どうかしましたか?」


 居間で過ごしていた2人の前に、シスコ……もといオーレルム家長男であるルーカスが姿を現した。

 妙に高いテンションで入室して来たルーカスであったが、何か良い事でもあったのだろうか。

 普段の威厳ある騎士としての姿は何処かへ消え去っている。まあ大体エストリアの前ではこの通りであるからして、ある意味では通常通りでもある。


 そんな未だに妹離れが出来ていない残念なルーカスは先日26歳を迎えたばかりである。

 これで良いのか26歳の兄で次期領主。オーレルム領の未来は妻であるヴェロニカの手腕に掛かっている。


「実はヴェロニカの実家から果物が届いてね。一緒に食べないかい?」


「まあ! よろしいのですか?」


「……お、オズワルドはついでだからな!」


 子供の様な事を言い出すルーカスの姿を見て、オズワルドは悲しさを覚えた。それは兄としての差についてだ。

 自分の兄達は問題ばかり起こしているし、オズワルドへの兄としての優しさを見せない。

 幼い頃には確かにあった筈の、兄弟としての関係はもう滅茶苦茶である。


 しかしエストリアの兄達は、今も変わらず妹を大切にしている。そればかりか、妹の婚約者となったオズワルドすらも何かと気に掛けているのだ。

 素直になれないツンデレみたいな言動ではあるけれども。それでもそこには、彼なりの気遣いが含まれている。人の情が確かに込められているのだ。


「ルーカス殿は立派な兄で羨ましいですよ」


「む、褒めてもサービスはしないぞ」


「いえ、本心ですよ。俺の兄達とは全然違う……」


 珍しく暗い雰囲気を見せるオズワルドを見て、エストリアとルーカスは顔を見合わせる。

 2人はオズワルドの兄達の事を多少なりとも知って居るし、1年近くも前に起きた事件も全て把握している。

 兄弟間で暗殺者を仕向け合う生活が、兄妹間の仲が良好な2人には分からない。


 ルーカスは昔からずっとこの調子だったから、オズワルドの日々がどんなものであったかは想像もつかない。

 だから滅多な事は言えないし、慰めるのは非常に難しい。何も分かっていない癖に、下手な言葉は逆効果だろう。

 そうであるからこそ、ルーカスの答えは決まっている。


「ふ、ふん! ()()の素晴らしさを理解しているのは、()()としては殊勝で良い態度だ!」


「え?」


「だが! まだ剣の腕もまだまだ足りない! 認めたという意味ではないからな!」


 もう殆ど認めたと言っている様なものだが、それでも譲れぬ兄としての矜持がある。

 そしてそれは同時に、もう兄は2人だけでは無いという気遣いの表れ。婚約する前までは、オズワルドの兄はアランとギルバートのみ。


 しかし結婚してオーレルム家の人間になれば、ルーカスとカイルも義兄になる。だからわざわざ比較して気にする必要などないという事だ。

 だってこれからは家族想いの義兄が2人、オズワルドの人生を共に生きる事になるのだから。

 そんな兄と未来の夫の姿を見て、エストリアは優しい笑みを浮かべていた。

気遣い(ツンデレ)

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